オムニチャネルの先駆者「ザ・ボディショップ」。EC成長の秘訣はシームレスな環境づくり

利根川 舞

「ザ・ボディショップ」株式会社イオンフォレスト
左:取締役 営業本部長 小坂 亨子氏
右:営業本部 デジタルセールス部 斉藤 正賢氏

日本において、全国に約110舗を持ち、オンラインでも広く展開をしている英国発の自然派化粧品ブランド「ザ・ボディショップ」。ザ・ボディショップでは2005年からECに取り組み、2013年にはオンラインとオフラインの顧客情報を一元化するなど、業界の中でも先進的な取り組みを行ってきた。
今回、ザ・ボディショップの考える”オムニチャネル”について、ザ・ボディショップを運営する株式会社イオンフォレスト 取締役 営業本部長 小坂 亨子氏と営業本部 デジタルセールス部 斉藤 正賢氏に話を伺った。

全国に約110店舗を展開するザ・ボディショップのEC戦略

全国に約110店舗を展開するザ・ボディショップのEC戦略ザ・ボディショップのECサイト( http://www.the-body-shop.co.jp/shop/

ーー「ザ・ボディショップ」について教えてください。

小坂 ザ・ボディショップは、1976年にイギリスでオープンした自然派化粧品ブランドです。「企業は世界をよくする力がある」をブランド理念に掲げ、ビジネスを通して社会変革を追及することを目指しています。日本では1990年に表参道に第一号店をオープン。現在は全国で約110店舗展開しています。また、実店舗だけでなく、2005年からはECにも力を入れ、自社サイトの他Wowma!、Yahoo!ショッピング、Amazon、楽天市場に出店中です。

ECを始めた当初は、担当者ひとりで細々とやっていたと聞いています。しかし、その当時からECをどんどん大きくしようという考えを持ち、売上を伸ばしてきました。私が入社した当時、ECサイトでの売上は全体の売上の1%も無かったのですが、現在では弊社の売上の10%がECサイトでの売上です。

斉藤 お客様がECにシフトする前からECサイトを開店し、お客様を受け入れる準備ができていたのも数字を伸ばしてきた大きな要因です。お客様の購入チャネルがシフトしてからECサイトを始めるのと、シフトしたらすでにそこにECサイトがあるのでは、大きく意味が変わってくると思います。

ーー2005年ですと比較的早い段階でのスタートだと思いますが、何か変化はありますか?

小坂 つい数年前まではスマートフォンとパソコンからの購入が半々でしたが、あっという間にパソコンが減り、今では7割がスマートフォンからの流入です。そのため、スマートフォンを意識したサイト作りを意識しています。

斉藤 普段仕事をしている時は目の前にパソコンがありますから、サイトをチェックする時もパソコンで見がちだと思いますが、お客様の環境に合わせてチェックすることを意識付けています。ソリューションベンダー様もたまにパソコンの画面でレビュー画面を表示されるのですが、「スマホの画面で見せてください」って言うこともよくありますね。

ECの強みを生かすオムニチャネル

ーー実店舗も約110店舗、オンラインでも自社サイトと複数のモールに出店されていますが、オムニチャネルという意味ではどのような取り組みをされていますか?

小坂 弊社では業界の中でも先駆けて、2013年の段階でデータベースの統合し、購入履歴の確認、ポイントの共通化、会員特典の共通化などサービス面も統一しています。もともとは違うシステムを使っていたため、名寄せをしたりとかなり大変な作業でした。しかし、データベースを一元化したことにより、オンラインとオフラインどちらでも購入してくださるような優良顧客の存在が見えるようになりました。

斉藤 統合できてしまえば、オムニチャネルをやる上での土台は出来てしまいますからね。最近、リアル店舗は体験の場と言われていますけど、まさにそれができるのが実店舗の強みです。また、繰り返し購入するものはわざわざ実店舗で購入せずとも、ECサイトで簡単に購入して欲しい。新しい商品や使ったことのない商品への不安は実店舗で体験して、不安を取り除いて購入していただきたいのです。

小坂 とはいえ、決まったものをECサイトで購入するだけでは、ECで商品を購入する楽しみがなくなってしまいます。そのため、弊社のECサイトではオンラインで購入する楽しみを提供出来るようにしています。オンラインで購入する楽しみを演出できなければ、なかなかオンラインで購入してくださる人は増えないでしょうから。

例えば、福袋のトートバッグはオンライン限定のカラーを用意したり、非売品のアイテムをプレゼントするなど、工夫をしています。また、ザ・ボディショップを好きな方は新しい香りが出るとシリーズ全てを揃えたいという方が多いんです。しかし、全部実店舗で買ったら重いですからECサイトでは同じ香りのシリーズをすべてをセットにして販売しています。

また、弊社の商品はギフトニーズで使っていただくケースも多いと思います。一番小さいシャワージェルを友達に配ったり、パーティーのプチギフトとして配りたいというニーズがあるのです。そのため、商品一つ一つをパッケージして、すぐにでも配れるようなものを用意しています。その他にも、いろいろなシーンに合わせたギフトの品揃えや工夫をしています。

斉藤 あとは、ECの場合は荷物を受け取った時が、リアルで初めての顧客接点です。そのため、当然ロゴ入りの段ボールを使ったり、ヒノキの間伐材で作られた緩衝材を使用するなど環境に配慮した資材を導入しています。オンラインで購入した時にも「ザ・ボディショップで購入したんだ」と楽しんでもらえるようにしています。

繁忙期にはEC担当者も実店舗へ

繁忙期にはEC担当者も実店舗へ

ーーオムニチャネル展開されている企業さんの中では、オンラインとオフライン担当者の評価制度が課題として挙げられていますが、イオンフォレストさんではどのような課題がありますか?

小坂 あまり他所では聞かない話ですが、私が営業本部の責任者として、全国約110店舗のストアセールス部とECサイトを運営するデジタルセールス部を統括しています。大体のEC事業者様は部署が分かれていて、お互い牽制し合っているなんて話も聞きますが、弊社ではむしろ協業するような体制になっています。

もちろん、弊社も実店舗メインで始まっているため、評価制度は気をつけていかなければならないと思っています。相互送客に対する評価などはこれから仕組み作りをしていくところです。また、弊社ではクリスマスやホワイトデーなどの繁忙期には本部社員も必ず店舗販売の応援に入るんです。その場でお客様のニーズを知るだけでなく、店員同士のコミュニケーションの場にもなっています。私も斉藤も応援に行くんですよ。

斉藤 数字では見えない部分を持って帰ってきて、それをサイトに活かせるのは楽しいですよね。それに、一度一緒に仕事をすると、売上の取り合いなんてしないと思うんです。そういう意味でも、実店舗とのつながりを作っていくことは大切ですよね。

小坂 もともと実店舗で店長をやっていた社員が応援に入ることもある一方で、普段は社内で黙々と仕事をしている社員が結構売上をあげたりするんですよ。

挑戦し続けるザ・ボディショップ

ーー今後どのようにECサイトを成長させていきたいですか?

小坂 弊社の売上はザ・ボディショップ製品を長く使っていただいている方に強く支えられています。今後の課題はいかにこのようなお客様を増やしていくか、お客様に支持していただける製品はもちろん、コミュニケーションのあり方も見直しが必要な時期が来ていると考えています。

斉藤 今はLINE@やメールマガジン、SNSなど我々からのプッシュ型の施策が中心になっています。今後はお客様の発信した情報を弊社で拡散したり、我々をハブとしてユーザーコミュニティを作るなど、お客様にもっと楽しんでいただくにはどうしたら良いのかということを考えていきたいですね。

また、現在自社サイトのパッケージ提供元であるecbeing社と協力してサイトの改善を進めています。レコメンドやアプリなど現在導入済みソリューションの見直し、サイト内検索エンジンやDMPなど新規ソリューションの導入、進化の早い業界なのでこれだけに留まらず、様々なことに挑戦しお客様に永く愛されるサイトにしていきたいと思います。

ーー今後の展望などがありましたら、教えてください。

斉藤 現在、モノからコトの時代と言われていますが、これは二分化されるものではなく私たちはモノを買うときも含めてコトだと考えています。例えば店頭でハンドクリームを試していただく、その時にご購入いただかなくても「いい香りだな」「今日は手がいつもよりすべすべしている」、当社の製品をお試しいただいた後、嬉しさを感じていただける、その嬉しさをもう一度体験したい時には我々のオンライン部隊がいますから、すぐにご購入していただけます。

お客様がオンラインとオフラインを意識せずに買うことができて、我々もお客様がいる場所に商品を届けることを大事にしていけば、我々はさらに成長できると思っています。

小坂 お客様はお買い物をされる時、オンライン・オフラインを意識していません。私たち事業者もオンライン・オフラインで区切るのではなくザ・ボディショップとしてお客様をおもてなしする気持ちをどのように持つか、伝えるかを考え行動していきたいと思います。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

ECを活用した地方創生に注目しています!
EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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