海外配送のCX向上で差別化を。米国の事例から見る、越境ECで気をつけたい輸送業者選びのポイントとは?
コロナ禍や円安が続く昨今、越境ECに活路を見いだす事業者が増加している。競争が激化するなかで、つい配送コストへと目をむけがちになり、受け手側の利便性については盲点になっていないだろうか。
今回の記事では、国際総合物流「UPS」の関山究氏と、クラウド出荷管理システム「Ship&co」のベルトラン・トマ氏との対談から、いま求められている配送サービスのヒントを探る。越境ECにおける受け取り側の顧客体験向上の重要性と取るべき対策について、米国現地の情報を交えながらお伝えする。
越境ECセラーの競争は、激化している
——まずは両社の会社概要について教えてください。
関山:UPS(United Parcel Service, Inc.)は1907年に創業し、現在までに115年の歴史を持つアメリカの国際総合物流企業です。現在、220の国や地域でサービスを提供しており、日本においては1990年よりクーリエとも呼ばれる国際宅配事業を開始しています。自社機・チャーター機を含めて約600機の貨物機を運航し、日本では成田空港・関西国際空港で就航しています。
ベルトラン:2008年に日本の弁当箱を扱う「Bento&co」を個人創業して以来、長年に渡り越境EC事業に携わってきました。この経験を活かし、2016年に出荷管理システム「Ship&co」を開発し、2019年2月 シンガポール法人 「Ship&co PTE.LTD.」を設立して今に至ります。
当社の出荷管理システム「Ship&co」は、Shopify、Amazon、eBay等の複数ネットショップの出荷を一元管理 し、送り状の発行や追跡などの事務作業を効率化します。10社以上の運送業者と連携しており、国内外問わず、1つのインターフェイスで出荷作業を完結できます。アプリの他に運送会社と自社システムを連携するというAPIソリューションも提供しています。
——昨今、越境ECをめぐる状況はどのように変化していますか?
関山:コロナ禍以降は、越境EC事業が急激に伸びています。また昨今は円安により、日本のセラーにとっては追い風が吹いている状況で、実際に当社でも通関の件数が増加しています。そうしたなかで、セラー同士の競争も激しくなっているのが現実です。
ベルトラン:「Ship&co」の新しいユーザーも増えています。これまで海外発送時に利用していた国際輸送サービスが、コロナ禍や昨今の国際情勢を取り巻く状況で、一部の地域において停止・遅延したことも、後押ししていると考えられます。
関山:そうですね。当社は自社フライトを保有しているため、そうした国際的な状況のなかでも安定して荷物をお届けすることができました。自社のネットワークにより安定したサービス提供ができる点が当社の強みです。
バイヤーが求める輸送の「品質」とは?
——日本において、越境ECを行うにあたり事業者は何を重視していますか?
関山:荷主様からお問い合わせいただくのは、やはり費用面です。同時に、最近では輸送のリードタイムと品質を気にする事業者が増えています。単価が安い場合はなかなか輸送費をかけられない現実もありますが、安いサービスを使ったものの、いつ届くのか分からなかったり、荷物がダメージを受けたりした経験を経て、輸送クオリティへのニーズも高まっています。
クレームが発生すれば事後処理も多くなりますし、同一商品の在庫があるとも限りません。こうした状況を回避するために、確実なクーリエを選択する事業者が増えています。
ベルトラン:一般的にセラーは料金が安い輸送サービスを探しており、船便でも良いと考える事業者もいます。しかし、特に越境ECにおいてリードタイムは非常に大切です。アメリカのサイトでは、注文時に配達オプションが5つほどもあり、値段も10ドル程度から50ドルかかるものにまで分かれていることが多くあります。
価格が高い商品であればある程度の送料も許容されますし、2週間かかるより2日で届く方が良いと感じる消費者もいます。運送会社の送料だけではなく、物流では梱包からピッキングまでさまざまなコストがかかります。運賃の金額をそのまま請求するのではなく、定価に物流コストを乗せる発想を持つことが大切です。
関山:「輸送会社に対して求めるものは何か?」という統計があるのですが、上位に並ぶのは配達時間、商品ダメージの有無、そして費用です。コストにばかり目が行きがちですが、実際にバイヤー目線で考えると、重要なのはリードタイムと輸送品質だということが分かります。競合との差別化の意味でも、これらを重視した輸送業者選びが不可欠です。
商品を輸送するときはどうしてもセラー目線になりがちですが、大切なのはバイヤー、つまり消費者の視点に立つことだと考えます。セラーのコストだけではなく、買う人がどうしたら受け取りやすいか、何に手間をかけたくないのかを考えることが、売上を伸ばすポイントになるのではないでしょうか。
——これから本気で越境ECに取り組む事業者が気をつけるべき点は何でしょうか?
関山:先ほどお話ししたような点から、輸送業者選びは非常に大切です。UPSでは「Ship&co」のようなソリューションを提供する他社と連携しながら、安定したリードタイム・品質で輸送を行い、バイヤーにとってもセラーにとっても有益なサービスを実施しています。10月からは成田に就航している機材をB767からB747にアップサイズして、より安定した最適な輸送ネットワークの構築を継続的に努めています。
ベルトラン:輸送時の衝撃によるリスクやクレーム処理の手間を踏まえ、越境ECでは国内の取引以上に梱包をしっかりする必要があります。また、できればネイティブスピーカーが対応に当たるなど、カスタマーサポートの充実がより大切になると考えます。
さらに、HSコードも重要です。インボイスに統計品目番号とも呼ばれるHSコードの記載があれば、商品名だけの場合よりも簡単に通関ができます。
関山:品物によって税率が変わってくるので、あいまいな商品名の記載をしてしまい、現地の通関士が想定と違うHSコードを割り振ると、税金が高額になってクレームに発展することもあるので、通関士に丸投げするのではなく、HSコードを記載しておくことは重要です。
ベルトラン:「Ship&co」では、Shopifyの商品管理ページに予めHSコードが登録されている場合、その情報も同期されます。Shopifyですと、HSコードが分からなくても、商品タイプを入力することでHSコードが表示される仕組みもあります。
関山:過去に振り分けられたHSコードと紐付けてデータ管理していくことも財産になりますよね。
来るホリデーシーズン!早期対策が鍵に
——これからアメリカを筆頭にホリデーシーズンが始まります。繁忙期を迎えるに当たり、越境EC事業者が注意すべき点はありますか?
関山:ホリデーシーズンは日本でいう年末年始に当たるのですが、規模としてはその何倍ものイメージです。
ベルトラン:アメリカではクリスマスを前にしたブラックフライデーなどにおいて、友人や家族にプレゼントを贈るための注文数が激増します。最低でも1ヶ月ほど前までに、セールスプロモーションやマーケティングを考えておく必要があります。その時期に売れる商品を把握し在庫を確保しなければ、ビジネスチャンスはありません。
また昨今はエコへの意識の高まりもあって、良いものを長く使う傾向も強まっています。こうした消費者の変化を捉えながら、定価を下げるだけではなく、品質の高いものを提供していく姿勢も大切です。
関山:UPSでは、毎年サンクスギビングからクリスマスまでのピークシーズンに、およそ10万人の臨時雇用を行っています。配達から貨物の仕分け、データ処理まで、あらゆる人手が必要となる時期だからです。私たちは顧客体験の向上を大切にしていますので、大切な人へのプレゼントを安定して届けるためにこうした対策を取っています。
実際に、昨年のデータでは12月にオンタイムで配送できた率は96.9%と、同業他社と比べても8〜9%高い数字となっています。
——バイヤーの顧客体験向上の観点から、どのような対策を行っていますか?
関山:UPSではアクセスポイントという仕組みも確立させています。これはアメリカや欧州をはじめとする世界各地において、UPSのセンター施設以外でも貨物を受け取ったり出したりできる仕組みです。一例としては、コンビニやガソリンスタンドなどが挙げられます。現在、全米で2万2千、欧州で2万3千のアクセスポイントを設置しており、アメリカでは全人口の92%の方が、5マイル(約8㎞)以内にUPSのアクセスポイントがある状況にまでなっています。
また「UPS My Choice®」というサービスを使えば、受け取り場所の変更なども簡単に行うことができます。このサービスには、アメリカの全人口の約20%が登録しています。特にアメリカでの越境ECを考える場合には、UPSの利用はバイヤーの利便性増につながり、オーダー増加も望めます。
——「Ship&co」を利用するメリットについて教えてください。
ベルトラン:時間の節約につながる点が大きなメリットです。住所や商品名をコピー&ペーストしたり入力したりするのは手間がかかり、ミスのリスクもありますが、「Ship&co」を導入いただくことで、簡単にインボイスや送り状を発行することができます。
「Ship&co」では、UPSのペーパーレスインボイスに対応しているので、国際輸送に必要な通関書類を電子メールで税関へ提出することができ、通関がスムーズになります。紙のインボイスの印刷は、不要です。時間やコストの節約になります。
もともと10年以上越境ECに携わるなかで、自社サービスの倉庫スタッフのために作ったシステムなんです。誰でも簡単に操作できることを大切に、シンプルなUI・UXを実装しています。マーケットプレイスとの連携も、Shopify、eBay、etty、BASE、Magento、AmazonマーケットプレイスからYahoo!ショッピングまで多岐に渡るのが強みです。
バイヤー目線の「攻めの物流」で事業者を支援
——今後どのような課題を持つ越境EC事業者を支援していきたいと考えていますか?
関山:当社ができることは、やはり安定的なサービスの提供です。「Ship&co」との連携によるシームレスなプロセスを通じて、競争が激化する越境ECにおいて、セラーの差別化に貢献できればと考えています。
物流はどこか「時間通り届いて当たり前」の減点方式のところがありますが、不確定な要素が多い現在の輸送環境でも安定的にオンタイムでお届けすることを越境EC事業にとっての付加価値としていくことが大切です。守りの物流ではなく、攻めの物流として、事業者を支援していきたいです。
ベルトラン:送り状の作成って、はっきり言って楽しくないですよね(笑)。だからこそ、その時間をできる限り短縮し、荷物を早く・ミスなく届けられることが重要です。誰もが簡単に使えるシステムを今後も提供していきたいと思います。
——最後に、今後の展望を教えてください。
関山:荷主様のビジネスの成長に貢献できるように、ピークシーズンをしっかりと乗り切りたいと思います。自社航空機の数をさらに新規で8機追加発注し、日本に就航する航空機材もアップサイズするなど、UPSでは常にサービスの安定した提供のための準備を整えています。アクセスポイントや「UPS My Choice®」のさらなる拡充や、「Ship&co」をはじめとする他社との連携を通じ、HSコードなどに関連する利便性も向上させていきますので、ぜひご利用を検討いただければと思います。
ベルトラン:今までは国内のみで事業を展開していたものの、「Ship&co」を使って想像したより簡単にできるならやってみたい、と越境ECを開始する方もいます。多くの事業者にご利用いただけるように、「Ship&co」の画面に運送業者への集荷依頼機能を追加 するなど、さまざまなオプションサービスの準備を進めています。今後もUPSとの連携を強化し、越境EC事業を一緒に支援していきたいと思います。
関山:UPSのサービスそのものに関する質問はもちろん、越境EC事業を開始するのが不安という事業者も多いかと思いますので、現地での輸送などに関して疑問がある方は、どんな小さなことでもぜひ一度お問い合わせください。
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