LINEギフト10周年 事業責任者に聞く市場・ユーザー行動の変化と「次のステップ」【前編】

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大矢根 翼

2025年4月、LINEギフトはサービス開始から10年という大きな節目を迎えた。ソーシャルギフト事業として2015年にスタートし、いまや年間約2000万人(※1)が利用するサービスへと成長したLINEギフトだが、その道のりは決して平坦ではなく「雌伏の時代」「苦難の年」と呼ぶべき時期もあった。

そこで今回は、現在LINEギフトの事業責任者を務めるLINEヤフー株式会社 執行役員 ソーシャルコマース統括本部長 嘉戸彩乃氏に、10年間の歩みとギフトEC・ソーシャルギフト市場の変化、そして“次の10年”を見据えた展望について話を聞いた。
●インタビュー【後編】は5月2日に公開予定です

2024年度は単価とユーザー数がバランスよく成長

2024年度は事業目標として掲げる流通総額前年度対比130%成長を見込み、直近の2025年2月には前年同月比で流通総額150%を記録するなど、好調な運営が続くLINEギフト。嘉戸氏によれば、2023年度はギフト単価の向上が成長のドライバーだったが、2024年度は単価に加えてユーザー数も伸長したことで、目標を達成する見通しだという。

「LINEギフトには店舗で商品と引き換えるドリンクチケットなどの『eギフト』と、贈り先に実物を届ける『配送ギフト』があり、2023年度の単価向上は『eギフト』から少しずつ『配送ギフト』にユーザーがシフトしてきたことが理由だと捉えています。商品単価として『配送ギフト』のほうが3倍ほど高いので。一方、2024年度は単価とユーザー数がバランスよく伸びていて、ご利用いただく方のすそ野がより広がったと言えると思います。ユーザーの皆さまが『eギフト』と『配送ギフト』を、シーンに応じて使い分けてくださっているのではないでしょうか」

嘉戸氏は、他のECモールとは異なる、ギフトで贈りやすい商品や、LINEギフト限定の商品を増やし、ギフトECならではの機能を取り入れたことが、すそ野の広がりを生んでいると話す。

「例えばギフトに相手の名前を刻印できる『名入れ機能』や、贈られた人が色や香りを選べる機能がありますし、相手のことを思って購入するとき、『LINEギフトを選ぶ理由』を増やすことができたと考えています」

ちなみに「もらった人が色や香りを選べるギフト」は、その名の通り、受け取り手が自分の好みの色や香りに選び直せることができる機能。「相手の好きな色や香りがわからない」「実際に使ってくれるか不安」といったユーザーの声や、そうした悩みを解決する機能がほしいという出店ショップの要望を背景に、2023年5月からスタートしている。

LINEヤフー株式会社 執行役員 ソーシャルコマース統括本部長 嘉戸彩乃氏

コロナ禍で激変したユーザーのギフト購買行動

LINEギフトを通して10年間で贈られたギフト総数は約1.5億個、累計ユーザー数は3500万人以上(※2)と、積み重ねてきた数字だけを見るとスムーズに事業を拡大してきたかに思えるが、その実は順風な時ばかりではなかった。スタートした2015年からの5年間は、嘉戸氏が「雌伏の時」と呼ぶほど、サービスが伸び悩んでいたそう。しかし、2020年からのコロナ禍をきっかけに、直接相手に会うことなく贈ることができるギフトECの市場が拡大すると、ユーザー行動も大きく変化した。

画像出典:「LINEギフト」10周年特設サイト

「コロナ禍で会いたい人に会えない状況が続くなか、気持ちを伝える手段としてソーシャルギフト市場が活性化し、その後も商品ラインナップの増加、さまざまな機能も拡充したことによってユーザーが定着しました。さらに、日常の『ありがとう』や『ごめんね』を伝える手段としてカフェチケットなどが贈られることが多かったのですが、近年はお中元をはじめとする比較的フォーマルな贈り物にもLINEギフトを使っていただけるようになったんです。SNSの普及に伴ってお正月の挨拶がLINEスタンプで交わされるようになったように、ギフトを贈る手段やシーンも変化してきたと言えます」

利用頻度に目を向けると、既存ユーザーのLINEギフト利用回数は平均で年間4回。中には「eギフト」を中心に1年に数千回利用しているユーザーもおり、この利用のされ方は「10年前には見られなかった」と嘉戸氏も驚く。

「5大イベント」で突出するLINEギフト利用者数

「5大イベント」で突出するLINEギフト利用者数LINEギフトは5大イベント(バレンタインデー、ホワイトデー、母の日、父の日、クリスマス)の流通額が突出。画像出典:「LINEギフト」10周年特設サイト

LINEギフトは(もっとも利用されている「誕生日ギフト」を別にすれば ※3)シーズナルイベント当日に流通額が突出するのが特徴と言える。中でも多いのが「母の日」で、その理由を嘉戸氏は、クリスマスやバレンタインなどと異なり、贈る相手が決まっていることと、毎年「日」が変わるからではないかと分析している。直前、もしくは当日に「母の日」を思い出し、すぐに贈りたいというユーザーのニーズに、LINEギフトなら対応できるからだ。

「『母の日』は特別で、『eギフト』だけでなく『配送ギフト』も多く使っていただいています。実際の“もの”を届けるのは少し遅れても、感謝する“気持ち”は当日届けることができますので。

当日の需要が著しく伸びるため、『母の日』に商品の在庫がなくなってしまう出店者様もいらっしゃいます。ショップ様にとって売り逃しにつながってしまうので、これは今後の課題です。少しでも早い時期から『母の日』ギフトを予約・購入いただけるよう、2025年は5月11日の『母の日』に向けて4月7日からクーポンを配布しているのですが、どうしてもLINEはその時・その場で使うコミュニケーションツールなので、なかなか難しいところです」

(インタビュー後編へ続く)

画像提供:LINEヤフー株式会社

※1: 2024年2月1日~2025年1月31日までに「LINEギフト」を贈った、もしくはもらった経験があるユニークユーザー数
※2:累計ユーザー数は2024年7月時点で「LINEギフト」を贈った、もしくはもらった経験があるユニークユーザー数。贈られたギフトの総数は2015年4月3日から2025年1月31日における利用件数の合計
※3:LINEギフトがもっとも利用されるのは「誕生日ギフト」としてであり、1日約5万個が贈られているという(2024年2月1日から2025年1月31日における誕生日カテゴリーのメッセージカードの利用データから、LINEヤフーが算出)


記者プロフィール

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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