物流とシステムの観点から見る EC事業者の“フェーズの壁”と解決策

野中 真規子 [PR]

中:株式会社イー・ロジット 代表取締役社長 チーフコンサルタント 角井 亮一 氏
右:株式会社コマースニジュウイチ 代表取締役 田中 裕之 氏
左:ソイコム株式会社 代表取締役社長 小林 敬介 氏

EC事業者が成長するごとに現れてくる課題はさまざまあるが、顧客接点である物流と、業務の根幹を担うシステムと向き合わないことには解決できないことが多い。

そこでEC事業者の代表として糖質オフ食品を販売するソイコム株式会社の代表取締役 小林敬介氏がファシリテーターとなり、EC物流代行・コンサルティングを行う株式会社イー・ロジット(東証JASDAQ:9327 以下、イー・ロジット)の代表取締役社長 角井亮一氏と、ECシステムを構築し、運用・保守する株式会社コマースニジュウイチ(以下、コマース21)の代表取締役社長 田中裕之氏に、課題解決のヒントや、EC業界の未来についてお話しを伺った。

物流、システムの側面から、20年以上EC業界をサポートする2社

小林 まずは、両社の事業概要をご説明ください。

角井 イー・ロジットはECの物流代行と物流コンサルティングを行う会社で、創業は2000年、今年21年目になる企業です。おかげさまで今年の3月26日に上場いたしました。

田中 コマース21も1999年に創業し、企業のECシステムを構築し、運用・保守する受託開発のSIer(エスアイヤー)として事業を展開しております。2021年4月にサブスクリプションでECシステムをご利用いただけ、カスタマイズも可能な拡張性と可用性に優れた新たなサービス「ECo2(エコツー)」を販売開始しました。

成長後は、物流の波動対応とカスタマイゼーションが必須となる

成長後は、物流の波動対応とカスタマイゼーションが必須となる

小林 物流においては、EC事業者の事業フェーズごとにどのような課題が生じるのでしょうか。

角井 物流業務は創業時なら自社でされる事業者が多いですが、だいたい月商300〜500万円くらいの規模になると、出荷に手が回らなくなります。そこでたいていの企業は物流業務をアウトソーシングする流れとなります。

そこからさらに出荷数が大きくなると、波動対応に悩むことになります。月の出荷件数が1万件を超えてくると、委託先倉庫での波動の吸収ができないケースも増えてくるのです。

そもそも伸びていく会社というのは、うまくプロモーションをかけて新規獲得し、そこからまた利用者が減っても、また新規獲得をして‥という山をうまく作れる会社だと思っています。そして、その山の部分で物流が対応できるかがポイントになります。せっかく物流をアウトソースしても、キャパシティが足りず作業ミスが頻発するとか、規模は大きくてもロボティクス化されて融通がきかない倉庫では対応できないわけです。

イー・ロジットは現場に800人ほどのスタッフがおり、手の込んだラッピングや、エコに配慮した紙テープでの梱包など、クライアントのブランドの独自性ある世界観や価値観にあわせてフレキシブルな対応をしています。配送会社も選んでいただけます。パソコンならユーザーの意向で部品を組み合わせる「デルモデル」のようなマスカスタマイゼーションを物流において行っています。

コストの見直しで倉庫を変える方も多いのですが、コストが上がっても長期的に山にきちんと対応できれば売り上げが上がることも多くあります。またマーケティングコストのほうが物流コストより高いこともありますので、そちらを見直すことも実は大切です。

小林今後EC物流はどう進化、発展していくべきだと思われますか。

角井イー・ロジットでは、ECからオムニチャネルに対応していく流れを見据えています。いまのEC市場は20兆円。2026年には30兆円となり、1. 5倍となっていきます。また我々が視野に入れているオムニチャネル市場は81兆円あり、両方で111兆円の市場となります。

弊社では倉庫に入っている在庫だけではなく、お客さまのところにある在庫も管理範疇としてとらえながら、オムニチャネルを主流に対応できる物流を実現していきます。

システムは、消費者の利便性と可用性を追求するために活用していくべき

システムは、消費者の利便性と可用性を追求するために活用していくべき

小林 ECシステムの観点から見ると、EC事業者で伸びているところと伸びていないところの差はどんなところにありますか。

田中 事業者さんによって、使うシステムや投資できる額もいろいろです。Eストアーグループでは、Eストアーの手軽に始められ、且つ可用性の高いASPカートシステムの「ショップサーブ」や、事業の主軸もしくは重要軸としてECをとらえているEC事業年商30億以上の企業向けにシステム構築を行うコマース21の「Sell-Side Solution」を展開しています。実はBtoCにおけるEC事業年商30億円以上の企業は、国内全体で300社程度。思っている以上に日本における企業のEC売上げ規模はまだまだ小さく、月商300〜500万円、下だと月商100万円規模も多い。

最近の傾向だと、伸びていない事業者さんはECを「売るチャネル」として運営し、売るための販促はインターネットでプロモーションと考えている事業者さんが多い印象です。一方で、大きく成長している事業者さんは、お客様の利便性・可用性を高めるために、ECを大きく活用するという考え方が強い印象です。

お客様といっても、消費者(コンシュマー)と顧客(カスタマー)の2通りあります。消費者は何かものを買いたい人です。消費者(コンシュマー)をいかにファンである顧客(カスタマー)に変えていくかが、今後のEC運営ではとても重要です。

物流にフォーカスをおいて言えば、システム会社がやるべきは消費者の利便性・可用性の追求です。商品を買う、売ると言う行為をシステム面からサポートするのみならず、物流と一蓮托生で一本のステークホールドとして、消費者の利便性・可用性を考えなければなりません。

オムニチャネルという言葉がありますが、私はオンラインとオフラインがマージ(融合)されたOMOという考えが重要になると考えています。以前は分離独立してしかるべきだったオンライン、オフラインの良さを融合し、ひとつの時空間として消費体現・体験を提供する。消費体現・体験を最大化するための利便性・可用性を追求することで、ファンである顧客が増える時代がより鮮明になってきています。

なぜかというと、10年前にはまだ活用されていなかったSNSが現代は大きく広がっており、ファンである顧客を大切にすることで、SNSを介した情報が流れていきます。その昔には「口コミマーケティング」が流行りましたが、現在ではSNSを介した口コミマーケティングが大きな影響力になっています。Eストアーとしてもコマース21としても、ファンである顧客の利便性・可用性を徹底的に追求することに強い意識を持っています。

年商10億円頃から生じる課題を、新システム「ECo2」でクリアに

小林 EC事業が拡大し、年商10億円を超えてくると表面化してくる課題はどんなものでしょう。

田中 「10億円まで売れたから、さらに売るために消費者(コンシュマー)向けのマーケティングだけをさらに強化しよう」という、もの売り目線でいる事業者さんは、これからの時代は成長が難しいと思います。
消費者は事業者の過剰な不特定多数へ向けたマーケティング活動に疲れてきていると思います。事業者さんは今まで以上に顧客(カスタマー)と向き合い、顧客の利便性・可用性を追求するべきです。そして今こそ、顧客の利便性・可用性を追求した独自の施策を実装するために、システム投資を検討するべきです。しかし、システム投資は費用が大きく、投資実行の判断に至れない事業者さんもまだまだ多いです。大きなシステム投資は無理。しかし、売上は伸ばしたい。だからプロモーションマーケティングを強化する。しかし、一向に売上貢献のある効果が出ない。このような負のスパイラルに陥るのは、消費者と顧客の違いを理解できていないこと。顧客の利便性や可用性を追求していないからです。

そこで活用していただきたいのがコマース21の新サービス「ECo2(エコツー)」です。ASPショッピングカートが月額家賃の集合住宅、ECシステム開発が所有を目的に、理想とする土地に理想とする一戸建ての建築とするならば、一戸建てを月額家賃で賃貸できるのがECo2。集合住宅は安いけれど自由に改装などができず、所有の一戸建ては自由度が高いが土地や建物の初期投資、メンテナンスなどの維持管理に多大な費用がかかります。ECo2は一戸建てであるにもかかわらず、土地や建物のメンテナンスなどの維持管理をコマース21が行い、所有する一戸建てと同様に、自由に改装、改築していただけます。自由に改装、改築できる一戸建てを所有することなく、月額費用だけでご利用いただけるのです。気軽にご利用を開始していただき、思ったようにうまくいかなければ、気軽にご利用を止めていただけます。

顧客に送るのではなく、ニーズに応じて「届ける」物流も実現

顧客に送るのではなく、ニーズに応じて「届ける」物流も実現

小林 ECo2は物流面でイー・ロジットさんの倉庫管理システム(WMS)と連携されています。物流とシステムがひとつのソリューションになることで、顧客の利便性と可用性を追求するための施策がいろいろできますね。

田中 たとえば従来はA店舗で購入された商品は、A店舗の倉庫から発送され、B店舗で購入された商品はB店舗の倉庫からされるのが当たり前でしたが、どちらも当社のクライアントであるならば、システムと物流倉庫をつなげることで、購入者へは両店舗で購入した商品を同梱してお届けすることもできるようになります。
複合的にECシステムと物流を繋げることで、店舗単体で考えていた物流の常識や概念大きく変革し、まだまだ購入者の利便性と可用性は高めることが出来ると考えています。

小林 事業者目線で言うと、本店でもっとリピート率を上げるために施策をしようと考えたとき、壁になるのが物流とシステムです。両方とも制約条件があるから実現できないことも多いのですね。そこを2社が組むことで、制約をクリアにしたカスタマイゼーションができ、差別化ができます。同じことを自社でやろうとすると、倉庫を立ち上げるとか、システムを何億もかけて作るしかありませんが、ECo2を使えば気軽に一歩を踏み出せますね。

ECインフラは黎明期、物流とシステムが組むことで本質改善に取り組みたい

ECインフラは黎明期、物流とシステムが組むことで本質改善に取り組みたい

小林 ECの未来について、お2人はどのようにお考えでしょうか。

田中 消費者の利便性や可用性を軸に考えると本質的に改善すべきことが多く、物流面でも、物流システムとECシステムが繋がることで新たな消費者保全が実現できると考えています。

たとえば店舗は機会損失を避けるために、欠品商品であっても在庫ありと表示をして、注文が入ったら「発送までに少し時間がかかります」というような店舗運営が、当たり前のようにまかり通っています。本来は正しい在庫数が商品詳細ページに反映されるべき。販売可能在庫の数量を店舗自身が入力できる現状は、店舗にとっては便利ではあるが消費者にとっては、すぐに欲しいものがすぐに手に入らず、何が事実で何が齟齬なのかわからなくなります。これは大きな消費者利便性の低下です。本来在庫は販売可能在庫(保有)、補充可能在庫(仕入可/製造可)、補充不可在庫(廃盤)で管理され、その事実が商品詳細ページに反映されるべきです。「売る」という結果論ではなく、消費者に正しく利便性と可用性を向上させないと顧客は増えない、リピート顧客の維持ができない時代にきています。

これからのECシステムとしては、新たなデータとして「仕入れ/製造」の計画、納品までのリードタイムなどを管理していきます。加えて、在庫回転数や商品閲覧からの購入転換率などを管理していきます。この裏方データと表方データの結合が、店舗にとっては新たな価値向上、消費者にとっては新たな利便性向上につながります。

インターネット黎明期がインフラサービスの充実が不可欠だったように、ECの拡大、拡充はECインフラの充実が不可欠になると考えています。生活に不可欠なECの本質部分をシステムで整合したいと考えています。

物流側も、顧客の利便性と可用性を高めるサービスはまだいっぱいあります。SKUやJANコードで商品管理をする目的は「管理」です。しかし1つ1つの商品がすべて独立したユニークコードで管理する視点を持つと、柔軟なアソートセット組や、発生した出荷トラブルも全工程のトレースを把握した上で最適な顧客対応が出来るメリットが生まれます。やはりこれからのECは顧客に徹底的に向き合い、顧客の利便性と可用性を追求する時代だと考えています。店舗が売るモノを消費者が買う消費重視のECから、店舗が生み出す複合的な体現・体験を、消費者が手に入れる体現・体験重視のECへと変革していくと考えます。

角井 今は企業のポリシーが物流まで反映されていなければ顧客を増やすことは難しい。「エシカル」をうたっていて、商品やサイトの世界観をエシカルにしていても、パッケージがプラスチックだらけでは顧客の期待を裏切ってしまい、リピートにつなげることはできないでしょう。

小林 ECのみならず、会社の理念が明確で、それをきちんと体現できる会社が残っていくと思います。システム、サイト、問い合わせ対応、サンクスメール、梱包、商品の届き方‥すべてで一連のブランディングをしていかないと、顧客からの信頼はなくなりますよね。

田中 これからECは、物流が価値創造において主役一端を担う時代。単にモノを出荷するのではなく、顧客の利便性と可用性を重んじた価値を付加したサービスとしての出荷にしていくべきです。

ですから、送料に目くじらを立てている店舗には厳しい時代になると思います。送料が千円かかるなら、届ける費用ととらえるのではなく、顧客が千円を価値と認め、喜んで千円を支払う付加価値の創造が求められます。

角井 カルティエがニューヨークでデリバリーをしているのですが、それはウーバーブラックという、黒塗りの車で、ブラックスーツにブラックタイをつけてかっこよくきめたスタッフが商品を届けるんですね。段ボール箱で届けるよりも、何倍もの価値が生まれるわけです。

田中 逆に中古の段ボールを使うなら、サステナビリティを重んじたリユースを創造した価値として訴えればいい。ブランドや商品に合った方法を選び、ポリシーとして打ち出すといいと思います。

角井 他社からイー・ロジットに切り替えたEC企業様では、顧客から「梱包がとてもよくなった」など評価コメントが寄せられることも多くあります。緩衝材、テープの貼り方、送り状の貼り方など細かいところでも、なんとなく丁寧さは伝わります。とくに日本人はおもてなしの文化が根強いので、リピートにつながるかどうかは、案外そういうところにも左右されますよね。

田中 オンライン、オフランが融合された新たな消費体現・体験時空間が始まっています。ECで購入したから仕方ないと、顧客が我慢をする時代はすでに終わりました。
物流はECにとって、単なる出荷の役割ではなく、重要なサービスである認識が、事業者さんや消費者にも理解されてきたと思います。

大量生産、大量消費という20年以上続いたサイクルが終わり、消費者は消費よりも複合的な体現・体験を求めるようになりました。EC事業者の方が新たな市場構造に迅速に向き合えるように、システム会社は受託開発という受け身の立場から、大きく変革をすべきだと考えています。

システム会社は物流を、物流会社はシステムを、お互いの事業を深く理解しながらパートナーシップを組み、新たな価値を創造していかなければならないと思います。

小林 マーケティングというと、つい広告販促に目を向けがちですが、物流とシステムが大切であることがあらためてよくわかりました。事業者も受け身ではなく、今まで以上に勉強、判断しないといけない時代が来ていますね。今日はありがとうございました。


記者プロフィール

野中 真規子

ライター。著書(電子書籍)『片付けられない、という「思い込み」をなくして、今すぐ片付けるための本』(ハウスキーピング協会)が好評発売中。ECのミカタにおいては、ECサービスのお話から伝わる本質的なメッセージを受け取り、拡散することが歓びです。

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