D2Cブランドの横展開は必要なのか、Spartyの取り組みに迫る

西村 勇哉

昨今では“D2C”“サブスクリプション”等の時代の変化に合わせ、通販ビジネスの戦略やあり方も進化が求められる。

一方で、新しい概念への理解が浅く、既存の通販ビジネスの手法から脱却できず新しい手法に挑戦できないなどの理由で、変化に対応できていない企業も未だ多く存在している。

これらの背景を踏まえ、ECのミカタではD2CブランドとD2C支援企業の対談連載記事をお送りする。上記課題を払拭し、より多くの企業がビジネスをアップデートできる事例や生の情報をお伺いする。

今回の記事ではパーソナライズD2Cブランド「MEDULLA」と「HOTARU PERSONALIZED」を運営している株式会社Spartyの西田氏とD2Cブランドのマーケティング支援を通じて多くのブランドの成長を支援してきたアライドアーキテクツ株式会社の村岡氏に「D2Cブランドを複数展開」する必要性についてお話を伺った。

・第1回
BULK HOMME 野口氏×N&O Life 西口氏×SUPER STUDIO 真野氏
https://ecnomikata.com/original_news/25896/

・第2回
BASE FOOD 齋藤氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/26512/

・第3回
DINETTE 尾崎氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/26994/

・第4回
SEAM 石根氏×SUPER STUDIO 真野氏
https://ecnomikata.com/original_news/29002/

・第5回
Sparty 西田氏×アライドアーキテクツ 村岡氏

・第6回
SUPER STUDIO 真野氏×アライドアーキテクツ 村岡氏

MEDULLAの成功体験を活かしたD2Cブランド「HOTARU PERSONALIZED」

MEDULLAの成功体験を活かしたD2Cブランド「HOTARU PERSONALIZED」

―――Spartyはパーソナライズヘアケアブランド【MEDULLA】ローンチ後、2年後にパーソナライズスキンケアブランド【HOTARU PERSONALIZED】をローンチし、パーソナライズブランドを拡充されました。非常に早い展開だと思いますが、どのような考えのもと、横展開に着手されたのでしょうか。

西田:例えば、パーソナライズブランドに欠かせないと考えた、お客様への個々のカウンセリングには「MEDULLA」時代から注力し続けてきました。そこからお客様に受けていただいたカウンセリングの回数と継続率には相関関係が見えたのですが、「HOTARU PERSONALIZED」でも同様のフローを用いてカウンセリングを行なっています。

もちろん簡単ではなかったですが、「MEDULLA」の運営を行なっている時から次のブランドに活かすことを想定していたので、「HOTARU PERSONALIZED」のサービスフローの構築はまるっきり新しいことに挑戦するという感じではありませんでした。「MEDULLA」で良かった点や反省点を踏まえての構築になります。

村岡:データベースというのがD2Cブランドらしいです。当たり前のようにお客様データを収集し、自社で分析・活用しての商品開発は小売ではなくIT企業のような印象を受けます。データも膨大だったかと思いますが、PDCAも大変だったのではないのでしょうか。

西田:そうですね、「MEDULLA」では先述したカウンセリングの質問数、商品訴求の方法や広告運用など、日々改善でした。「HOTARU PERSONALIZED」ではその改善を全て反映する勢いで構築したので、設計の仕組みや分析などは優位性が高いんです。

ブランド拡充で新たに気づいたヒント

ブランド拡充で新たに気づいたヒント

西田:「MEDULLA」と 「HOTARU PERSONALIZED」は、商材ターゲットが近いため、食い合いなどが多少発生します。しかし私たちが考えるべきことは軸として考えているパーソナライズのファンになってもらうことなんです。そのため、「MEDULLA」のお客様に「HOTARU PERSONALIZED」を買ってもらうケースや、その逆の「HOTARU PERSONALIZED」から「MEDULLA」の動きを促進していくことが重要だと考えています。実際、両方をご購入してくださるお客様は多いのですが、一方しか購入されないお客様の理由をヒアリングするとそれぞれの課題や魅力も見えてきます。

例えば「HOTARU PERSONALIZED」では可愛く、お洒落を追求したため英字を多用していました。これは「MEDULLA」ではあまり考えていなかったことなので、良い反響が得られると思っていました。

しかし、お客様からはかえってメッセージが分かりにくいという意見をいただきました。私たちは「MEDULLA」の課題だと考え改善したつもりでしたが、実は課題ではなくそれが「MEDULLA」の魅力なのだと改めて気づくことも多々ありました。「MEDULLA」を鏡にして、「HOTARU PERSONALIZED」を展開したからこそ、両方の良いところ・改善できるところに気づけました。
ブランドは今後もまだまだ展開予定です。そうすればより多視点での情報収集が可能になり、さらに強いブランドを開発することもできると思っています。

村岡:ブランドの横展開はまさにその一つですが、Spartyさんと同じクオリティレベルで横展開することはなかなか難しいですよね。商品を通じての市場や顧客の理解、サービス設計の緻密さ、CRM、会社として目指す方向性全てが確立されており、レベルが高いなと思います。

西田:ブランドの拡充は単純に投資分散になりますし、事業単体の運営から複数展開をすることで経営難易度も格段に上がります。今のタイミングで横展開を行っていいのか、投資比率などの見極めができるかどうかでいうと経験者がマーケットに少ないのはデメリットなのかもしれないですね。

村岡:アライドアーキテクツも15年間の歴史で複数の事業を運営してきました。まさに西田さんが仰ったことは痛感するところです。実際に事業を運営してきて、それぞれの事業のスタートタイミングや他事業との兼ね合いの経験を振り返ってみると、準備不足により事業マネジメントが足りず投資分散が発生してしまったり、タイミングを誤ったと感じることもあります。そのために各事業の役割やシナジー、会社の全体感から把握したらどうなるかを考える必要があるんです。

D2Cベンチャー企業でブランドを複数展開して成長できている国内企業はまだ多くはありませんが、ブランドの複数展開よりも今現在の事業へのフルコミットを優先しているケースが多いと感じます。なのでSpartyさんが「MEDULLA」を急成長させて、「HOTARU PERSONALIZED」を2年後にローンチしたのはベンチャー企業としても凄いことなので、事業成長のタイミングやスピード感をどのように調整したのかなど、どんな取捨選択をしてきたのかは気になります。

西田:経営陣も前職で新規事業の立ち上げに参画したことがあるメンバーが多かったため、村岡さんが仰る課題にぶつかるということを社内で予測できていたのは大きかったと思います。社内組織も「HOTARU PERSONALIZED」がローンチするのと同時に分割されていきました。「MEDULLA」にも人が足りなくなってしまうので新たに専任メンバーを増やして、といった動きは課題を常に把握しつつ、慎重に、ですがスピーディに行いました。

村岡:事業経営の話ですよね。ブランドの複数展開によるメリットは大きい一方で、スピードを優先して質を落とすことで発生する顧客満足度の低下、質を上げてスピードを落とした結果の市場内での機会損失、既存のブランドとの相乗効果など様々なリスクと戦いながらブランドを展開していく必要があります。全体感の把握はとても重要です。他に「HOTARU PERSONALIZED」を運営してみて気づいたことなどありましたか?

西田:0→1のビジネスに興味がある人が多くいて採用に大きな効果がありました。ベンチャー企業にとって優秀な人を採用することは難しいですが重要なことです。ここに効果があることに気づけたのは今後、さらなるブランド展開を考えたとき、大きな資産になると考えています。

D2Cブランドの横展開ができる企業になるには

D2Cブランドの横展開ができる企業になるには

村岡:あとは主力ブランドがどこまで市場やニーズにマッチした運営ができているか、も大事だと感じます。ただ売り上げが増加している、という単純な意味ではありません。実際に商品を買ったお客様が他の人にそのブランドを強くオススメしているか、劇的にお客様の生活や価値観を変えたか、などブランドに対して強い印象を持っているお客様がいるかどうかは重要です。

このようなお客様の行動には何かしらのヒントがあり、その理由を分析することで経営者の勘ではないブランド運営が可能になります。このようなブランド展開ができればUGCの数や質も向上しますし、LTVも上がるんです。このような体験を主要ブランドの運営で経験できているかどうか、逆にまだの場合はブランドの横展開は考え直してもいいのかもしれないですね。

それでいうと「MEDULLA」は私たちもマーケティング支援させていただいておりますが、大きな参考事例ですよね。

西田: そうなんです。「MEDULLA」もまだまだこれから大きくしていくブランドにはなりますが、一つの成功体験を経験できたことは会社として大きかったです。

パーソナライズを軸にしたブランド展開は今後も進めていきます。そのために「MEDULLA」や「HOTARU PERSONALIZED」は、パーソナライズヘアケア・パーソナライズスキンケアの領域での認知度を高めていかないといけません。ブランドの名前もですが、パーソナライズのキーワードも一般的にしてきたいと思います。

ブランド単体ではなく、Spartyとしての話になりますが、もっと【パーソナライズ】を多くの人にとって当たり前にしていく必要がありますし、市場も大きくしていきたいです。


記者プロフィール

西村 勇哉

メディア運営事業部 編集チーム所属
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
たまにメルマガに登場しますが乃木坂46の話しかしません。
連絡先→nishimura@ecnomikata.co.jp

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