自社ECサイト刷新に挑んだ老舗メーカー【山本電気】 成功の鍵は「第三者の視点」と「相性」
BtoC-EC公式「YAMAMOTO SHOP」(画像出典:山本電気株式会社)
1934年創業の山本電気株式会社は、福島県須賀川市に本社を構える産業用小型モータの老舗企業だ。長年にわたり専業メーカーとして日本の自動車・家電産業を支えてきた一方、その「プロ仕様」の技術力を応用した調理家電ブランドが近年、料理愛好家の間で注目を集めている。
ブランド認知の高まりを受け、同社はこのほど長年手つかずだった自社ECサイトの全面刷新に踏み切った。営業部 家電営業課でPRを担当する田中優子氏に、自社ブランドにかける想いと、EC事業参入の裏側、そしてリニューアルによる劇的な変化について聞いた。
プロ仕様の耐久性を備えた家庭用調理家電の誕生
――御社の事業内容について教えてください。
山本電気株式会社 営業部 家電営業課 家電PR係 田中優子氏(以下、山本電気 田中) 山本電気は、自動車や家電向けの小型モータを中心に、企画・設計から製造・販売まで一貫して手がけるメーカーです。カーエアコンやエンジン冷却用、掃除機向けなど、幅広い用途のモータを国内外の企業へ供給してきました。
一方で、その技術を直接消費者に届けたいという想いから、「YAMAMOTO」ブランドで精米機やフードプロセッサーなどの調理家電も展開しています。産業用モータの開発で培った緻密な制御技術を活かし、「業務用レベルの高性能」と「家庭での使いやすさ」を両立させています。
――御社ならではの「強み」は何でしょうか。
山本電気 田中 設計から量産まで自社で完結できるため、多様なニーズに柔軟に対応できる点がメーカーとしての強みです。特に、過酷な環境でも安定稼働する「モータの耐久性」に絶対の自信を持っています。
私たちは品質保証まで一貫して行う体制により、その知見を家庭用製品にも惜しみなく投入しています。例えば、精米機やフードプロセッサーは強い負荷がかかる家電ですが、当社の製品はパワーが落ちず長持ちすると、多くのユーザー様から信頼をいただいています。厳格な動作確認と耐久試験をクリアした、「プロ品質」を家庭に提供できる点が私たちの誇りです。

山本電気の歴史より
3時間で1000台完売! 家庭用精米機「i-rice」が人気をけん引
――家庭向けにはどのような製品を展開していますか。
山本電気 田中 スタンダードな「YAMAMOTO」、料理人・道場六三郎氏が監修した「MICHIBA」、そして家庭用参入当初からの長年のファンを持つ「YDK」の3ブランドを展開しています。
中でも、近年特に人気が高いのが「家庭用精米機」です。2025年11月には、新技術「やさしさ精米」を搭載した新製品「i-rice(アイライス)」を発売しました。米粒を傷つけない3段階の回転制御と、摩擦熱を抑える低温精米により、お米本来の香りや甘みを引き出します。また、ダイレクト駆動モータによる静音設計(約60db以下)を実現しており、集合住宅でも時間を気にせず使えると好評です。
――操作は簡単なのでしょうか。
山本電気 田中 操作は非常にシンプルで、「量」と「コース」を選び、「スタート」を押すだけです。16種類の精米コースに加え、前回設定を記憶するメモリ機能も搭載しました。玄米5合を白米にするのに約2分30秒という速さも、高性能モータならでは。忙しい朝でも「精米したてのごはん」を手軽に楽しんでいただけます。
ECリニューアル前の課題は「良い商品はある。だが売り場がない」
――今回のリニューアル以前、販売チャネルにはどのような課題がありましたか。
山本電気 田中 商品は全国の量販店や大手モール(楽天、Amazon)で販売していましたが、肝心の「自社公式オンラインショップ」は長年更新が止まっている状態でした。スマホ対応もしておらず、お客様にとって非常に使いづらいサイトだったのです。
転機は2024年9月、クラウドファンディング「Makuake」でフードプロセッサーを販売した際、想定以上の反響をいただいたことです。「私たちの商品にはこれほどポテンシャルがある」と確信した一方で、受け皿となる自社サイトの現状に危機感を抱きました。
――そうした経緯から、自社ECのリニューアルに踏み切られたのですね。
山本電気 田中 はい。実はi-riceも2025年8月の「Makuake」先行販売で、予定数量1000台が開始わずか3時間で完売するという記録的な成果が出ました。11月の一般販売に向け、ブランドの信頼感に見合う「売り場」の整備は急務でした。

家庭用精米機「i-rice(アイライス)」は、2025年8月にクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売を実施。開始からわずか3時間で予定台数を完売した(画像出典:Makuakeプロジェクトページ)
自社ECには利益率の向上だけでなく、ブランドの世界観を正しく伝え、顧客と直接つながるなどの、事業成長に直結する価値があります。今回のリニューアルは単なるサイト改修ではなく、山本電気が次のステージへ進むための“不可欠な投資”でした。

リニューアルした「YAMAMOTO」公式オンラインショップ
――リニューアルを経て、BtoC事業をどのように発展させていきますか。
山本電気 田中 ECサイトは作って終わりではなく、運用と改善を繰り返して育てるものです。今回のプロジェクトでは、「ECのミカタ」のマッチングサービスを通じて出会ったGIVE&GIVE様とタッグを組みました。彼らと丁寧な議論を重ね、サイトのユーザビリティ向上からブランディングまで伴走していただいたおかげで、素晴らしいスタートダッシュを切ることができました。
今後も信頼できるパートナーと共に、新製品のヒットを一過性で終わらせず、ブランド価値の向上と事業拡大を実現していきたいと思います。
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