今期最高の広告が示す宣伝の未来 Google「YouTube Works Awards Japan 2024」レポート
2024年6月11日、東京・渋谷区でGoogle合同会社が日本市場の優秀なYouTube広告を表彰する「YouTube Works Awards Japan 2024」を開催。ファイナリストに残った7部門・50作品から、各部門の最優秀作品と、全体のグランプリが選出された。同イベントの後半には審査員が今後のYouTube広告のあり方について議論するパネルディスカッションが開かれた。
グランプリはSNSで話題を読んだマナー広告
各部門の選出にあたり、審査員長の細田高広氏は「YouTubeはユーザーが能動的にエンターテインメントを楽しみに来る場所。楽しませつつ結果を出すという、難しい広告の課題に取り組むことが求められている」と、ユーザーが求めているエンターテインメントと広告が共生できる映像体験の創出を呼び掛けた。
ファイナリストにノミネートされた映像は短尺で強いインパクトと広告効果をもたらした作品から、広告であることを忘れさせる長尺でメッセージ性が高い作品まで様々。グランプリには海賊版漫画の撲滅を訴える一般社団法人ABJの「ありがとう、君の漫画愛。」(広告会社は博報堂)が選出された。
グランプリ作品には漫画のセリフをモンタージュにした歌詞を使ったVaundyのオリジナル楽曲が起用され、「やめよう、海賊版」ではなく「正規版を読んでくれてありがとう」という正のメッセージに加え、SNSで展開された「#今日も海賊版を読みませんでした」という呼びかけが大きな反響を呼んだ。
他のノミネート作品も、広告元、クリエイター、ユーザーが一体となって成立しているクリエイティブが強いコンテンツを生んでいる。
YouTube広告の未来を占うパネルディスカッション
パネルディスカッションでは審査員11名が二部に分けて登壇し、ノミネートされた作品の特徴や、YouTube広告の可能性について語り合った。
第1部登壇者(敬称略・五十音順)司会:細田高広(株式会社TBWA HAKUHODOチーフ・クリエイティブ・オフィサー)、合澤智子(KDDI 株式会社コミュニケーションデザイン部 部長)、岩崎亜矢(株式会社サン・アドコピーライター/クリエイティブ・ディレクター)、伊藤隆行(株式会社テレビ東京制作局長)、太田祐美子(Wieden+Kennedy Tokyoシニア・コピーライター)、塚田由佳(株式会社 電通クリエーティブ・ディレクター)
第2部登壇者(敬称略・五十音順)司会:細田高広(略)、UraN(くれいじーまぐねっと)、中川晋太郎(Uber Eats Japan合同会社ゼネラルマネージャー)、中田大樹(株式会社サイバーエージェント執行役員)、守⽥健右(株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ クリエイティブ・ディレクター)
第1部:広告でブランドは作れるか/コンテンツになり得るか
第1部では、「好きになれなければスキップされる」というYouTube広告の環境を前提に、広告コンテンツを通じたブランディングの術が交わされた。ブランディングを通じて「好き」になってもらうためには、視聴者の感情を動かす必要がある。
そして、受賞作品には視聴者の心をつかむ、型破りな作品が多く選出された。たとえばスマホゲーム「モンスターストライク」の広告は、「ソシャゲで鉄板の『○○連ガチャ無料!』などではなく、モンストをプレイする『人』にフォーカスしており、些細な演出が絶妙なリアリティと視聴者の親近感を生んでいます」(太田氏)
登壇者は、あえてプレイヤー以外の人から見たプレイヤーを描くことで、モンスト自体のイメージアップを狙うブランドリフトならぬ「ブランドビルド」を作り上げていると指摘。長期的に劣化しないブランドの構築を実現していると語った。
もうひとつの型破りは、伊藤氏が「テレビ人から見ると、番組作りとしては間違いだらけ」と語るオリックス不動産株式会社の「ペンギン相関図」だ。「どうせスキップできないなら」というYouTube広告視聴者のインサイトに刺さるネガティブワードから始まり、「ペンギン相関図」という誰にもなじみのない造語を前提として話が進む。
生々しい人間関係になぞらえた内容が、低音のナレーションで届けられるのに、なぜかほっこりする、「癒しに包んだギトギト」(伊藤氏)が水族館のサイトをついクリックしたくなる構成に仕上げている。
視聴者に強いメッセージを残した作品は、セイバンの「ランドセル選びドキュメンタリー」や、ABJの「ありがとう、君の漫画愛。」など。社会性のある問題提起をコンテンツとして成立させ、ユーザーの行動喚起に結びつけた。
審査員が口々に「涙が出た」と語る作品たちは、問題を提起したい広告主と製作陣の共感が一貫性をもって取り組んだ結果のクリエイティブだ。
「長尺にも関わらず全部見させる制作とオリエンの技術が素晴らしい」(岩崎氏)、「好きなものが集まるYouTubeで最強のクリエイティブになる」(塚田氏)というコメントから、制作関係者全員が自分事として取り組んだことが見て取れる広告は、視聴者にとっても自分事のコンテンツになり得ることがうかがえる。
第2部:YouTubeはもう一回実験場になれるのか
第2部では、成熟しつつあるYouTube広告というプラットフォームが、改めて革新的なコンテンツを生み出す空間として運用されるかが議論された。答えはYESだが、議論は特に縦長短尺のショート動画に焦点が当たった。
ある程度「勝ちパターン」が定まりつつある通常広告とは異なり、ショート広告は歴史が短いため、「多くの人が正解を模索している段階なのではないか。通常動画とショート動画ではユーザーの生態系も全く異なるので、スワイプしていく親指を止める工夫が必要」と細田氏。
ノミネート作品には商品を強く推す王道の構成ながらフックの強いサントリーホールディングス株式会社の「烏龍茶」を扱った「ガチ中華クリエイターCM」から、その対極で広告感の薄い日産自動車株式会社のCM、短尺にリッチなコンテンツを詰め込んだ株式会社リクルートのコーポレートCMまで、幅広いジャンルのクリエイティブが並んだ。
比較的短尺でトライ&エラーが試しやすいショート広告は、さながら実験場の様相を呈している。一方で斬新な取り組みが続きつつも、「ショート動画では驚きや結果を最初に見せ、続けてプロセスを見せる」(UraN氏)手法は同じようだ。ショート動画に慣れた若者が、瞬間的に「見たい」と思ってもらう工夫には各社が頭をひねっている。
広告の目的は行動喚起だ。まずは広告を見てもらい、欲求を持ってもらい、行動してもらう。そのためには視聴者の「好き」に寄り添う必要がある。グランプリを獲得した「ありがとう、君の漫画愛。」は関係者全員が漫画読者の漫画好きに寄り添った。視聴者に「もう一度会いたい」と思ってもらえる広告を作る第一歩は、「見せたい→見たい→やりたい」(細田氏)というクリエイティブの大きな絵を共有できるチームビルディングかもしれない。