MOON-X&アライドアーキテクツが語る “共創”で育むブランドとD2Cの未来

ECのミカタ編集部

(左)MOON-X株式会社 Co - Founder CEO 長谷川 晋
(右)アライドアーキテクツ株式会社 取締役 村岡 弥真人氏

昨今では“D2C”“サブスクリプション”等の時代の変化に合わせ、通販ビジネスの戦略やあり方も進化が求められる。一方で、新しい概念への理解が浅く、既存の通販ビジネスの手法から脱却できず新しい手法に挑戦できないなどの理由で、変化に対応できていない企業も未だ多く存在している。これらの背景を踏まえ、ECのミカタではD2CブランドとD2C支援企業の対談連載記事をお送りする。上記課題を払拭し、より多くの企業がビジネスをアップデートできる事例や生の情報をお伺いする。

今回の記事では、Facebook Japanの元代表取締役でMOON-X株式会社CEOの長谷川晋氏と、アライドアーキテクツ株式会社の取締役である村岡弥真人氏の対談をお送りする。“共創”をキーワードにしたブランドの作り方や育成方法、D2C業界の未来についてお話しを伺った。

・第1回
BULK HOMME 野口氏×N&O Life 西口氏×SUPER STUDIO 真野氏
https://ecnomikata.com/original_news/25896/

・第2回
BASE FOOD 齋藤氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/26512/

・第3回
DINETTE 尾崎氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/26994/

・第4回
SEAM 石根氏×SUPER STUDIO 真野氏
https://ecnomikata.com/original_news/29002/

・第5回
Sparty 西田氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/28448/

作り手やコミュニティと一緒にブランドを“共創”する

作り手やコミュニティと一緒にブランドを“共創”する

――MOON-Xは「次世代のブランドと人の発射台となる」をミッションに掲げていらっしゃいます。この理念の背景には、P&Gや楽天を経てFacebook Japanの代表を務めた長谷川さんのどのような経験が活かされているのでしょうか。

長谷川:Facebook在籍時に地方創生の仕事で全国を回り、本当に良いものを作れる作り手が日本にはたくさんいらっしゃることがわかりました。しかし、日本の高品質の原料や技術を持っていらっしゃる一方で、デジタルやテクノロジーに長けた方が少なく、情報発信の面で苦労されていました。日本の素晴らしい作り手が、僕らのようなIT業界出身者とコラボレーションして商品をブランド化し、テクノロジーを使って発信できたら、世界により大きなインパクトを与えられると思ったのが創業のきっかけです。

村岡:確かにそうですね。我々アライドアーキテクツは創業以来、大企業から中小企業まで約6,000社のマーケティングを支援してきました。近年はD2Cの普及でメーカー自らデジタルマーケティングに取り組むことが増えましたが、ディストリビューションの面でまだまだ課題が多いと感じます。商品やサービスに対する想いやこだわりが強い分、売り方や消費者への届け方の部分で改善は必要だと思います。

長谷川:だからこそ“共創”という概念を強く意識して、このMOON-Xを立ち上げました。例えば当社で展開するクラフトビールブランド「CRAFT X(クラフトエックス)」は、歴史ある酒造メーカーやユニークなブリュワリーさんや農家さんとのコラボレーションで生まれました。女性向けスキンケアブランド「BITOKA(びとか)」や、男性用スキンケアブランド「SKIN X(スキンエックス)」は、日本の最先端技術を活用して作られています。幸いなことに、日本には素晴らしいモノ作り企業がたくさんあります。こうした企業と共創してブランドを立ち上げることで、最終的にお客様に喜んでいただけるものが作れるのかなと感じています。

複数ブランド展開で顧客接点をより幅広く、より深く

――MOON-Xでは現在3つのブランドを展開されていますが、具体的にどのような企業と共創しているのでしょうか。

長谷川:「CRAFT X」の定番である「クリスタルIPA」は、文政6年(1823年)創業で「常陸野ネストビール」を展開する木内酒造様に、日向夏を使ったインディア・ペールラガーは宮崎ひでじビール様に製造をお願いしました。スキンケア製品は、化粧品OEMの国内最大手である日本コルマー様やサティス製薬様と共同開発をしています。女性向けの「BITOKA」で出しているクリスタルクリームには、新潟県魚沼産の白いシャクヤクを使用し、保湿粒子をナノレベルに小さくする学会でも発表されているテクノロジーを採用しています。男性用の「SKIN X」には、ソニーグループ株式会社様が開発した米の籾殻を原料にした新素材 トリポーラスTMを使っています。

村岡:本当に多様なメーカーとコラボレーションしていますよね。長谷川さんの行動力と人脈の広さが成せる技だと思いますが、企業と共創する際にはどのようにアプローチしているのですか。

長谷川:人を通じた紹介の場合もありますし、オフィシャルサイトの問い合わせ窓口からメールを送ることもあります。コンセプトを共有して素晴らしい製品を作ってくださるメーカー様には感謝してもしきれません。製品を発売してからも、お客様のフィードバックに基づいて品質や販売方法、またブランド体験のアップデートをしていきます。互いにやりたいこと、できることをすり合わせ、地に足の付いた継続的なパートナーシップの構築を目指しています。

――ジャンルの異なる複数ブランドを展開していますよね。相乗効果などはあるのでしょうか。

長谷川:もちろんです。複数ブランド展開のメリットはふたつあります。ひとつは、お客様との接点が広く深くなること。ビールだけを展開する場合と、ビールとスキンケアを一緒に展開する場合、後者の方がお客様と圧倒的に多く接点が持てます。ビールだけでは、ビールに興味・関心がない方とは接点を作れないので。お客様接点が複合化・多面化すれば、それだけインパクトを出しやすくなります。

ふたつ目は、学習カーブが劇的に向上する点です。トライ&エラーを繰り返しながらもある程度の道筋が見えたら、そのやり方を他のブランドに活用することができます。

村岡:ワンプロダクトだと、市場規模の観点でスケールの限界があることが多いです。。事業をグロースさせ続けるためには、複数のプロダクトかブランドを展開してポートフォリオを組むことが大切です。顧客単価を向上させるアップセル・クロスセルといった施策も打ちやすくなりますし。ECは非常に競争性の高い場所なので、ワンプロダクトで勝ち続けられるほど甘くはありません。一定のグロースを見込むためには必然的に複数ブランド、複数プロダクトになっていくと思います。

相手へのリスペクトが価値をもたらす新しいD2Cの形

――どのブランドにも作り手のこだわりを感じます。メーカーとコラボレーションしてブランドを作り上げる際に、長谷川さんが気を付けていることはありますか。

長谷川:本当に良いブランドには、消費者の生活をより良くしたり、楽しくしたりするパワーがあります。P&Gでの経験からモノ作りの大変さは理解しているつもりなので、やはり作り手への敬意は大切です。また、コラボレーションする上で、両社がwinwinの関係になることも重要です。

村岡:自社ブランドでD2Cに参入する場合、その多くが製造を外部委託しているので、コラボレーションというよりは受発注のような関係性となることもあります。でも長谷川さんはいろいろなビジネスを経験し、価値の生み出し方やそのデリバリー方法を理解されているので、最もレバレッジの効く手段でパートナー企業とのリレーション作りを図っていますよね。メーカー・生産者にも、消費者にもメリットがある〈三方よし〉の考え方というか、こういう形のD2Cは今まで日本にはなかったモデルだと思います。

――「CRAFT X」と「BITOKA」では、クラウドファンディングにも挑戦中ですね。

長谷川:クラウドファンディングもまた、作り手とお客様との共創です。新しいお客様とのつながり方であり、新しいECのあり方だと思います。

現在、ビールを超えた挑戦として、CRAFT XからはハードセルツァースタイルのレモンサワーとBITOKAからは原材料3種類だけの発酵原液化粧水のクラウドファンディングを展開中です。
https://camp-fire.jp/projects/view/414526
https://camp-fire.jp/projects/view/415004


村岡:長谷川さんのお話を伺っていると、ブランドの味方を初期からしっかりと作れる強いビジネスモデルだなと感じます。そこにはMOON-Xの想いがあって、それを享受する消費者の想いがあって、生産者・メーカーの想いがあって。この“想いの総和”がすごく大きいですよね。まさにブランドを通じて共創を体現している、なかなか真似のできないモデルだと思います。

長谷川:D2Cはとても自由で柔軟な世界です。僕らもいろいろな方々の力をお借りしながら一緒にブランドを作っていますが、根底にあるのは相手へのリスペクトの気持ちです。それは作り手やお客様だけではなく、クラウドファンディングのプラットフォーマー様や、マーケティングツールを提供してくださる支援会社様に対しても一貫して持ち続けている想いです。

ビジネスをスケールさせる継続的なパートナーシップ

――ビジネスに共創という概念を持ち込むことで、より大きなインパクトが出せることは間違いなさそうですね。

長谷川:MOON-Xを立ち上げたのは僕が41歳の時です。それまでP&Gや楽天、Facebookでいろいろな経験をさせてもらって、1社だけではできないことも、パートナーシップやコラボレーションで実現できるのだとわかりました。それは1+1が3にも5にも100にもなるという、共創の原体験でした。

もっとも台所事情でいえば、スタートアップなので潤沢なリソースがあるわけではありません。良いメンバーが揃い、恵まれた環境であっても、すべて自社でできるかといえば難しいのが実情です。自社で実現できない部分で様々なリソースや強み、ナレッジをお持ちのパートナーと組み共創することで、最終的にお客様に喜んでいただける製品開発、また、その背景に込められたストーリーを発信しさらに共感いただけるのでは思います。

村岡:長谷川さんのさまざまな経験に裏打ちされたハイレベルな戦い方ですよね。当社でも多くのEC企業の支援をしていますが、長谷川さんのような具体性の伴った共創の視点をビジネスに活かすことができている会社はまだ少ないと思います。

長谷川:ブランドは「立ち上げて終わり」ではありません。クラウドファンディングでもそうですが、製品やサービスをリリースした後、それをきちんと成立させる必要があります。事業を継続的にどうスケールさせるかということはD2Cのテーマですし、フェーズによってその手段も今後はどんどん進化していくでしょう。

人材とスピードを武器に、日本ブランドを世界に発射

人材とスピードを武器に、日本ブランドを世界に発射

――コロナ禍で市場環境が一変しました。今後D2C業界はどのように変わっていくと思われますか。また、MOON-Xとしてはどのような目標をお持ちでしょうか。

長谷川:意志決定や認知のハビットがかなり前倒しされたように感じます。大きな構造変化により、ECやD2Cのあり方も今後はより多様化していくと個人的には見ています。

そうした中で、僕らはこれからも作り手やお客様と向き合いながら製品をブラッシュアップして参りますし、新しいカテゴリーのブランド開発にも挑戦する予定です。MOON-Xは世界市場を見据え、将来的にはブランドのグローバル展開も視野に入れています。事業者支援の立場から、村岡さんは業界の変化をどのように捉えていらっしゃいますか。

村岡:D2Cブランドでも事業成長の為の施策が多様化しはじめています。事業のフェーズが変われば戦い方も変わりますが、次のステージにステップアップする企業は卸やテレビCMなど、これまでとは違った施策も必要になります。

その一方、大手は大手で新たにD2Cに参入する企業が増えてきました。今後は自社の置かれた状況において、これまでの当たり前や常識を取り払いながら、D2Cベンチャーの戦い方と大手企業の従来の戦い方をうまく混合させて成長できる企業が伸びてくると思います。

長谷川:戦い方ということであれば、MOON-Xは「人材」を大切にしています。優れたスキルを持ったスタッフがさまざまな課題に挑戦し、経験を重ねることで劇的に成長していく――。ミッションにも掲げたように、ブランドはもちろんですが、人材の発射台でもありたいと考えています。当社を卒業した人たちにはMOON-Xでの経験を活かし、日本をけん引するリーダーになってもらいたいと思います。

創業メンバーはわりと同年代が多いのですが、最近はもっと下のジェネレーションが加わるようになりました。年齢層的にも多様性が生まれてきたので、そこの部分はとても楽しみですね。

また、変化の激しい業界なので「スピード」も大切なファクターです。コースアウトしないギリギリの速度で、どれだけコーナーを厳しく攻められるか。こうしたスピード感を持ってチャレンジし続けることが重要だと思います。


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