始めるのに遅すぎることはない――50歳で “新人賞”を受賞した個人セラーが語るeBayの始め方
2024年3月に発表された「eBay Japan Awards 2023」で、「New Seller of the Year/ニューセラー・オブ・ザ・イヤー(新人賞)」と「Category Growth Award/カテゴリー グロース アワード」の2冠を(※1)獲得した槇田晴吾氏。50歳で越境ECを始めたという槇田氏は、どのように事業をスタートし、どんな施策で売上を伸ばすことができたのだろうか。eBayで中古ゴルフグッズを販売するストア「JapanGolf Ayasetrade」を運営する槇田氏と、それをサポートする妻の槇田綾子さんに話を伺った。
体調を崩した妻のために、家でできる仕事を探したのがきっかけ
――まず、槇田様がeBayで行っている事業の概要をお聞かせください。
槇田晴吾氏(以下、槇田) 2023年にゴルフクラブやゴルフバッグなど、ゴルフ全般の中古グッズの販売を始めました。自宅で仕事をしていますので、自宅の一室で商品を保管したり、撮影したりしています。仕入れと販売サイトの運営、発送作業は私がやっていて、妻が経理と、商品に同梱する手紙などを担当してくれています。
――バイヤーはどういったエリアの方が多いですか。
槇田 アメリカとカナダの方が8割を占めていますね。
――50歳でeBayをスタートされるまでの道のりと、eBayでビジネスを始めたきっかけを教えてください。
槇田 サラリーマン時代は、ゴルフ関連の会社や不動産の会社に勤めていました。その後コロナ禍に入り、妻が体調を崩しまして、そばにいられるような仕事を探し始めました。やがて「経験も生かせて家でできる仕事」をじっくり考えた結果、ECを始めることにしたんです。実は当初、「評価稼ぎ(※2)の意味でも、売りやすいものから始めるのがいい」という噂を信じて、ポケモン(ポケットモンスター)などのトレーディングカードから始めたのですが、一番安い価格にしてもなかなか売れませんし、1商品の利幅も小さくビジネスとして成立させるのが難しいとすぐに感じるようになりました。そんな時にふらりと立ち寄った中古ゴルフグッズのショップで、ゴルフ用品は国内と海外の価格差が大きく「十分利益が取れる商材になる」と気付いたんです。
高額商品だろうと低価格商品だろうと、1商品を発送する手間は同じです。続けていくためには利幅は重要だと思い、今のショップを立ち上げました。
――以前のお仕事の経験は役立っていると感じますか。
槇田 そうですね。ゴルフ関連事業の会社は入社当時、僕を含めて社員が3人……ほとんどゼロからの立ち上げだったんです。当然、ホームページ作成も自分たちで手掛けましたし、今やっているような仕入れ、商品撮影、商品登録、発送などまでひと通り経験しました。そういえば今回の受賞で、当時の社長から電話がかかってきて、「お前、俺たちと一緒にやっていたことをもう1回やってるじゃないか」と言われましたね(笑)。
ロゴマークは妻の顔写真 商品は毛筆の手紙を添えて送る
――eBayで事業を軌道に乗せるまで、特に注力したポイント、どんな戦略を立てて進めたのかをお聞かせください。
槇田 売り方の手法はさまざまですが、一番重要なのはやはり商品だと当初から思っていました。ですので、品ぞろえを良くするために、とにかく仕入れ先の開拓に力を入れ、日本でも有名で海外でも認知度のあるブランドのものをできるだけラインアップしました。商品写真はゴルファーの方が実際にプレイする時の目線を意識して撮影し、自分のストアのロゴマークを入れました。さらに当初はストアのロゴマークに妻の顔写真を使いました。人の顔が見えたほうが、海外の方に安心感を持ってもらえると思いまして。
槇田綾子氏(以下、綾子) たまたますごくきれいに撮っていただけた写真が1枚ありまして(笑)、それを使いました。購入される方の多くは、女性が運営しているストアだと認識されていたかもしれませんね。最初の印象は大切だと思いますし、それで受け入れていただけたなら、うれしいことです。
――海外のバイヤーとやり取りするうえで特に意識していること、売上を伸ばすために行っている取り組みをお聞かせください。
綾子 商品を梱包する際に毛筆で手書きしたレターを同梱しています。これは以前、私が営業として働いていた時に、手書きの手紙をお送りしたことがきっかけで交渉がうまくいった経験があり、「手書きのレターは深く心に響く」と感じたからなんです。越境ECは顔を知らない方に買っていただくので、レターで相手の気持ちを和らげられればと思っています。またホテルで仕事をしていた時の、「外国人のお客様は筆で書いたものをすごく喜んでくださる」という経験もヒントになっています。
槇田 妻は毛筆で書いているのですが、それが珍しいのか、お客様からもらうコメントには、レターを喜んでくださる内容がとても多く、レターを額装してテレビの横に飾っている写真を送ってくれる人もいるほどです。「友人の誕生日にゴルフクラブをプレゼントしたいから、それに添えるメッセージを筆で書いて欲しい」というリクエストをいただいたこともありました。
綾子 書く内容は、夫と相談して試行錯誤しながら決めています。
時間にしばられずに働ける自由を満喫している
――eBayを始めたことで、ご自身の人生にどのような変化があったのでしょう。
槇田 時間にしばられない、自由な時間が増えたので、平日に夫婦で出かけたりすることが増えました。夫婦2人の時間を楽しむゆとりができたということが、一番大きな変化ですね。
綾子 私も同じです。「家にいて何もしなくていい時間があるのが一番贅沢なことだ」と気が付きました。50歳にして気が付くなんて遅すぎたかもしれませんが……。最近は、夫に教わりながらゴルフを楽しんでいます。時間の使い方も自分たち次第ですし、自由を満喫していると感じています。主人のアドバイスでグッズ選びのコツもわかってきましたので、今後はお店で扱う商品に少しずつレディース用のグッズも増やせていけたらいいなと思っています。
歳をとってからのスタートには、メリットしかない
――eBayでの越境ECに興味を持っている方に、アドバイスをいただけますか
槇田 売れ筋商品だけを仕入れて売るというのも一つの手法ですが、まずは自分が好きで知っているジャンルから始めて、手応えを感じた商品があったら、それを軸に横展開したり、深堀りしたりするといいと思います。そうすると、最初の商品を買ってくれた人に、「同じようなモデルでこういうのもありますよ」と提案がしやすいですし。「これが好きということは、こっちも好きそうだ」という読みがズバリ当たった時が、この仕事をしていて一番うれしい瞬間ですね。
――もしも同じくらいの年齢で、今から「越境ECを始めてみたい」と思われている方がいたら、何を伝えたいですか。
槇田 年齢を重ねているということは、むしろメリットのほうが多いと感じています。今までさまざまな経験を積んできているので、それが役に立つことが多い。いろいろな商品のはやり廃りも、若い人よりも見てきているわけですし。「始めるのに遅すぎることはない」というのが実感です。
実は最初は、eBayに対して「ちょっと怖い」というイメージを抱いていたんです。海外のプラットフォームなので厳しくて、少しのミスでもアカウントを止められたりするのではという思い込みがありました。でも起業するにあたり、eBayのコミュニティやセミナーに参加して話を聞いたら、そんなことはまったくありませんでした。サポート対策もすごくしっかりしています。国内の他のモールでビジネスをしたこともあるのですが、セラーが多いこともあって、サポートが欲しい時もなかなかマンツーマンで話をするのは難しかったんです。でもeBayは何かあれば対面できめ細かくサポートしてもらえるので、本当に助かっています。今にしてみると、何をあれほど警戒していたのか不思議なくらいです。
※1: 「New Seller of the Year/ニューセラー・オブ・ザ・イヤー」は、2022年以降にeBayで販売をスタートし、最も売上を伸ばしたセラーに贈られる新人賞。「Category Growth Award/カテゴリー グロース アワード」は、11のカテゴリーで目覚ましい成長率を記録し、他セラーの手本となる販売活動によって高い顧客満足度を獲得したセラーに贈られる優秀賞で、槇田氏はスポーツ用品カテゴリーで受賞
※2:eBayにおけるセラー評価(DSRs:Detailed Seller Ratings)。バイヤー(購入者)からのセラー(出品者)の評価のこと