これから選ばれるのは“脱炭素”する会社。CO2削減をコストではなく価値にする方法
2023年2月9日・10日の2日間にわたり、東京ビッグサイトにて「イーコマースフェア 東京 2023」が開催された。今年で16回目を数える「イーコマースフェア」は、EC業界のトップランナーたちが集結する一大イベントである。
2023年のコンセプトは、「付加価値の創造と進化するECの未来像」。“オムニチャネル”や“越境EC”、“エシカル・サステイナブル”といった10のテーマに沿って、多彩な出展企業による展示やセミナーなどが行われた。
本稿ではその中から、“脱炭素”にフォーカスしたセミナー「BtoB-EC×カーボンニュートラル ~脱炭素社会を見据え、いま私たちにできること~」の様子をレポートする。
<登壇者>
・株式会社Dai 取締役COO 鵜飼智史氏
・株式会社IHI 高度情報マネジメント統括本部デジタル創造部デジタルアーキテクチャグループ 主査 羽田野玲氏
IHIの事業を支えるDaiのSaaSサービス
国内屈指の総合重工業メーカーIHIと、BtoB-ECの第一人者であるDaiがセミナーを共催したのは、Daiの提供するECクラウドサービス「Bカート」をIHIグループのIHI物流産業システム株式会社(以下、ILM)が利用したことがきっかけだという。
BtoBの受発注業務をEC化するECクラウドサービス「Bカート」を用いて、ILMでは医療機関をはじめとするさまざまな施設に、業務用の空気清浄機等のオゾン関連商品を販売している。以前はFAXやメールなどを使ってアナログで在庫確認をしていたが、現在では160社以上の企業との取引を「Bカート」にて行っている。販売代理店への情報提供といった属人化しやすい業務も、「Bカート」を通じて一元管理している。
「Bカート」の利用を通じてデジタル化して得た知見と販売の仕組み作りは、今やIHIグループ内の他部門でも活用されている。IHIでは、受発注システムはフルスクラッチも選択肢の一つであったが、ローンチにもアップデートにもスピードが求められる時勢に合わせて、SaaSのサービスを選択したそうだ。
整備されつつあるカーボンニュートラルへの道筋
さて、ここからセミナーは本題へ。まずはカーボンニュートラルの概要と現在地について、羽田野氏が説明した。
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言。これは日本のみならず、世界中の国々が共通して掲げている目標だ。実現に向けて、多くの業界で環境対策の強化を今後求められることになる。
各企業の取り組みを支援するため、公的な枠組みも徐々に整えられている。2022年1月には、経済産業省が産官学の協働による「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」の基本構想を発表。商品・サービスの原料調達から廃棄・リサイクルまでの全サイクルにおける温室効果ガスの排出量を、CO2に換算して表示する仕組み(※)「カーボンフットプリント(CFP)」の概要も2022年3月末に公表された。
また、GX-ETS(日本における排出量取引)では目標達成に向けた段階的なマイルストーンを設けており、第1フェーズとなる2023年度はあくまで企業ごとの自主的な取り組みがメインとなるが、2026年度からの第2フェーズ以降は、目標に合わせて具体的な規律強化なども検討していく。
例えば、企業は自社のCO2排出量を測定して表示したり、自社工場でCO2の削減を図ったり、原料調達時にCO2排出量の少ないものを買い付けたり。そんな脱炭素のアクションがあらゆる企業のサプライチェーンの中で求められる時代は、そう遠くないのである。
(※)経済産業省のカーボンフットプリントガイドライン
https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331009/20230331009.html
DXとGXの両面から脱炭素を目指す
カーボンニュートラルの概要説明に続いて、話題は「Bカート」とIHIの具体的な取り組みの紹介へ。
脱炭素といわれても、話が大きすぎて“自分ごと”として捉えづらいと考える方も多いかもしれない。だが前述の通り、あらゆる企業にとって脱炭素はこれから避けて通れない課題であり、自社のビジネスと結び付けて考えていかなければならない。できることから“脱炭素経営”を始める必要があると鵜飼氏は主張する。
EC関連で今できることといえば、やはりDXが挙げられるだろう。Daiも「Bカート」を通じて事業者のDXを支援していく方針を掲げている。
Daiは「Bカート」によってネットゼロ(CO2排出量から除去量を差し引いて“正味ゼロ”にすること)で商品を売買できる環境を提供し、さらにCO2排出量を表示したり、CFPの証明書発行をクラウド上で行えるUIの実装などを予定している。また、サードパーティーのさまざまなサービスを「Bカート」のアプリを通じてAPI連携することで、脱炭素のための機能を追加していく仕組みの構築を目指しているという。
一方でIHIは、同社のリソースを活かして“脱炭素経営”に向けたCO2排出量・光熱費削減支援と環境価値の創出支援等の多様なGXソリューション提供を予定している。具体的には,産業機器の稼働データを見える化ソリューション。これは,ユーザー自身で光熱費削減の施策を検討できるダッシュボードと非常に簡易に設置ができる測定機器を組み合わせたソリューションである。測定機器を設置することで自動的にデータを取得して、CO2排出量・光熱費をユーザー自身で簡単に管理・削減施策の立案できる。また,取得したデータははブロックチェーン技術で保存され、トレーサビリティにも有用だ。
さらにIHIでは、環境価値の創出支援として、政府がCO2削減量をクレジットとして認定する「J-クレジット制度」への申請支援も行っている。これは、本来なら申請には多額の費用が必要だが、IHIがデータを取りまとめ、J-クレジット申請までワンストップで行うことでユーザーの手間とコストが軽減できる仕組みである。DXとGX、両方の側面からのアプローチが、カーボンニュートラルな社会の実現のためには必要だと鵜飼氏は語った。
脱炭素はコストではなく価値を生み出す
続いてセミナーでは「どんなことから取り組めば良いか」のヒントとして、ある鋼材加工メーカーの事例が紹介された。同社は鋼材の販売先とのやり取りをDX化しており、「Bカート」によって注文を受けている。
あわせて鋼材加工時のエネルギー使用量(電力量)を減らすことで、CO2排出を削減して環境負荷を低減しつつ、光熱費コストを下げる取組を実施中である。
こういった取り組みの成果を測定し、より経営に直結させるためには、精緻なデータ計測が必要であると羽田野氏は説いた。集計の手間を減らして現状を可視化することで、分析や対策の精度も上がり、より大きな成果につながるのだという。
「これからは脱炭素にしっかり取り組んでいる会社が選ばれる時代がやってきます。高い“解像度”でCO2排出量を計測して、そして排出量を適正に表示するのがスタート地点です。光熱費の削減も入口として良いでしょう。まずはこのあたりから、脱炭素経営を始めてみましょう」と、セミナーの最後に鵜飼氏はこう語った。
あわせて羽田野氏は、「脱炭素というと、例えば機械を更新しなければならないといったコストが先行するイメージを持たれがちですが、実はそうではありません。J-クレジット制度などの後押しもありますし、脱炭素に取り組むことは、新たな“環境価値”を生み出すことにつながっているのです」と締めくくった。
脱炭素は「自分たちには関係ない話」ではない。自社の事業全体を振り返ってみて、まずできることから始めてみてはいかがだろうか。