ニトリ O2O戦略の実践!「画像検索」でお客様の買い物体験を変える。
ニトリホールディングスは8月22日、公式アプリ「ニトリアプリ」を約5年ぶりに リニューアルした。目玉となる施策の1つは、アプリに画像検索機能を実装したこと。画像から、欲しい商品を探す消費者が増えていることに対応したという。
さらに、実店舗の店舗スタッフが使う従業員用アプリにも、画像検索機能を導入。店頭在庫データや商品データベースと接続することで、店頭での接客や商品提案に活かしている。
ニトリが公式アプリや従業員用アプリに画像検索機能を導入した背景には、ECと実店舗の新しい買い物体験を実現したいという強い思いがあった。システムリニューアルを主導したニトリホールディングスの岡本孝正氏、Alibaba Cloudが提供する画像検索エンジン「Image Search(イメージサーチ)」の国内提供元であるSBクラウドの三苫周平氏、システムの実装をサポートしたオープンストリームの両角博之氏の3人に、画像検索を導入した経緯や期待される効果、画像検索が切り開くECの未来などについて話を聞いた。
画像検索を実装したのは「消費者が求めているから」
──ニトリさんは8月22日に、ECサイト「ニトリネット」と公式アプリをリニューアルしました。さまざまな機能を追加したほか、UIやUXを改善していますが、今回はその中でも「画像検索機能」にフォーカスし、お話を聞かせてください。まずは、画像検索機能を実装した経緯をお聞かせいただけますか?
株式会社ニトリホールディングス 岡本孝正氏(以下、ニトリ岡本氏):今回のリニューアルで特に意識したことの1つは、お客さまが商品を探しやすい仕組みを作ることでした。その一環として、公式アプリに、画像検索機能を追加しました。
画像検索なら、欲しい商品の画像をアップロードするだけで、商品そのものや、類似商品にたどり着けます。お客さまにとって、希望の商品を探しやすくなると期待しています。
──テキスト検索だけでは、不十分だったということでしょうか。
ニトリ岡本氏:そうですね。探している商品の商品名やカテゴリー名が分からない場合、テキスト検索でイメージ通りの商品を探すのは、じつはとても難しい。商品の色や形、大きさ、柄、材質、デザインのテイストなどを細かく入力すれば、イメージに近い商品が表示されるとは思います。しかし、いったい何人のお客さまが、そこまで細かく入力するでしょうか。
リニューアル前の検索窓では、テキストや商品コードを入力して検索するしかありませんでした。「ニトリネット」の取扱商品は常時約3万種類あります。おそらく、欲しい商品にたどり着けず、離脱したお客さまも少なくなかったでしょう。
──消費者が、画像検索を求めているということでしょうか。
ニトリ岡本氏:はい、そう思います。実際、ニトリの店舗に来店したお客さまが、スマホのスクリーンショットを店舗スタッフに見せて、商品を探して欲しいと要望するケースが非常に増えています。近年、SNSやブログなどに投稿された写真を見たことがきっかけで、商品を購入する消費者が増えていて、買物のしかた自体が変化してきていると思います。
街中や知人の家、インテリアショップ、ネットなどで欲しい商品を見つけたとき、スマホで撮影し、その写真で商品を検索できれば便利ですよね。「ニトリアプリ」に画像検索機能を実装したことで、ECの利用シーンの拡大も期待できます。
実店舗の接客にも画像検索を活用、顧客満足度向上と店舗スタッフの業務負担軽減へ
──今回、実店舗の店舗スタッフが使用している従業員用アプリにも、画像検索機能を実装したそうですね。
ニトリ岡本氏:はい。店舗スタッフの接客に画像検索を活用することも、リニューアルにおける重要なテーマでした。
従業員用アプリに画像検索機能を追加したことで、スマホに保存した画像を店舗スタッフに見せて、商品を探して欲しいとおっしゃるお客さまに対して、素早く対応できるようになりました。基幹システムと連動させていますので、実店舗の商品棚の位置までアプリに表示され、お客さまをスムーズに売り場にご案内できます。
また、従業員用アプリの画像検索機能は、注文納期はもちろんのこと、全国の店頭在庫や、商品データベースとも連携しています。ですから、お客さまが探している商品が店内にない場合は、「ニトリネット」に誘導したり、在庫がある近隣店舗を紹介したりできます。小型店での品ぞろえ補完にも役立つツールになるわけです。
画像検索を接客に活用することで、お客さまの満足度を高めるとともに、商品を探す店舗スタッフの負担軽減につながると思います。
Alibaba Cloudが提供する画像検索エンジン「Image Search」を採用したのはなぜか
──ニトリさんは今回のリニューアルで、Alibaba Cloudが提供する画像検索エンジン「Image Search」を日本で初めて導入しました。なぜ「Image Search」を選んだのでしょうか?
ニトリ岡本氏:検索結果の精度や表示速度、個別に機械学習が不要なこと、運用コストが安いことなどが理由です。複数社の画像検索エンジンを比較し、「Image Search」を選びました。
検索結果の精度と表示速度は、お客さまの満足度に直接影響しますから、もっとも重視しました。そして、機械学習の手間がかかないこともポイントでした。
──実際に運用してみて、画像検索の表示精度は、いかがですか?
ニトリ岡本氏:想定していた通りの類似商品結果を返してくれます。かなり精度は高いと思いますよ。
画像検索は、写真の撮り方や角度などによって、100%の精度で表示することは難しい。個別に機械学習を行うことなく、これだけ高い精度を実現できる検索エンジンは、なかなかないと思います。
「Image Search」は5.8億人のビッグデータで学習済み
──個別に機械学習を行う必要がないとのことですが、「Image Search」はどのような仕組みで動いているのでしょうか?
SBクラウド株式会社 三苫周平氏(以下、SBクラウド三苫氏):「Image Search」に使われているAI(人工知能)は、中国最大のECプラットフォーム「天猫(Tmall)」や、CtoCマーケットプレイス「淘宝網(タオバオ)」のビッグデータを使って学習済みです。そのため、導入企業さまが実装前に個別に機械学習を行う必要はありません。そして、「Image Search」はクラウド型のサービスですから、検索エンジンの性能は随時アップデートされます。
機械学習には、中国の人口の約40%にあたる5億8000万人の購買データが活用されています。中国では、ECサイトで画像検索を行うのは珍しくありません。この技術「Image Search」は既に5年前から運用がスタートしており、年々精度が向上し現在に至ります。
──機械学習を行うことなく導入できるのは便利ですね。
ニトリ岡本氏:本当にそう思います。ニトリの取扱商品数は約3万種類あり、しかも、1年で約半数が入れ替わります。もし、すべての商品画像をAIに学習させていたら、それだけで膨大な手間がかかってしまいます。
弊社では、画像検索機能の運用の手間をできるだけ少なくするために、画像検索エンジンに商品データをアップロードする作業も自動化しています。
画像アップロードの自動化で運用負荷を軽減
──画像のアップロードを自動で行う仕組みについて、教えていただけますか?
株式会社オープンストリーム 両角博之氏(以下、オープンストリーム両角氏):「ニトリネット」に商品画像を登録すると、そのデータを自動的に「Image Search」に取り込むシステムを組みました。同時に、基幹システムの商品データベースに新しい商品が登録されると、そのデータも自動的に検知します。
この仕組みによって、お客さまや店舗スタッフが画像検索を行った際に、常に最新の商品情報が表示されます。
SBクラウド三苫氏:機械学習や、商品のアップロードに手間がかかれば、その作業コストは最終的に商品価格に跳ね返ってしまうでしょう。もしそうなれば、ニトリさんの「お、ねだん以上。」が崩れかねない。
ニトリ岡本氏:ニトリとしては「お、ねだん以上。」は譲れません(笑)。そういった意味でも、機械学習が不要で、運用の手間も少ない現在の仕組みは、ベストなものだと思っています。
──ちなみに、「Image Search」はどのような料金体系なのでしょうか。
SBクラウド三苫氏:画像の登録枚数と、アクセス数の上限に応じた月額制です。一般的な画像検索エンジンは、アクセス数に応じた従量課金型が多いですが、「Image Search」は定額制なので、突発的にアクセスが増えても料金は高騰しません。費用対効果は業界トップレベルだとお客様から評価いただいてます。
接客に画像検索を活用する先進的な取り組み
──ニトリさんのように、「Image Search」を店舗スタッフ向けに使っている事例はあるのでしょうか?
SBクラウド三苫氏:消費者向けと店舗スタッフ向けでシステムを使い分けている事例は、おそらく中国でも前例がないと思います。ニトリさんの接客は、世界的に見ても先進的な取り組みなのではないでしょうか。
──従業員用アプリに画像検索機能を追加するにあたり、店舗スタッフの意見も取り入れたのでしょうか。
ニトリ岡本氏:はい、現場の声を積極的に取り入れました。お客さまと接している店舗スタッフは、消費者のニーズにもっとも敏感です。どのような機能があれば、接客の質が上がり、お客さまに満足していただけるのか。また、プライスの取れてしまったアイテムの特定や、小型店での商品問合せなども困っていて、現場と何度も意見交換しながら、接客用アプリの画像検索のUIを、ブラッシュアップしました。
その点では、UIのブラッシュアップをサポートしてくださったオープンストリームさんのお力添えもなければ、この仕組みは実現できなかったと思います。
──オープンストリームさんは「Image Search」の開発パートナーに認定されていますね。
オープンストリーム両角氏:「Image Search」の検索エンジンそのものの精度は、非常に高いですから、弊社はそれをお客さまや店舗スタッフが存分に活用できるように、UIやUXを工夫しました。
ニトリさんは現場の声をとても重視しますので、今回の開発に携わって、エンジニア目線では気がつかなかったUIやUXの考え方について、学びも多かったです。画像検索機能の文字の大きさ1つにしても、ニトリアプリと従業員用アプリのそれぞれで、使いやすさを追求しました。
ニトリ岡本氏:両角さんをはじめ、オープンストリームさんのエンジニアの方々は、アイデアの引き出しがとても多いですよね。弊社がやりたいことを具現化するために、さまざまな方法を提案してくださいました。優れたUIやUXを実現する上で、オープンストリームさんの存在は大きかったです。
ニトリは経営幹部も徹底した現場主義
──ニトリさんは、システム開発においても販売現場をとても重視されるのですね。
ニトリ岡本氏:はい。開発部門と店舗スタッフの距離が近いことが、弊社の特徴だと思います。なにか新しいシステムを開発すると、現場の店舗スタッフやお客さまの反応が、エンジニアのもとへとバンバン届きます。ですから、開発のイマジネーションも沸きやすくなる。エンジニアにとって、やりがいを感じる環境だと思いますよ。
弊社の開発部隊は現在、協力会社を含めて300人以上います。エンジニアの新卒採用を行なうとともに、育成の仕組みも整えています。デジタルシフトを推進していくために、エンジニアの採用と育成には、今後も力を注ぎたいです。
SBクラウド三苫氏:今回、ニトリさんのリニューアルに携わって実感したことは、会社全体が現場主義を徹底していることです。経営層の方々も含めて、現場の「今」をよくご存知だと感じました。そして、消費者の最新の動向をよく理解しているからこそ、「Image Search」を導入してくださったのだと思います。
実は、EC関連を取り扱う事業会社様向けに「Image Search」をご提案しても、画像検索の重要性は現場に近い担当レベルの方にはご理解いただけ、反応も常に良好でした。ただ残念ながら以降の決裁者レベルでお話が止まってしまうケースが多い印象でした。
でも、ニトリさんは、画像検索のメリットや将来性をすぐに理解してくださいました。前例のない取り組みに挑戦する姿勢に、業界をけん引していくという王者の気概も感じました。
ニトリ岡本氏:弊社ではベテランの本部勤務社員も、数年間勤務した後に店舗勤務に戻り、実際に現場に所属して働きます。そういった現場主義の社風が、弊社の強みだと思います。
「世界中がショールームになる」画像検索が切り開くECの可能性
──画像検索は今後、ECをどのように変えていくと思いますか?
ニトリ岡本氏:画像検索が、新しいレコメンド機能の役割も果たすと思います。例えば、「ニトリアプリ」でカーテンの画像を検索すると、そのカーテンを使ったコーディネートの写真や同テイストの布団カバーやクッションも表示されます。つまり、カーテンを検索したお客さまが、コーディネート写真に掲載されたクッションなども簡単に発見でき、購入いただける可能性が高まります。
──関連商品のレコメンドが、勝手に行われるということですね。
ニトリ岡本氏:その通りです。お客さまが欲しい商品と似た商品が表示されるので、単価アップや購入率アップにつながる可能性もあると期待しています 。
──SBクラウドさんは、画像検索とECの未来をどのように予測していますか?
SBクラウド三苫氏:近年、SNSの普及により、クチコミを起点とした消費行動が活発化しています。今後は、通勤中などの隙間時間に、消費者がSNS上で「いいな」と思った商品を見つけたとき、スクリーンショットを撮って画像検索することも、当たり前になっていくのではないでしょうか。
画像を起点に商品を検索するのが当たり前になれば、ネットショッピングはより便利で楽しいものになるのではないでしょうか。
──画像検索が普及すれば、ECの検索の常識が変わるかもしれませんね。
ニトリ岡本氏:その可能性はあると思います。お客さまが生活の中で欲しい商品を見つけたときに、写真やスクリーンショットを撮って、「ニトリアプリ」の画像検索を使う。そういったユーザーさんが増えれば、いわば、世界中がニトリのショールームになりますからね。
──ニトリホールディングスさんのEC売上高は、急速に伸びています。2019年2月期の通販売上高は前期比27.3%増の389億円、EC化率は約7%でした。今後、EC事業では、どのような戦略を計画しているのでしょうか。
ニトリ岡本氏:全国500カ所以上に実店舗と、その物流網も持っていることがニトリの強みですが、実店舗だけではお客さまのニーズに応え切れません。弊社が目指しているのは、お客さまがネットでも実店舗でも、好きなときに、好きなチャネルで自由に買い物、自由に受取りができる環境を作ること。
そのために、弊社はこれまで当日受け取りサービスや、手ぶらdeショッピング機能など、さまざまなサービスを導入してきました。今後は、例えばオンラインで接客を行うなど、新しい施策も視野にいれながら、ECと実店舗をこれまで以上にシームレスにつないでいきたいです。