ZENBが描く商品ポートフォリオ×チャネル多角化戦略
ミツカンが2019年に立ち上げた新規事業ブランド「ZENB」は、植物を可能な限りまるごと使い、動物性原料に頼らないサステナブルな食品ブランドである。2025年12月18日、ECのミカタ主催の「2025年の『変化』と2026年の『攻略』カンファレンス」に、Mizkan Holdings 執行役員でZENB事業 マーケティング&ダイレクトグループの佐藤武氏が登壇。D2Cを起点にブランドの輪郭を形づくりながら、商品ポートフォリオの拡張とチャネルの多角化を連動させて成長を実現する戦略について語った。
ミツカンのDNAから生まれたZENBという挑戦
ZENBの思想は、ミツカン創業の原点に遡る。1804年、当時捨てられていた酒粕から、偶然酢酸菌が発酵して生まれた酢づくりがミツカンのルーツであり、サステナブルな価値観の源流だ。2018年には「おいしさと健康の一致」「人と社会と地球の健康」を掲げた未来ビジョン宣言を発表し、その具現化として誕生したのがZENBである。

ZENBは、植物を可能な限りまるごと使い、添加物を極力使わず、素材本来の力を活かすことをレギュレーションとしている。累計販売食数は3000万食を突破し、D2CからECモール、そして2025年春にはリテールへの本格展開にも踏み出した。
365日×6食を網羅する商品ポートフォリオ
ZENBの特徴が「365日×6食」という独自の設計思想だ。朝・昼・晩・ブランチ・おやつ・夜食という6つの食機会をすべてカバーする商品群をそろえ、生活者の食卓に「網羅的に存在するブランド」を目指している。

2019~20年の初期は、サステナブル、エシカルな部分を含め、「まるごと野菜原料」を象徴的なシーズとして展開してきた。ブランドのビジョンに共感するファンを増やす時期として、土台作りを行っていた頃だ。
2021年からは定期モデルを本格的に開始。そのきっかけになったのが、黄えんどう豆を商品化できたことだという。高たんぱく・高食物繊維・糖質控えめ・グルテンフリー・NON GMOという、生活者にとって直接的な便益を持つことが特徴で、ZENBヌードルやZENBブレッドといった主力商品に採用されている。
「商品を買う」から「習慣を買う」へ
ZENBのD2C戦略の中核にあるのが、サブスクリプションモデルだ。
「グルテンフリーを求める方々のなかには『探しては失敗する』というジャーニーを抱えている方が非常に多いため、強い探索心を持っています。そういった方々の受け皿として、ヒーローシーズである黄えんどう豆で作ったパンとパスタを体験の入口として設計し、サブスクで継続的に届ける仕組みを整えています」

主食で得た原体験は、ブランドへの好意を生み、他のカテゴリへの興味を誘発する。まるごと野菜のカレーやスープといった調味料群へ自然に手が伸びるのはそのためだ。また、主食での成功体験が間食やおやつといった別の食機会にも広がり、スナックやスイーツなどの需要も拡張が進んでいく。
「商品を買う行動から、より良い食生活という『習慣』を買う行動へ。つまりこれは、まさにサブスクです。ZENBはこのサブスクとしての便益が成立していると、今実感しています。商品を買うという行動からより良い食生活習慣を買い、自分の生活をより豊かにしていただくというような、お客様との寄り添い方ができつつあると考えています」
EC→モール→リテール→オフィスへ チャネル多角化の全体像
ZENBのチャネル戦略は、D2Cを起点に段階的に広げていく構造だ。自社ECではブランドの輪郭を形成し、習慣化の価値を届ける。自社サイトである程度輪郭を作った後にECモールへ参入し、一般検索キーワードを通じて商品との出合いを広げ、「習慣」というよりは「モノ」としての価値を提供して、短期での利益回収を図る。リテールでは生活導線上での接点を最大化し、モールでの話題性や売上を武器に参入を進めていく。

佐藤氏はさらに「健康経営や従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)への関心が高まる中、『自分では買わないけれど気になる』層への接点を増やせるチャネルとして、オフィスも可能性があるのでは」と、新たなチャネルへの進出意欲も示した。
「リテールである程度選択されるものになれば、今度はそれが定期で届くということが強い便益になります。『よく買う物が定期で届くとこんなにおトクなんだ』とマジョリティに理解され、自社サイトでの買い物に戻ってくるというサイクルが描けます」
ECでブランドの輪郭をつくり、モールで間口を広げ、リテールで定常化し、再びD2Cに回帰する──この循環がZENBの成長エンジンということだ。
ポートフォリオ戦略とチャネル戦略の全体像
ZENBのチャネル戦略は、商品ポートフォリオの構造と密接に結びついている。特に主食領域は、ブランドの核となる原体験を提供する場であり、ここではD2Cが中心的な役割を担う。価格や品揃えの優位性を定期ユーザーにしっかり還元し、ロイヤリティを高めていく。
調味料領域は、自社サイトでの体験から「もっとZENBを知りたい」と考える購買層を想定しており、クロスセルやAOVをしっかり向上させていくという考え方で運用している。

一方で、習慣食や嗜好性の高い商品群は、まったく異なるアプローチを取る。ここではリテールやモール、さらにはオフィスチャネルなど、購入率の広さやトライアルのしやすさを重視したチャネルを積極的に活用する。より多くの生活者に「ZENBを初めて体験してもらう」ことが目的であり、ブランドの間口を広げる役割を担っている。
この戦略は一人当たりのLTVが低い可能性があるが、リテールやモールで生まれる短期収益は、最終的に自社ECへの投資に還元される。佐藤氏は「今のところ、この『D2C』と『モール・リテール』の二軸エンジンはうまく機能している」と語った。
主食を起点とした原体験の設計と、多層的なチャネル運用を組み合わせることで、ZENBは持続的な成長を支える基盤を築いている。今後はオフィスをはじめ、さらに多様なチャネルへと展開していくことが期待される講演だった。


