日本の和菓子をもっと身近に。 コミュニティを生み出す和菓子専門セレクト・オンラインストア「旅するように和菓子と出逢う」の立ち上げ背景とは?

森田春香

世の中にさまざまなジャンルのスイーツが溢れるなか、和菓子業界では購入頻度の低下に対し、うまく対策がとれないことが課題となっている。

食品をECで購入する人も急速に増えている今、4月にローンチした和菓子専門ECサイト「https://tabisuruwagashi.com/ 」旅するように和菓子と出逢う」は和菓子の持つ課題にどのように向き合うのだろうか。株式会社ジーエークロッシングで同サービスの運営プロデュースを行う世古 寛子氏にお話をうかがった。

BtoB販促業務の知見を生かしたBtoCの新規事業として

――「旅するように和菓子と出逢う」はどのように生まれたのでしょう。

当社では、BtoBで販促プロモーションのお手伝いを行うなかで、以前から自社サービスの展開に取り組んでいます。「旅するように和菓子と出逢う」はその一つとしてスタートしたものです。

BtoBの販促プロモーションの仕事の先にはBtoCをされているお客様がいるわけですが、当社では今までその先にある消費者の課題解決に間接的には携わってきたものの、直接的にも自分たちの知見を生かして何かできないかと、BtoC事業に取り組むことを決めました。

私は戦略デザインファームのプランナーとして、昨年「旅するように和菓子と出逢う」の構想を立ち上げ、プロジェクトの中心として半年をかけて準備を進めてきました。ローンチ後もサービスの運営をはじめ、和菓子店の取材執筆などすべてに携わっています。

「ニーズはあるのに選ばれない」。和菓子の課題に着目

「ニーズはあるのに選ばれない」。和菓子の課題に着目

――なぜ和菓子を取り扱うことになったのですか。

もともと食品関係で新規事業を立ち上げたいと考えていました。私自身もお菓子が好きなのですが、世間の需要は洋菓子のほうが多いと感じていました。たとえばカフェでお茶をする時に食べたり、プレゼントで選んだりするのは洋菓子が比較的多いですよね。

和菓子と洋菓子でどういうところで差がつくのか疑問に思いました。社内で女性対象のアンケートを取りました。結果は「和菓子が好き」という人は9割くらいいたのですが、「月1回以上和菓子を食べる」人は7割、「月1回以上和菓子店で和菓子を買う」人は2割くらいでした。消費者は、和菓子は好きなのに、和菓子店で購入する機会が少ないのです。

とくに若い人たちにとって、「和菓子店は何が売っているかよくわからない」とか「お店に入ったら何か買わなければいけない気がする」など、目的がないとお店に入りづらいイメージも強いようです。食べるのは好きだし、もらってもうれしいのに、選ぶ機会は少ないという消費者サイドの課題が明確になりました。

一方、和菓子店サイドの課題もあります。実際に和菓子店の方にお話を聞くと、最近は行事のときに和菓子を選ぶなどの定番の需要が減っていたり、お店の敷居が高く見られたりしていることから、購入が減っていることがわかりました。

一部のお店では独自のECサイトを持っていても、まだまだ取り組んでいるところは少ない。和菓子店は歴史やこだわりのあるお店が多いのですが、そういう部分を伝える機会や場所が少なく、そもそもお店のことを知ってもらいにくいという課題もあります。

こうした消費者、和菓子店両者の課題を解決したいと思い、「旅するように和菓子と出逢う」を立ち上げました。

こだわり派の人に向けて、ありのままの思いと写真で和菓子の魅力を紹介

――「旅するように和菓子と出逢う」の特徴を教えてください。

和菓子は他のお菓子のカテゴリにくらべ、特殊だととらえています。多くのお店は何代も受け継がれているなど長い歴史があり、定番商品があって、それをベースに職人さんが想いを込めて、商品を作り続けているという背景があります。

また、流行や一過性のものではなく、長く食べ続けてもらえるところが和菓子の良さです。そうしたものづくりの背景の部分に共感してもらえるように伝えられるサイトを目指しました。

ターゲットは、こだわりのものが好きな女性です。おいしそうだからと瞬間的に買うというよりも、ストーリーやこだわりを知った上で、いいものを手にしたいという人です。ターゲットも世代も広いのですが、入り口としてはそういうこだわりのある人から広げたいと思い、サイトの作り方もそこを意識し、記事形式で和菓子を紹介しています。

サイトに掲載している商品は、営業から取材まですべて私が行っています。自分が興味を持ったお店に営業をかけて、実際にお会いしてお話をさせていただいて、伝えたい内容を私の言葉で伝えています。

私はプロのライターではありませんが、きれいな文章よりも、和菓子が好きな私が伝えたいと感じたこと=購入者が知りたい情報だと思っていて、これを伝えることが大切なんじゃないかと思っているんです。職人さんの人柄のよさや、和菓子を作る上でのこだわりの部分を素直に伝えるようにしています。

実際、出店者の方にお会いしてお話を聞けば聞くほど好きになって、もっと伝えたいという思いが強くなっていくのを実感します。

――綺麗な写真が多く、文字量もほどよくて読みやすいですね。

弊社の強みだと思うのですが、自社カメラマンが同行し撮影しています。この写真を使ったサイトの表現やデザインにはこだわっています。

特にターゲットとなる女性の中でも、読み物を読む人・読まない人、タイプ的はそれぞれですが、どんなタイプの人でもあまり負担にならないくらいの文章量を考え、写真を多くしたりなど工夫を凝らし、今のレイアウトになりました。

みなさん気軽に読んでくださっていて、「お店周辺の場所について詳しく知りたい」などの意見も多く、やはり和菓子そのものだけでなく、お店やものづくりの背景にも興味のある方が見てくださっているのだなと実感しています。

1店ずつ取材しながら、ストーリーや本質をていねいに伝えたい

1店ずつ取材しながら、ストーリーや本質をていねいに伝えたい実際の撮影風景。作り手の生の言葉を聞くことを大事にしているという

――サイトには、いろんな地方の素敵な和菓子が紹介されていますが、どういう観点で選んでいるのでしょう。

当然ながら、和菓子店は日本全国にあります。地域は特に限定せず、良いと思ったものを知ってもらいたいと思っているのですが、紹介しているのはやはりこだわりがあるお店。歴史が古いお店でも、最近始めたばかりのお店でも、作り手が「本当にいいものを提供したい」という思いを持っているところをご紹介したいと思っています。

和菓子店の規模はさまざまですが、家族で経営されているようなお店がほとんどです。小規模なお店だと、売っている人=職人さんだったりして、自分たちでECを回したりすることまで手が回らないのが実情です。

本当はとても魅力的な商品があるのにあまり知られていないお店も多いので、そこを私たちがお伝えできればと思っていて、今後も出店数を増やしていきたいと考えています。

必ずしも小規模なお店だけをターゲットにしているわけではないのですが、独自にECに力を入れることが可能な超有名店などより、私たちがお手伝いできるお店の「まだ知られていない良いものを広める」というポリシーを大切にしています。

和菓子のECサイトといえば、地域を限定して個人が紹介しているものはありますが、だいたいは総合通販やお取り寄せサイトのカテゴリのひとつとして扱われています。

たくさん和菓子店を集めた大規模なサイトは、様々な商品から簡単に買えるのがメリットではありますが、その場合有名人気商品だけがトップに上がってきて、あとはほとんど価格と写真、コピーなどわずかな情報で選ばざるを得なくなりますよね。

「旅するように和菓子と出逢う」では、まず和菓子が作られている背景を伝えたいという思いがありますし、数で勝負すれば競合が出たときに差別化がはかれず負けてしまうだろうとも考え、1店1店ていねいに取材して、ストーリーや本質を伝えていくという方向性をとっています。そうすることが他社との差別化になりますし、長い目で見ても続けていく意味があるのではないかと思っています。
効率だけではなく、手間暇もかけることが和菓子店と寄り添うことのようにも感じています。

共感意見や「ここで勧めているものなら間違いない」との高評価も

――サービスを開始されて1ヶ月。ユーザーの反応はいかがですか。

まだ広告もそれほど打っていないので、集客はこれからです。今は知り合いとか関係者などで、身近な人に使ってもらってリアルな声をいただくようにしています。和菓子が好きな人にもそうでない人にも使ってもらい、いい意見も悪い意見もすべて教えてもらっていますね。

反応としては狙い通りというか、やはり他にあまりないサイトなので、そこの部分にすごく共感してもらっているなと感じます。あとは「このサイトで勧めているものなら間違いないだろうな」というイメージを持ってもらえているみたいで、ありがたいです。和菓子の作り方まで見ることができるので、「意外と若い人が作っているんだ」など新しい発見をする若い人もいたりして、そういう気づきの声も多く嬉しいです。

ちなみに取り扱っている商品の一つであるカカオの甘納豆は、ちょうどテレビの取材も受けたみたいで人気が出ていて、もう売り切れてしまったんです。ご家族3人で作っていて手が回らなくなって。大量生産できないところも和菓子らしいですよね。

まだ紹介している和菓子店は7店舗なのですが、次にご紹介できるお店も何店か決まり取材を進めているところです。今後お店をどんどん増やしていきながら、並行してお店や消費者との信頼関係も築いていきたいと思っています。

和菓子好きな人が集まり、コミュニケーションができる場所に

和菓子好きな人が集まり、コミュニケーションができる場所に

――今後の展望をお聞かせください。

和菓子が好きな人に集まってもらえる場所でありたいです。今はとりあえずオープンさせるという目標をクリアさせたところなので、今後は繰り返し見てもらえる場所にできるよう動いていきます。

和菓子を買おうと思った時に、このサイトを見ようと思っていただけるよう、日頃からサイトで販売している和菓子の記事だけではなく、和菓子全般の情報を発信し、SNSも活用しながらユーザーと双方向でコミュニケーションがとれる場所にしたいです。

当社にとってBtoC事業は初めてなので、コミュニケーションのはかり方なども、テスト的にトライ&エラーを繰り返しながらやっていきたいです。

――「旅するように和菓子と出逢う」は商品を購入するECサイトではありますが、読み物としてもとても魅力的で面白いと感じています。記事や写真をはじめとした視覚的な楽しさから「和菓子」そのものに興味が湧くようなビジュアルで、今後も一ファンとして、追いかけ続けていきたいと思っています。

「旅するように和菓子と出逢う」ECサイトはこちら