「エージェンティックコマース」でStripeが目指すAI時代の決済体験
左:ストライプジャパン株式会社 代表取締役 ダニエル・ヘフェルナン氏、右:同社 ソリューションアーキテクト 安部草平氏
グローバル決済プラットフォームのStripeは2026年1月、「エージェンティック コマース (Agentic Commerce)最前線:グローバル動向と備えるべきこと」と題したメディア向けラウンドテーブルを開催。ストライプジャパン株式会社 代表取締役 ダニエル・へフェルナン氏、同社ソリューションアーキテクト 安部草平氏が登壇し、「エージェンティックコマース」を支える最新プロトコルと、日本市場での実装・対応を語った。AIが人に代わって商品を選び、購入までを完結させる「エージェンティックコマース」は、いま現実のものとなりつつある。
エージェンティックコマースを支える「ACP」と「ACS」
Stripeは、スタートアップからエンタープライズまで幅広い企業に導入されている、プログラム可能な金融インフラを提供するテクノロジー企業だ。2024年度の総決済額は1.4兆ドル(※1)に達し、日本市場でも前年比40%の決済件数成長、越境取引は62%成長と高い伸びを示している。
国内ではカード払い、PayPay対応、対面決済を可能にする「Stripe Terminal」など、ローカルニーズに即したプロダクトを展開。グローバルではステーブルコイン領域への投資・M&Aも進めており、次なる大きなテーマとして「エージェンティックコマース」を位置づけている。
※1 2024年度年次報告書(Stripe)

エージェンティックコマースは、消費者がAIエージェントと対話し、商品を比較・選定、場合によっては購入までをAIが担う購買体験。「すでに消費者の50%が生成AIの支援を受けて購買判断を行っており、2030年には市場規模5兆ドルに達する」とヘフェルナン氏は語る。
エージェンティックコマースの具体的なソリューションとしてヘフェルナン氏が挙げたのが、StripeとOpenAIの共同開発で誕生した「エージェントコマースプロトコル(Agentic Commerce Protocol。以下、ACP)」だ。「消費者のメリットは、ページを一つずつ見る必要がなく、対話形式で商品を選べる点。 また、信頼できる販売者のみが表示され、怪しいサイトにたどり着くことがなくなる」(ヘフェルナン氏)。「信頼できる販売者」はStripeが審査し、エージェントに提供する。
Stripeは、エージェンティックコマースを「エージェントとの商取引」「商品カタログ」「AI向けチェックアウト」「不正対策」という4領域で支援する。中核となるACPは、オープンスタンダードで提供され、既存システムと柔軟に連携可能。決済情報はStripeが管理し、販売事業者はカード情報を保持することなく取引できる。
ACPをローコードで運営したい事業者向けには「エージェンティックコマーススイート(Agentic Commerce Suite。以下、ACS)」が提供されている。商品カタログ登録からAIエージェント連携、注文管理、不正・返金対応までを一体化できる点が特徴で、AI専用の決済ゲートウェイを通してbotによる不正を防いでいるサイトでも安全に購入できる。
日本で「本格投資する層」はまだわずか
続けて登壇した安部氏は、実際に事業者へのACP導入支援を行って得た現場の実情を解説した。まず紹介されたのはChatGPTの浸透度だ。「一般的に、72%の人が仕事でChatGPTを使っていると言われています。 私が直接お話ししている技術系のお客様に限ると、ほぼ100%が使っています」(安部氏)。
Stripeに加盟店登録する事業者がChatGPTを経由している割合は約10%だという。Stripeはこの潮流を受けてAIツールを使っていれば自動的にユーザー登録が完了する仕組みを構築した。「Replit」などのAIプログラミングツールでユーザーがウェブサイトを作る際に、Stripeの決済機能を組み込んだサイトが作られる仕組みだ。
このような情勢のなか、2025年9月の「ACP」公開から4カ月が経過した時点でのエージェンティックコマースをめぐる日本の事業者の対応は、「経営トップ主導で本格投資する層、担当者レベルで模索する層、何から始めるべきかわからない層が、『1:3:4』くらいの体感」と安部氏。

安部氏はよくある懸念として、「自社がAIに対応していないのではないかという不安」「AI経由で売れる際の自社の存在意義」「不正対策」「チャージバックの責任所在」の4点を挙げた。Stripeは、既存加盟店ネットワークを活用した信頼できる販売者の提供や、従来と同じ管理フローでの運用継続により、事業者の不安を解消していくという。
「今後は、まずレガシーな決済基盤を見直す必要があり、次に複数チャネルからの売上を受け入れられる構造が必要。そして商品データや在庫情報を外部に出せるカタログ整備が必要」だと安部氏は語る。現状の日本市場では、ChatGPTのインスタントチェックアウトが始まっても、多くの企業は対応できない状況にあるという。
「AIエージェントが共存する世界」への第一歩
Stripeが現在進めている取り組みは、ChatGPT経由でアクセスした人がワンクリックで購入できる導線を作ることだ。「これにより、将来インスタントチェックアウトが始まった際にも、スムーズに移行でき、社内投資も得やすくなる」(安部氏)。
現時点では北米で初期段階のエージェンティックコマースだが、安部氏は将来的には複数のAIエージェントが共存する世界になることから、「早く第一歩を踏み出すことが重要」と話す。Stripeは2025年9月にACPを公開し、同年12月から1月にかけてACSをリリースした。 今後は配送などの領域や、エージェント間決済を進めていくという。

“AIに対するSEO”は、「AIO(AI Optimization)」「AEO(Answer Engine Optimization)」など呼び方も定まらぬほど新しい概念だが、急速にその存在感を強めており、へフェルナン氏はこれらが「SEOのように新たな業界になっていく」と語る。エージェンティックコマースは既存モールと競合することもなく、既存の販売スキルを転用できるわけでもない、新たな商慣習を作り上げようとしている。
自社商品がAIに発見されやすいようにデータを構造化する重要性は昨今よく耳にする。今後は発見にとどまらず、AI経由で商品を発見したユーザーに決済まで一気通貫のストレスフリーな体験を提供する重要性も高まってきそうだ。


