キタムラeモール計画 ~カメラのキタムラ EC成長の道のり~

逸見光次郎の連載コラム「カメラのキタムラ EC成長の道のりと今後の展望」
第5回:「EC専門子会社ピックオンの統合と、キタムラEC事業部の発足」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7164/

第6回:「組織とWEBサイトを統合する時の基本思想」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7238/

お客さま視点と運用視点で、サイトとサービスを統合する

前回はピクチャリングオンライン社とキタムラ商品EC部ネット部隊を統合し、EC事業部を発足させた事をお話しました。組織が統合されて動き出したら、業務と関連するシステム、そして評価指標を整理する必要があります。

その中でサイト・システム統合は一番の課題でした。そこでまずは大枠で現状の整理を整理したのがこちらの図です。

その時のポイントは次の二つでした。
「お客さまから見て便利なキタムラサイトって何だろう?」
「運用するメンバーが使いやすいサイト・管理画面って?」

お客さま視点はもちろん、運用側も使いやすく、業務がラクな事もとても大事なのです。どんなに便利なサイトでも運用が大変だったら、維持出来ないからです。私はカメラ好き・写真好きではあるものの、何十年もカメラ販売・プリント製造をやってきたキタムラのプロパーにはかないません。でも商品が好きな消費者の視点、そしてこれまで各社で自らやってきたEC・店舗業務の経験が必ず役に立つと考えました。

骨子のレベルまで落とすと、こんな感じでしょうか。
【顧客利便性】
・新品でも中古でも、カメラでも家電でも、商品がカンタンに探せる事
・会員ログインして一度入ったらどのサービスでもつながっている事
・店舗受取でも宅配受取でもカンタンに選べる事

【運用利便性】
・商品マスタデータが登録/更新しやすく在庫情報が各サービスで共有されている事

【顧客利便性&運用利便性】
・電話・メールしなくてもマイページから注文商品の納期がちゃんと確認出来る事
・店頭ECタブレットも同じ情報でつながって使える事

意外とシンプルですよね。経営陣に対しても、もっと複雑で詳細な資料で説明しましたが、この図が一番わかりやすいと言われました。パッケージソフトから自社構築(スクラッチ)に切り替えたのは、パッケージが悪いという事ではなく、限界が来た、という事です。500億円近い注文を受けて、宅配・900店での店舗受取を制御し、在庫管理や物流連携も行う。マイページも便利で、様々な機能がある。そんなパッケージソフトはどこにもありません。

社長の浜田さんのたとえが一番好きなのですが「もうプレハブじゃダメなんだろ?ちゃんとした注文建築でネットの店を建てないと(笑)」

現場に任せる。経営陣に伝える

前回もお伝えしましたが
①業務設計が出来るSEを内製化する事 
②営業が詳細な要件定義をする事

この二つが重要な成功要因です。イオンのネットスーパーを作った時は、集まってきた800近い要件を整理し、システム要件につなぐ作業を最後は自ら孤独にこなしていました。だからその苦労も重要性も理解しています。

でもキタムラに来た時に決めた事は“スーパープレイヤーで抱え込まない!”でした。枠組み・フォーマットを決めて、進め方を指示したら、後はいかにプロパーの部下を信じて任せるか。それは現場業務に手を出さないという自分の恐怖心との戦いでもありました。

その要件定義は確か1,500項目近くになったと思います。私は付帯項目や枠組みを追加する位で、タタキはキタムラのECサイトも店舗営業もよく知るEC事業部 新横浜営業部長の柳沢さんと、旧ピクチャリングオンライン社で外部モール・物流・コールセンターを良く知る高松営業部長の伊東さんにお願いしました。そうして出来上がってきた営業要件項目を3日間かけてレビューしました。

メンバーはEC事業部の主だったメンバー、情報システム部の担当SEたち、外部の開発会社SEたち。一日4~6時間位やってたのではないかと思います。一項目ずつ営業とシステム双方で確認し、不明点はその場で会話、もしくは説明資料を別途用意する。この双方対話しながら要件を詰めていく文化はここで固まってきたと思います。その後もどんどん各メンバーが進めていき、私はだいたいの進捗を聞いては経営陣に報告する位の仕事しかしていませんでしたね。
 
経営陣にはむずかしい報告をする必要は無いのです。

図のように、今どこの開発段階にいるのか、それがわかればいいのです。サーバースペックや、開発内容、バグ取りの難しさを詳細に聞かされても困るのです。それよりもいつ稼動し始めて売上・利益に貢献するか? あといくら使うのか? それを正直に伝えて、問題があっても着実に進んでいて、最小限の遅れで稼動させると説明し続ける事が重要です。それがわかれば経営陣は安心し、余計な心配から起きる“よかれとの思いで”口を挟んできたりする事もなくなります。双方ハッピーになるのです。“面倒だから説明しない”が一番ダメですよね。
 
2012年に経営陣に説明した稼動開始日は2013年6月末予定でしたが、実際は8月20日になりました。その日の私の仕事は、夜間リリースの為に頑張っているSEチームに出前のピザを取る事とお菓子の差し入れ(笑)、そしてGOするか / 切り戻しするか(トラブルの可能性がある場合に、リリースをやめて元に戻す事)の判断だけでした。こんなに手を動かさないリリースも初めてでしたね。差し入れは自分も代々各社の上司にして頂いた事なので、お願いされた訳ではなく勝手に、です(笑)
 
リリース後はいくつかの機能が不十分だったり、サイトが重かったり、いろいろなトラブルはあったものの、皆が頑張って半年かけて調整・整理をしてくれて、今では2週間に一回の定期メンテナンスとサービス追加でますます改善が進み、常に便利になり続けているサイトになりました。

(第八回へ続く)

(参考)当時のニュースリリース
http://www.kitamura.co.jp/news/2013/20130821_01.html