これが最新!中国越境ECの「今」を徹底調査&中国人スタッフの分析で見える「リアル」
一時の熱狂的な中国越境ECブームは落ち着きを見せている。それは背伸びをしてブームに乗っていた客層が離脱し、本当に日本の商品を求める客層にユーザーが絞られてきたことでもあると、株式会社ヴァリューズのマーケティングアドバイザー、賈 韶蕾(か しょうらい)氏は言う。実際に日本の商品を購入している中国人ユーザーは"今"、どこで、どんなきっかけで買い物をしているのだろうか。同社執行役員の子安 亜紀子氏と中国人のマインドを知る賈氏が、最新のアンケート結果から中国の「リアル」を読み解く。
日本の商品をどこで購入しているのか--今までになかった調査結果
——中国人が越境ECをどう使っているのかわかる調査結果が出たと聞きました。
子安 直近1年以内に日本商品の越境ECを利用した方たちに向けた調査です。どのモールで購入しているかという調査はよくありますが、それを「日本」に絞った調査は見当たらず、今回調査を実施することにしました。
賈 アンケート回答者の7割近くが女性で、女性が越境ECでの買い物を好んでいる様子がわかります。
意外だったのは、回答者の居住地域として1級都市は約半数で予想よりも少なかったこと。内陸の方たちも経済力が上がってきていて、海外の商品を求めるようになっているのだと思います。
子安 中国の越境EC全体のランキングでは、トップ3が天猫(以下、T-mall)、京東全球購(以下、JD)、網易考拉(以下、kaola)、続いて唯品会(以下、vip)というデータは目にします。それが地域を「日本」に限定すると、Amazon.co.jp(アマゾンジャパン)と小紅書(以下、RED)が上位にランクインしてきています。
賈 REDはコスメに強く、化粧品を買う多くの中国人が利用しています。日本の商品は化粧品や日用品のジャンルが人気なので、REDが上位に入ってきたのでしょう。購入商品カテゴリーごとのランキングを見ても、REDが「化粧品・コスメ」で4位に入っています。
今回の調査で特徴的だったのが蘇寧(以下、suning)です。suningは中国全土のどこにでもある、ビックカメラやヨドバシカメラのような家電量販店なので、「家電」カテゴリーに強いのは予想通り。しかし、日用品についても他のモールより上位にきているのは意外でした。
——越境ECを利用する際、何が購入のきっかけとなっているのでしょうか?
賈 全体的にプロモーション系の影響は低く、この結果は肌感とは近い数値です。少し前までは、「なにもプロモーションしていないのに有名人がクチコミしたおかげで急に売れた」という話がありましたが、「プロモーションでクチコミを起こして成功した」という事例はほぼ聞いたことがありません。重視されているのは信頼できる人の口コミ。ECサイト内の一般ユーザーの口コミや、家族・親戚といった知り合いからのおすすめが購入につながっているのが見て取れます。
子安 中国で越境ECを展開するにあたり「とりあえずKOLでクチコミを」というマーケッターが多くいますが、それだけでは購入につながらいないということがよくわかる結果です。「有名人が使っているから」というのも購入動機になっていない。中国人は日本人よりも口コミを重視しますが、広告目的の口コミがあるのは周知されていて、信用されていません。
賈 グラフを見ると、「以前訪日した時に購入した」というきっかけの割合が大きいのがわかりますよね。こういうリピーターをどんどん増やしていくのがいい方法ではないかと思います。
調査とマーケティングから考える、中国という巨大マーケットでの闘い方
——購入する場所が違っても、越境EC利用者はインバウンドのリピーターなんですね。
子安 インバウンドと越境ECは、2つのテーマに見えても実は同じ。購入している方は同じなので。「インバウンドは日本国内の事業部、越境ECは海外の事業部が担当している」という企業が多いですが、施策が分断してしまい、もったいない状況になっているように思います。インバウンドの売り上げが越境ECに効くと分かれば、プロモーションのやり方も変わってきますよね。難しいと思いますが、マーケティング施策として一貫して考える体制が作れると、相乗効果が生まれてくると思います。
賈 インバウンドで来日している方たちが帰国したら、口コミとして相当なボリュームになるので使わない手はないと思います。実際は、来日する前にある程度の買い物リストを作るので、鶏と卵のような関係で、インバウンドの効果が越境ECの売上を高め、越境ECでの売れ行きや評判がインバウンドの売上を高める、といった構造になっていると思います。
子安 中国で越境ECをはじめる多くの日本企業は、調査やマーケティングをするよりもプロモーションに投下する傾向にあります。しかしそうではなく、市場とユーザーの特性をきちんと理解することからはじめた方がいいというのも、このデータからお伝えしたい点です。
賈 越境ECを始めたばかりの企業は、あまり大きな予算や人員を中国に割いていないという事情もあります。予算が少ないから「まずプロモーション」と考えるのは仕方ない部分もある。でも、こんなにも大きなマーケットを少ない人員と予算で対応できると思いますか? マーケティングに本気で取り組むのであれば、ブランドの認知や中国人の嗜好など、戦略づくりのための基礎調査が必要でしょう。
——出品先を選定するにあたって、各モールにどんな特徴があるのでしょうか?
賈 調査結果から、suningとREDは口コミが信用されていて、中国人の間でブランドイメージのいいモールと言えます。suningは身近なところに実店舗があるという安心感があるのでしょう。ファッションカテゴリーにも強く、ユーザーの利用頻度が高めという傾向もあります。
REDはもともと口コミのプラットフォームだったので、口コミに強いのは納得。化粧品やコスメなど、女性ユーザーを狙うEC事業者には、REDがおすすめかもしれません。
kaolaは信頼できるサイトとしてポイントが高くなっています。メーカーとの直接取引で安く、商品も本物だという信用と、親会社はポータル、メールサービス、ゲーム、オンラインミュージック等を提供するTOPインターネットグループ会社なので、グループ全体のイメージがいいのだと思います。
子安 買い物をする際、日本人は検索エンジンで関連ワードから商品を探しますが、中国人ははじめからモールで商品を指名して口コミなどを検索します。ですから、どのモールに重点的に出品すべきかが非常に重要になります。
賈 まずは中国人に見つけてもらい、「いいな」と思ってもらわないとはじまりませんから。
子安 日本のマーケッターが国内のマーケティングをするときは、きちんと市場を調べ、仮説を立てて戦略を考えます。しかし中国においては、プロモーション業者の提案を鵜呑みにしたり、「なんとなく」という雰囲気でやってしまっていることが多い。本当はもっと本質的なことをやらなければならないのです。
自社商品がどれくらいの認知度なのか、競合商品はどうか、どういう広告を打ったら上がるのか、という普通のことをやって欲しい。国民性の違いはあっても、正しいマーケティングのプロセスを踏めば、中国も日本も同じです。
中国人スタッフが肌で感じる、中国に流れる空気の変化。
——“今”の中国の市場の動向を教えてください。
賈 少し前まで中国ではチェーン店が人気でした。しかし最近では、こだわりのある個人店の人気が高まってきています。中国人の中に「みんなと被りたくない」という意識が高まってきているのです。みんなが知っているブランドではなく誰も知らないニッチなお店、流行前の商品が求められています。
そういった流れの中、日本の職人の「手作り品」の人気がジワジワと高まってきています。「わかる人にだけわかる」という伝統工芸品などです。そういったジャンルは地方の職人の技術をきちんとアピールしていくことで、越境ECで大きく需要が広がる可能性があると思います。