リアルジャパンプロジェクト。伝統品を全て買い取るECモール
伝統産業は、日本が世界に誇れる産業である。数百年に渡って洗練されてきた職人の技術は多くの人の日常生活を支えてきた。しかし2019年の今、日常的に伝統産業品を好み、利用している人は多くないだろう。実際に伝統産業に従事する人は約30年間で4分の1以下、生産額は5分の1以下と厳しい状況だ。
伝統産業の需要が下がる今、伝統産業職人から商品を委託ではなく、買い取って販売しているECモールがあるのをご存知だろうか。買取というリスクをなぜ背負うのか、そして需要が低いようにも見える伝統産業をなぜ取り扱っているのか、ECモール『リアルジャパンプロジェクト』を運営している河内氏にインタビューを行なった。
温泉地に訪れたことが起業の転機に
ーーなぜリアルジャパンプロジェクトを発足されたのですか?
河内氏 :前職では、外資のアパレル企業でPR業務に携わっていました。その会社は休暇が2ヶ月位ある会社なので、休みの時期はよく旅行に行っていました。
その時にたまたま訪れた宮城県の鳴子温泉でのことです。コケシが有名な地域なのですが、ふと温泉街のお土産屋さんがどのように成立しているのか気になって。
ちょうど宿も長めに取っていましたし、正直やることもなくて笑。毎日温泉に浸かりながらお土産屋さんを観察してたんです。
それでもわからなかったんですよね。どうしても人が多いとは思えない。そこで店主に聞いちゃったんです。こんな場所でお土産屋さんをやってて大変じゃないかって。
その時に店主の方が教えてくれたことが、「伝統工芸品は作っても売れない、売る場所・紹介する場所もない」という悩みでした。だから唯一、人が少しでも訪れて、商品に興味を持ってくれる場所である観光地のお土産屋さんを営んでいたんです。当時私も気になって調べてみたんですけど確かに伝統工芸品を紹介しているサイトとかはなかったんですよね。
なら自分で作ってみたいなと思ったのが「リアルジャパンプロジェクト」発足のきっかけです。元々、アパレル商品のPRを行なっていたので商品の魅せ方などは少し知見がありましたし、タイミングよく、働いていた会社がECサイトの導入を会社で検討していたタイミングだったので、独立して伝統産業の魅力をECで発信しようと思ったんです。
ーー河内さんが感じる伝統産業の魅力はどんなところですか?
河内:色々ありますよね。素敵な商品はたくさんありますし。それでもやっぱり職人さんは外せないですよね。手作りでミリ単位の調整など、あれほどまでのクオリティの商品を作るのは並大抵のことではありません。長い年月の間、技術を研鑽したからこそ商品へのこだわりは物凄いですし、紡いできた産業の歴史に誇りを持っています。だからこだわりのある職人さんのお手伝いはとてもやりがいがあります。
少しでも多くの人に、商品に対する職人さんのこだわりを知ってもらいたいので、リアルジャパンプロジェクトのサイトも職人の顔が見えるような作りを心がけています。きっと伝統産業に興味を持つ人って商品の背景にいる職人さんのことも知りたいと思うんですよね。
ーー河内さんは「会社と」というよりは、職人さんとお仕事をされている印象ですね。
河内:実際自分でも「職人さんと仕事をしている」という意識は強いと思っています。その為、リアルジャパンプロジェクトの形態はECモールですけど、商品は全て買い取っています。
一般的なECモールさんは店舗からの「商品委託」ですよね。モール側にはデメリットがないので、その分利益もあると思います。なのでネットショップが「売るだけ」しか考えないならば集客力の強いAmazonや楽天などに委託をしたほうがいいですよね。
でも私はあくまでも職人と一緒に仕事をしているというこだわりを持っています。モール側もリスクを抱え、一緒に商品を打ち出していく。受注数も爆発的に増えなくてもいいんです。細くても、「売れ続ける」ことを一つ目標にしながらリアルジャパンプロジェクトの運営は行なっています。
それに「売るだけ」には申し訳ないけど興味があまりないんです。商品開発からサイト上での見せ方など職人さんと一緒考えることが楽しいですし、人と仕事をしている意義はこういう所にあるんだと思っています。
ーー具体的には職人さんとどんな関係を築いていますか?
河内:モールを立ち上げた当初からお付き合いのある山本勝之助商店さんなどは正月の餅つき大会に呼ばれたりしますね笑。親戚みたいですよね。
他の職人さんにも家に泊めていただいたりすることも多いですね。中々ないと思うんですよ。お取引先の家に泊まることって。こういう所が人と仕事をする醍醐味ですよね。
ーー伝統産業と聞くと多くの人が、陶磁器や織物、仏具など美術的価値のある商品を思い浮かべる人が多いと思います。もちろん、有田焼など高価な器は日本が世界に誇る伝統的地場産業ですが、日用品としては購入しないと思います。しかし、リアルジャパンプロジェクトに掲載されている商品は日用品として利用できるものが多いですよね。
河内:そうですね。リアルジャパンプロジェクトには美術品ではなく、普段使いができる商品を取り扱っています。伝統産業といっても様々な形態・職種があります。昔は下請けで着色業しかしていなかった工房の着色技術を活かしたインテリア商品や、曲げ物の技術を活かした冷めにくいわっぱなど、日本の伝統産業技術を身近に感じてもらえる商品ってとても多いんですよね。
確かに使い安さのレベルの話でいうと、箒より掃除機、土鍋より炊飯器、銅フライパンよりテフロンフライパンの方が安価だったり、使いやすかったりするのかもしれません。でも風情のある生活を送りたい人や、キッチン用品にこだわりを持ちたい人って少なからずいるんですよね。そのこだわりが伝統産業に向いている人は時間もお金も投資します。
実際に人気の商品には2年待ちの商品もあります。欲しい人は待つんですよね。ただやはり使い勝手が必ずしもいい訳ではないのでそこはサイト上で注意喚起をするようにはしています。正しい使い方であれば丈夫なので長持ちはしますが、誤った使い方をしてしまうと案外脆かったりもするんです。こういう細かい点でもECモールとして販売するうえでしっかりと説明していかなければいけないと思っています。
ーー実際に人気の商品はどのように使われているのでしょう。
河内:例えば箒ですが、掃除機に比べて音が出ませんよね。そのため小さなお子さんがいらっしゃるご家庭や、大きな音に敏感なペットを飼育されている方などに人気です。もちろんただの箒ではなく、伝統技術を活用しています。油分の多い棕櫚という材質のため水分に強く、耐久性は非常に高いです。また棕櫚(しゅろ)という材質は埃や毛などの細かいゴミをくっつけることができますので、舞い上がりを気にせずに掃除が可能です。
他には、銅製の卵焼きフライパンは優れた熱伝導性と、高い保温性を誇ることから主婦にはもちろん、料理人の方も愛用されています。
伝統品は使ってナンボだと思います。使わないと本当の良さは伝わりませんが、使っていただければ多くの人が認めてくれる品質をどの商品も持っています。
その魅力を私達、リアルジャパンプロジェクトを通して伝えていきたいですね。
「日本の”ものづくり”をもっと身近に」するために職人に寄り添う
伝統産業の課題の一つに経営ノウハウがないことが挙げられる。以前までは問屋に言われていた商品を分業制で製作することにより、産地全体がうまく回っていた。鋳造、研磨、着色など業務によってプロフェッショナルが携わることで高品質の製品を完成させていたのだ。
しかし、需要減少により、問屋からの受注が減ると商品製作に携わる全ての工房に注文が入らなくなってしまう。技術活用により、面白い商品を製作しても売り方のノウハウがない。そんな課題をどこの産地も抱えている。
そのような伝統産業の課題を、ECという現代に則した形で売り出しているリアルジャパンプロジェクト。「売るだけ」になってしまいがちのECモールとは違い、職人の顔を見せることを意識し、委託販売ではなく全て買取販売という仕組みを構築している。
このように真摯に職人と向き合う人がECモールを運営していることは伝統産業の業界にとって大きな意味がある。
買取のため販売手数料を職人側は負担しない、安売りはしないなど、今までECサイトを運営したことのない職人でも安心して任せられる環境が整っているからだ。
このような環境を整えているのも河内氏の「人と仕事をする」スタンスがあるからこそなのだろう。
「一度見たら3年は忘れない」と笑いながら自らを語った河内氏。見た目だけではなく、人との向き合い方に多くの人が共感するからこそ忘れられない存在となっているのではないだろうか。