損保ジャパン「システムダウン損害保険」を販売へ 担当者にポイントを直撃

濱田祥太郎

コマーシャルビジネス業務部渡邉大地氏(中央)、DX推進部の谷岡哲至氏(左)、菊地文博氏(右)

ECサイトやモールでシステムダウンが起きた際、得られるはずだった利益を補償する損害保険を損害保険ジャパン株式会社が販売する。クラウドサービスを監視するシステムを持つイスラエルの企業とタッグを組んで開発中のこの商品について、コマーシャルビジネス業務部の渡邉大地氏、DX推進部の谷岡哲至(さとし)氏、菊地文博氏に詳しく伺った。

コロナで伸びるECのシステムダウン損害を補償

――検討している保険の概要を教えてください。
渡邉 私たちがイスラエルのパラメトリックス社と協業して開発を進めているのは、主にクラウドサービスを利用しているEC事業者を対象とした保険です。システムダウンで生じた損害を補償します。

コロナの影響で非接触、非対面で買い物をする方が増えたこともあり、活況だったEC市場はさらに伸びています。この動きはさらに拡大し、EC事業の重要性もさらに増していくでしょう。保険商品を通して、私たちもEC事業の安定的な発展に貢献できたらと思い開発に至りました。

――なぜ補償の対象がシステムダウンなのでしょうか。
渡邉 これまでの損害保険の加入者は、リアル店舗を持つ事業者でした。例えば店舗や工場が火事で燃えて設備が使えなくなれば、事業運営も滞るので利益も出ません。そのような状況になった時に設備を修復するための費用や、利益補償として保険金をお支払いするものです。

クラウドサービスを利用して事業を行っている事業者にとって、リアル店舗を持つ事業者と同様に補償を受けるべき状況とはどんな状況なのか。それはシステムダウンによってクラウドサービスが利用できなくなり、利益を得られない状況になることではないかと考えました。

事業者からの連絡を待たずに補償の把握も可能に

損害保険ジャパンとパラメトリックス社との実証実験の概念図。パラメトリック社がリアルタイムでモニタリングしたデータを損害保険ジャパンに渡すことで、事業者からの連絡を待たずに補償の把握が可能になる(損害保険ジャパンの資料より)

――クラウドサービスに関連した保険は過去に例がないのでしょうか。
渡邉 例えばネット炎上に対応するための費用を補償するネット炎上対応費用保険という商品もありますし、サイバーアタックで情報漏洩した場合の賠償金を補填したり、原因調査のための費用を補償したりするサイバー保険は、どの保険会社も力を入れています。

しかしシステムダウンで損害を受けた事業者のための保険は、弊社にとって初めての試みですし、業界でも前例はありません。また従来の損害保険では難しかった、迅速に保険金をお支払いできるようになるという点も非常に画期的です。

――支払いに時間がかかるのはなぜですか。
谷岡 保険金をお支払いするためには、補償の対象となる事案が発生したことを証明する資料を、お客様に提出いただく必要があります。資料がそろって初めて支払いの手続きが進められるので、一般的な損害保険では保険金の支払いが数カ月先、あるいは半年以上先になることも少なくありません。

菊地 ECサイトやモールが止まってしまったら復旧が最優先ですよね。大変な時に保険会社に連絡を取って手続きを進めるという作業は、どうしても二の次になるはずです。EC事業者がいつシステムダウンして、いつ再開したのかといった正確なデータをまとめて提出すること自体、ハードルが高いと考えました。

しかし今回協業しているパラメトリックス社のモニタリングデータを活用すれば、必要な情報をすぐに把握することができます。事業者側から連絡をいただく前に、私たちから補償についてご連絡することも可能になりますし、資料を準備するという従来の査定のプロセスを省くことで、事業者の負担を減らすことにつながります。

「年内の販売を目指す」

――パラメトリックス社との協業の経緯を教えてください。
菊地 損害保険ジャパン株式会社を傘下にもつSOMPOホールディングスは、2017年11月に日本の保険会社としては初めてテルアビブ(イスラエル)にデジタル戦略拠点を開設しました。翌年には東京やシリコンバレーに続いて、SOMPO Digital Lab Tel Avivという現地法人を設立しています。

パラメトリックス社はテルアビブで、海外のクラウドシステムを中心に、システム稼働のデータ収集やモニタリングを行う会社で、ダウンタイムのモデリングから得た情報を保険会社向けに情報提供しています。今回の新商品開発に適した企業ということで、テルアビブのSOMPO Digital Lab Tel Avivから紹介を受けました。

――販売開始はいつ頃になりますか。
渡邉 年内の販売開始を目指していますが、さまざまなリスクを想定しながら、保険商品の仕組みを構築していくためには、もう少し開発に時間が必要です。商品の販売開始までの期間に大規模なシステムダウンが起きれば、その事例をもとに検証を重ねて、商品に反映したいと考えています。

保険料「年間で数万円程度からを想定」

――保険料や補償額の設定はどのように考えていますか。
渡邉 お客様がどのようなクラウドサービスを利用されているのかにもよりますが、保険料は年間で数万円程度からを想定しています。リスクを考えるとお求めやすい金額であることを重視しています。

谷岡 補償の上限が無制限なのは自動車保険の賠償保険くらいで、ほとんどの保険商品には上限額が設定されています。この商品も補償の上限額を決めることになりますが、事業者の利益率などを参考に設定していく予定です。

――企業規模など想定しているコアターゲットはありますか。
谷岡 損害保険の特性として、保険プランがパッケージ化された商品は、価格的にもご利用いただきやすいので中小企業が対象になっています。
今回は保険プランを私どもからご提案する商品のため、中小企業がコアターゲットです。加えてシステムダウンが数十分から数時間という短時間でも多大な損害を受けるほどECの運営に力を入れている事業者が対象となります。

――セール期間など、売り上げが変動する時にも対応できますか。
谷岡 利益率に合わせて補償額や保険金を変動させるよりも、一定額もしくは平均値で判断するほうがお客様の手続き上の負担が軽減されます。大規模なセール期間など売り上げが跳ね上がる期間を特約として基本プランに追加することも一つの方法だと考えています。

パラメトリックス社から提供されるデータは重要な指標になりますが、モニタリングしているサーバーやEC事業者は欧米が中心です。ヒアリングでは、日本のローカライズについて詳しく調査したいです。いずれにしてもEC事業者へのヒアリング内容から判断していくことになります。

リスクにあわせて保険も変化

――EC市場の変化についてどのように捉えていますか。
渡邉 どんなに日常の利便性が上がっても、リスクがゼロになることはありません。日常生活の在り方が変化すれば生じるリスクも変わるので、新しいリスクに着目し続けて、そのリスクに対応できる商品を開発することが大事です。世の中に生じるリスクが変わっていくなら、私たちも柔軟に変わるべきだと思います。

例えば自動車保険を例にお話しすると、自動運転の普及は交通事故を減らすことにつながります。もちろんそれは社会にとって良いことですが、同時に自動車保険が利用される機会が減ることも意味しています。自動車保険に限らず、事業形態の変換は今後より加速していくのは間違いなく、日本の損害保険会社は転換期を迎えています。

そうした観点から見れば、これから一層市場が拡大していくであろうEC市場には、新しい損害保険へのニーズがあり、大いに注目しています。

谷岡 これまでのリアル店舗だけで販売が行われていた時は、店頭で商品を購入するので商品が届かないというリスクは想定されていませんでした。逆に陳列棚から商品が落ちて壊れるといったリスクは生じません。EC市場が活性化され、生じるリスクは大きく変わりました。リスクがシフトしているぶん、保険商品もバラエティー豊かになりました。クラウドサービスを利用している事業者に特化した保険商品の開発は必然であると捉えています。

新しいリスクに備えるため、関連事業者にヒアリングを行っていますが、どのようなプランがあれば本当に使いやすい保険になるのか、お客様のニーズを汲み取りながら、有益な保険にしていきたいです。

主なECのダウンタイム発生事例

◆2019年7月2日 Shopify
ShopifyはCloudFlareのネットワーク問題によりダウンタイムをが発生。この状態が24分間続いた。新しいCloudflare WAFマネージドルールの定期的な展開中にCloudflare Web Application Firewall内の1つのルールが誤って設定されたことが原因で、障害が発生したという。

◆2018年7月16日 AmazonプライムデーのAWS停止
約3時間、米東海岸と西海岸の消費者がAmazonプライムデーのページにアクセスできないエラーが発生。

◆2019年8月2日 BigCommerce Outage
EC構築システム「BigCommerce」でグローバルでの稼働停止が発生。

◆2019年8月23日 AWS東京リージョン障害
AWSの日本リージョン(AP-NORTHEAST-1)で、制御システムの管理システム障害により約6時間にわたり障害が発生。多くのサービスやWebサイトに影響が出た。Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)、Amazon EBS、Amazon RDS(Relational Database Service)などが影響を受けた。


記者プロフィール

濱田祥太郎

新卒で全国紙の新聞記者に4年半従事。奈良県、佐賀県で事件や事故、行政やスポーツと幅広く取材。東京本社では宇宙探査や宇宙ビジネスを担当。その後出版社やITベンチャーを経てMIKATA株式会社に入社。ECのミカタでは行政、規制系・老舗企業のEC事例に興味があります。千葉県我孫子市出身。

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