物流費の最適化で利益を最大化する戦略と実践【プレイド セミナーレポート】

ECのミカタ編集部

「物流の2024年問題」が現実のものとなり、物流費の増大や配送遅延がEC事業者を直撃した。ビジネスモデル上、売上高物流コスト比率が高くなりがちなEC事業者にとって、物流費の最適化はもはや重要な経営課題となっている。

株式会社プレイドの社内起業組織STUDIO ZERO(スタジオゼロ)にて伴走型物流価値創造サービス「.Logi(ドットロジ)」の事業責任者を務める上田淳志氏は、「物流費の最適化には、数値化・言語化が不可欠」と強調する。ECのミカタが主催したオンラインカンファレンス「2024年のEC業界を総復習する2日間」(2024年12月19日・20日開催)より、上田氏のセッション「物流費の最適化で利益を最大化する戦略と実践」の要点をレポートする。

数値化・言語化が物流最適化の第一歩

セッション冒頭で上田氏は「物流費の最適化のためには、数値化・言語化が不可欠」と強調。成長しているEC事業者は、必ずと言っていいほど物流を「経営課題」として捉え、数値化・言語化を実践しているという。経営学者ピーター・ドラッカーの「物流は最後の暗黒大陸である」という言葉が示す通り、物流はブラックボックス化しやすい領域だ。ブラックボックス化の一例として、運送会社と直接契約せず、一括管理会社と契約している場合、クレームが発生しても、運送会社の担当者が不明で、対応が遅れてしまうケースなどがある。

「ブラックボックス化に陥ると、コストも品質もコントロールができなくなり、結果として物流起因でのクレームが多発する、物流起因での顧客離反が増えるといった悪循環に陥ります。物流課題は荷主であるEC事業者に関連する課題も多いため、物流事業者だけで解決できるものではありません。両サイドの課題を解決するには、両者の協力が不可欠です。物流最適化を進めるにあたっては、まず現状を把握することが重要になってきます。そのためには、物流に関するあらゆる情報を数値化し、可視化する必要があります」。

売上高物流コスト比率15%超は改善余地あり?

上田氏は次に、数値化・可視化の具体策として、自社の売上高物流コスト比率を把握することの重要性を説いた。

「EC事業における売上高物流コスト比率は15%~20%が一般的で、メール便をフル活用している事業者でも10%前後に上ります。売上高物流コスト比率が15%以上の事業者は改善の余地があると考えられます。売上高物流コスト比率が把握できていない事業者は、この機会に自社の物流費の可視化を行ってみてください。例えば、5000円の商品を1000円の送料をかけて送った場合、配送料だけで物流費は20%を占めます。このように、売上高物流コスト比率は経営に大きな影響を与えるため、単なる経費削減ではなく、重要な経営課題として捉える必要があるのです」。

画像提供:株式会社プレイド STUDIO ZERO(カンファレンス登壇資料より)

保管費適正化の3つのポイント

続いて上田氏は物流費を6つの要素に分解。その中でも保管費に焦点を当て、最適化のポイントを解説した。

物流費は輸送費・保管費・荷役費・流通加工費・情報費・運送費の6つの要素に分けられます。これらの中で特に重要なのが、物流費の平均16%を占める保管費です。しかも保管費は固定費なので、改善することで中長期的な物流の最適化が進みます」

上田氏が挙げる保管費の適正化ポイントは以下の3つだ。

1、容積(立方メートル)で考える:倉庫を広さ(平方メートル)だけで考えるのではなく、容積(立方メートル)で考え、高さを活かした保管を行うことで、保管効率が大幅に向上する。例えば、荷物を4段に積み上げれば、保管効率は単純計算で4倍になる。

2、不動在庫の管理:不動在庫は保管コストを圧迫する要因となるため、廃棄ルールを明確に定め、定期的に見直しを行うことが重要。まずは1箱あたりの1カ月間の費用を正確に把握するべき。

3、契約内容の見直し:倉庫との契約形態はパレット契約・坪単価契約・期間契約などさまざまなので、商品特性や販売タイミングに合わせて、最適な契約を選択する。例えば、パレットにあまり荷物が乗っていないのにパレット契約をしている場合、無駄なコストが発生している可能性がある。最適解は常に変化するため、現場を見ながら検討すると良い。

物流費最適化の実践:適切なコミュニケーションとKPIに基づく評価

「明日にでも物流費の最適化に取り組むべき」としつつも、上田氏は「物流事業者に対して安易に値下げ交渉をするべきではない」と念を押す。

「物流事業者とはパートナーとして、ともに歩んでいくべきです。EC事業者と物流事業者の適切なコミュニケーションを通じて物流のブラックボックス化を解消することが、利益の最大化につながります。現場をじっくり見ながら、物流会社と双方にとって無駄な部分を探し出すなど、相互に利益を生み出す関係を築くことが重要です。過去に依頼した作業内容が見直されておらず、荷主であるEC業者にとってはもう必要のない作業を、物流事業者が愚直に実施している例も少なくありません。こうした基本的なところを見直すことで、荷主と物流事業者が気付いていない、最適化箇所が見えてくるでしょう」

また、物流の最適化においては「品質の最適化」の観点も忘れてはならない。

「一件のクレームに一喜一憂するのではなく、対応クレーム発生率や遅延発生率、誤出荷率といった物流KPIを策定し、それに基づいて物流事業者の品質を正しく評価することが重要です。売上高物流コスト比率の圧縮を目指す際は、そのKPIにおいて、どの管理項目の基準を上げることが作業費用の低減につながるのかを理解する必要があります」。

画像提供:株式会社プレイド STUDIO ZERO(カンファレンス登壇資料より)

EC事業者が率先して物流最適化に向けた行動を

最後に上田氏は、代行業者・物流業者任せにせず、EC事業者が率先して物流課題の解決に向けて動くことの重要性を強調した。

「物流課題は、代行業者に依頼すればそれで終わりというわけではありません。そのように考えるEC事業者は、売上高物流コスト比率が高い傾向にあります。反対に、物流は打てば響く、すぐに効果が出る分野です。物流課題への対応策は待っていても出てくるものではなく、EC事業者が主導して動く時代になりつつありますので、一歩踏み込んで物流最適化を進めてみませんか?」。

EC事業者にとって、物流最適化は単なるコスト削減ではなく、重要な経営課題として捉えるべきテーマだ。物流最適化で削減した物流費を広告費等に投資することで売上(出荷個数)を増やし、物流事業者にも利益を還元することが、真の物流最適化と言えるだろう。

上田淳志(うえだあつし)
株式会社プレイド
STUDIO ZERO 伴走型物流価値創造サービス「.Logi(ドットロジ)」事業責任者
 佐川急便株式会社にて現場から本社管理職を経験し、大手企業との事業共創により環境負荷低減など次世代サスティナビリティな取組実績を有している。また、SGホールディングス内事業会社を横断したプロジェクトチーム「GOAL」の立ち上げメンバーとして、物流の最適解を提供する新規プロジェクトに10年間事務局を担当し、年間数百億円規模の事業に拡大。全社横断のボトムアップ型新規事業創造プロジェクトの審査員兼伴走役を担当。新規事業開発、営業改革、組織設計、大規模プロジェクトマネジメントなどを得意とする。


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