短パン社長が語る!”共感者”ではなく”共感購買者”を増やすSNS活用

利根川 舞

婦人服の卸メーカー株式会社ピーアイ 代表取締役 奥ノ谷圭祐氏。短パン社長の愛称で呼ばれる奥ノ谷氏は個人のアパレルブランド立ち上げに始まり、コーヒーやカレー、米など様々なものを販売してきた。そしてついには観光PRとSNSインフルエンサーが融合した「短パンフェス」を長野県白馬村で開催するという。

なぜ奥ノ谷氏が作るモノに大勢のファンができるのか?”共感者”ではなく”共感購買者”を生み出すSNSでの情報発信について話を伺った。

”カッコつけたDM”で大失敗

大手アパレル企業から父親の経営する婦人服の卸メーカーへと入社した奥ノ谷氏は、新ブランド立ち上げの際に大きな失敗を経験する。

「『furamu clip』というブランドを立ち上げて、展示会を開く時にカッコつけたDMを送ったんです。前職では広告をどんどん使うような上場しているアパレル企業にいましたから。でも7人くらいしか来てくれなくて。もう死ぬかと思いましたよ。でも、そりゃそうですよね。知っているブランドからDMが来れば展示会に行くけれど、たくさんの”知らないブランド”があって、DMもたくさん届くんですから。

ある時、いつも来てくれる友達に『全然人が来てくれないんです。あなたは何故来てくれるんですか?』と聞きました。そしたら『短パン社長に会いに来たんだよ』って言ってくれて、そこで気づきました。この人たちは洋服目当てじゃないんだな。洋服を見て帰るよりは、誰かに会いに行くってことが重要なんだなって。そこで、もしかしたら300人くらいに送っているうちの293人はボクがやっているDMだと知らないんじゃないかと思ったんです。」

そこで奥ノ谷氏は自身の全身写真を用いたDMを作成。その結果、徐々に来場者が増えたという。そして、自身のブランド『Keisuke okunoya』を新たに立ち上げることになる。

「『何でメンズ服をやらないんだ』とよく言われていたのですが、もともと立ち上げた『furamu clip』が成功していないのに、そんなことできないなって思っていたんです。でも『furamu clip』が成功したタイミングできっかけがありました。

当時、コーディネートを毎日Facebookにアップしてたのですが、ある日ボクが履いていたボーダーの短パンが欲しいっていう連絡が何人から来て。でも、どうせ買わないだろうと思いながらも、ボーダーの生地で短パンを作りました。もし売れなかったら女性物のパーカーにして展示会に出せばいいやって。そしたら20時間で120枚が完売したんですよ。その4年半前の出来事をきっかけにSNSでの受注販売を行う『Keisuke okunoya』を立ち上げ、現在、売り上げは4億6,000万くらいです。過去の購買人数は3,200人程ですが、その中で毎回購入してくれる人は200人程います。」

SNSでの受注生産で600人からの注文

SNSでの受注生産で600人からの注文

「Keisuke okunoya」立ち上げ当初はFacebookやTwitter、InstagramなどのSNSで商品を告知し、コメント欄への書き込みをもって受注とする販売方式を取っていたという。

「4年半も前にSNSで商品を売るっていう、当時では革新的なことをしていた思います。そして、2年程前に600人くらいから受注が入ったことがあったんです。ボク、買ってくれた人全員に手書きの手紙を書いているんですが、二日間掛かった上に腱鞘炎になってしまうほどでした。これは無理だと思い、手数料が発生するもののSTORES.jpの利用を開始しました。」

ところが、効率は良くなったものの、一度の販売枚数は減少してしまった。「でもそうだと思う。やっぱりボクと会話したいんですよ。」と奥ノ谷氏。

「ボクが商品をSNS上でSTORES.jpのURLを貼るっていうことは、今までSNSでやっていたコメントのやりとりがなくなるんです。仲の良い心優しい人たちは『オクノヤさん大変だから仕方ない』とか、『短パン社長は忙しいから手紙とかいらないんで』って注文してくれる感じで。つまり、みんな洋服が欲しいわけではなく、奥ノ谷圭祐が出したものを買いたいということです。」

『Keisuke okunoya』で商品を購入する際、奥ノ谷氏とのコミュニケーションが大きな付加価値となっているのだ。競合企業が乱立し、価格競争が大きな課題となっている今、どのように付加価値をつけるべきかと課題を抱えているケースは少なくない。しかし、結局典型的なパターンに着地してしまうこともあるだろう。

「ノベルティのTシャツとかトートバッグとか、そんなのばっかりですよ。でもみんなが欲しいのはそういうものではなく、購買意欲を掻き立てるためには人を楽しませる、ワクワクさせる、ドキドキさせることが必要なんです。あとは、小さいことだけど手書きの手紙をずっと書き続けていることもみんな喜んでくれていて。じゃあ手紙だけ送って1万5千円貰えば良いって話でもないんですけど(笑)。」

”共感者”ではなく”共感購買者”を増やす情報発信

今年の3月に奥ノ谷氏は次のツイートをしている。

「SNSはいいことを言えばみんな共感はする。でも物は買わない。これが共感者です。共感購入するっていうのは、共感の一歩先を行った関係性を築かなければいけないんです。しかし現状では『商品を作ったものの、どうしよう。SNSで売らなきゃ』って言う人が蔓延しているんです。SNSをやっても売り上げが上がらないとか、売れないっていう人の投稿を見ると、雑だし、毎日更新もしていない。そりゃ売れないですよ、売ることしか考えてないんだもん。ボク、普段は商品のこと何も書かないです。」

そもそも、購入をしてくれる”共感購入者”となってもらう以前に、”共感”できる関係性すら築けていない場合も多いのではないだろうか。”共感の一歩先”へと進むにはまずそこをクリアしなければならない。

「例えば、春にはSNS上が桜の写真まみれになるじゃないですか。でも仕事が上手くいっていない人の投稿はだいたい『今年の桜も綺麗だな』って投稿しているんです。ボクだったら、『目黒川の桜並木はものすごく有名だけど、メディアで見るようにとんでもないことになっている。でも朝7時半から9時の間の平日に行けば結構ゆったり見られるし、さらには最近できたStarbucks Reserve® Roastery Tokyoで美味しいコーヒーも飲めるから、オススメは平日の7時半から9時』と、そこまで説明すると思うんです。ボクは中目黒の商店街の人でもないし、スタバの人でもカメラマンでもない。つまり、誰が見ているかわからなくても、誰かのためにそこまでできるのかということなんです。」

とはいえ、奥ノ谷氏は”ノウハウ”として情報を発信しているわけでは無い。洋服が好き、コーヒーが好き、カレーが好き。奥ノ谷氏はこの好きな物に対して、ただ”好き”を発信するのではなく、その発信を見た人が”好き”になるきっかけや道筋を自然な形で提示してきた。その何のために情報を発信しているのか、という部分が”共感者”で終わらせるか、”共感購入者”にまで至るかの差と言えるだろう。そしてその考えは自然と説得力を生み出す。

「『人生のパイセンTV』という番組をきっかけにカレーを作ることになり、販売をしたら6時間で2,000食完売したんですよ。ボクは人をお洒落にするだけでなくて、食卓も明るくできるのかなって思いました。その”ボクなら明るくできる”と思うことにも理由があるんです。芸能人は食べもしない食べ物、乗りもしない車を宣伝していて、だから今はマスメディアの効果がどんどん薄れている。でもボクは朝にはコーヒーを飲み、昼はカレーを食べ、夜は行きつけのUA BARかkisobarでビールを飲むというワンパターンな行動を、もう5年くらいTwitterに投稿しています。その発信を続けるということが信頼に繋がっているんです。」

「狙うのであれば必死でやらなければいけない」

「狙うのであれば必死でやらなければいけない」株式会社ピーアイ 代表取締役 奥ノ谷圭祐氏

奥ノ谷氏が発信した情報は”共感購入者”を生み出したが、その一方で”共感購入者”は奥ノ谷氏の行動にも影響力を与えている。『Keisuke okunoya』だけでなく、コーヒーやカレー、米作りを”共感購入者”たちと行い、商品化までしているのだ。

奥ノ谷氏は言う。「ボクはカレー屋でもなければコーヒー屋でもない。でもなっちゃったんです、求められたから」と。そして、2019年5月28日に奥ノ谷氏史上初となる「短パンフェス」というイベントを白馬五竜スキー場で開催する。

短パンフェスの詳細はこちら
https://tanpan.jp/fes/2019/

「ビールを作った後に何をしようかなと考えた時に、ビールを作るきっかけになったバーでイベントを開催しようと考えた。でも出店希望者が多くて結局白馬五竜スキー場で開催することにしました。もともと数少なくても見てくれる人が楽しんでくれればいいという考えだったのが、ちょっと大きくなっちゃったんです。ここで大事なのは『Keisuke okunoya』と同じように、作ろうと思って作ってはいない。人を楽しませようとしていることの一環なんです。つまり、狙うってことはものすごく難しいんです。もし狙うのであれば必死にやらなければいけない。

いろんな取材を受けたり、講演をしてきたけど『短パン社長だからできるんでしょ。芸能人みたいに影響力があるからでしょ』って終わってしまうことが多いんです。でも、もともとこの見た目のインパクトはあったけど、初めから影響力があったわけじゃない。だから展示会に7人しか来なかったっていう話を必ずするんです。スタート地点は絶対にみんな同じはずなのに、なぜか結果だけ見てしまう人が多い。

逆に今は若い子たちが強いですね。いままでは経営者向けにSNSのセミナーをやってきたんですけど、すぐに諦めたり実践しない方が多くて、20代の子達に教えることにシフトしました。今の若い子たちって中学の時からスマホを持っていて、高校大学時代には友達と楽しむツールとしてTwitterやInstagramをやっている。そこでボクの話を聞くと『今まで遊んでいたことが仕事になっちゃうんですか?』って嬉しそうに言うんです。そして、『今の裏アカウントを本アカウントに変えられるか、本名に変えられるか。それが重要なんだけど、どちらを選ぶ?』って聞くと若い子たちはすぐに行動する。怖いものないですからね(笑)

じゃあ、ボクらの世代、もしくはそれより上の世代の人たちはどうすればいいのかっていうと、そもそも自分の商品やサービスを愛しているのかっていうことを考えた方が良い。本当に自分のビジネスは人をオシャレにしようとしているのか、人に美味しいって思ってもらえるようにしているのかという、根本的なことが大事なので、その想いが無いと本当に上手くいかないと思います。」

奥ノ谷氏の場合、これまでに無い商品を販売しているわけでは無い。日々の情報発信、好きな物事に対する愛情、自分だけでなく誰かと一緒に楽しみを共有したいという思いが、”共感購入者”を生み出し、結果的に売り上げへとつながっている。

これは誰にも真似できないことだろうか?いや、奥ノ谷氏が「スタート地点は絶対にみんな同じはず」と言うように、実行しようと思えばできることもたくさんあるはずだ。今一度、自身の情報発信を振り返ってみてはいかがだろうか。

<企画:竹内 長>


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

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EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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