【第3回】売上が劇的アップしたECショップの共通点『ターゲット間違い・広げすぎ→ターゲットを修正して絞り込もう』
EC実践会講師の水上 浩一です。
売上が劇的アップしたネットショップに共通する3つの改善点1番目、
「(1)リソースの分散→集中」「(2)ユーザーが商品を選べない→選べるように改善」を2回に渡り説明させていただきました。
「商品単純陳列型店舗」はセレクトショップさんはやりがちなんです。
むしろ、ユーザーに選んでもらう、ということをサービスだと思っていらっしゃる場合が少なくありません。
でも、新規ユーザーにとってみればどれも同じように見えてしまうのです。
前回の事例におけるSAの讃岐うどんショップと全く同じです。
今回は、売上が劇的アップしたネットショップに共通する3つの改善点
(3)ターゲット間違い・広げすぎ→ターゲットを修正して絞り込もう」ということについて説明させていただきます。
(3)ターゲット間違い・広げすぎ→ターゲットを修正して絞り込もう
■売上が劇的アップしたネットショップに共通する3つの改善点
(3)ターゲット間違い・広げすぎ→ターゲットを修正して絞り込もう
ターゲットのセグメンテーションが重要だ、という話をよくします。
日本語で言うと「お客様を絞り込みましょう」というニュアンスになります。
これはよく勘違いされるので明確にしておきたいのですが、お客様を絞り込む、ということは、お客様の客層を絞り込んでその客層だけに売り込み、他のユーザーは切り捨てろ、ということではありません。
お店の立場を明確に伝えることでユーザーから「わかりやすいお店」だと思ってもらうことが重要なのです。
だからユーザーの選別、切り捨てでは決してありません。
ターゲット間違いでよくあるのが客層を広くとってしまうことによる非効率化です。
老舗の包丁の製造・販売専門店の事例です。
このネットショップは元々は新婚の新米主婦の方から、プロの料理人さんまでみなさまにご利用いただいてます、というスタンスで運営していました。
大体ネットショップに限らず店舗を運営していると客層を広くとってしまいがちになります。できるだけ多くのユーザーに来店いただきたいと思うのは自然のことですから、それを否定するつもりはありません。
しかし、今の老舗の包丁の製造・販売専門店さんの例で申し上げますと、たとえば新米主婦の方が老舗の包丁の製造・販売専門店さんに来店すると「あ、プロの方が使うお店なのか。では自分には不釣り合いな包丁なんだな」と尻込みされてしまいます。一方プロの料理人さんが来店すると「なんだ、このお店は新米の主婦の方も使う包丁のお店なんだ。だったらもっとプロ仕様のお店で買った方がいいな」と思われてしまいます。つまり、ターゲットを広くとればとるほど、店舗のコンセプトが曖昧になってしまうのです。
そこで老舗の包丁の製造・販売専門店さんと話をしました。
「一番、来て欲しいお客様はどんな方ですか?」
「やっぱりプロの料理人さんですね。良いものを選んでくれるし、リピート利用もしてくださるので」
ということで、キャッチコピーに「プロ御用達」という文言を追加することにして、デザインも高級感をアップされるように変更してリニューアルしました。
その結果どうなったかというと、平均客単価が13000円から23000円に1万円もアップしたのです。
しかも1本10万円の包丁もネット経由で売れたそうです。
このリニューアルでプロの料理人さんばかりが購入するようになったのか?というと実はそんなことはありません。母の日のギフトでもたくさんの一般の方からご利用いただけたそうです。しかしここでも大きな変化がありました。
前年の母の日ギフトはトータルで800件の出荷件数があったそうなのです。
それが「プロ御用達」リニューアル後の母の日ギフトは600件の出荷だったそうです。200件も少ない注文件数だったのですが、売上は逆に1.5倍になったそうです。
つまり客単価が3倍近くになったのです。前年は3800円の安い包丁が多く出荷されたそうなのですが、リニューアル後は、2万円の包丁セットも出るようになり客単価を大幅にアップさせることができたのです。
店長さんにセミナーのパネルディスカッションでお聞きしたことがあります。
「ターゲットを絞り込む作業を行った訳ですが、プロ御用達とうたってしまうことに怖さはありませんでしたか?」
それに対して店長さんは「そりゃ怖かったですよ」とおっしゃいました。
「ではどうしてターゲットのセグメンテーションを実施されたのですか?」と聞くと「そりゃ、水上さんがやれっていったからに決まってますよ!」とおっしゃいました。これは本当に正直な反応だと思います。
実際にターゲットの絞り込みを行うのはかなり勇気が必要です。一般の方が来なくなったらどうしよう。
実際に母の日の出荷件数は200件も下がっています。
しかし、その結果どうなったかというと「ブランド力」が高まったのです。
これをEC実践会では「プロショップ化」と呼んでいます。
プロ御用達のお店だから、良い包丁を扱っているに違いない。
だったら、せっかくそういったお店で購入するのだから良い包丁を選ぼう、という気持ちになるのだと思います。
それが客単価の大幅アップにつながったのでしょう。
ターゲットは絞り込めば絞り込むほど、実は逆に広がっていくのです。
たとえば、セブンティーンという雑誌があります。
タイトル的には17歳の女の子向けの雑誌、という意味です。
水上の娘が17歳だったとき、ちょっと前まで読んでいたセブンティーンを、すっかり読まなくなっていました。
そこで「なんで?」と聞いたのですが「子供っぽいから」との返事。おまえ今17歳じゃないかよ、と突っ込みを入れたくなりましたが、嫌われると嫌なのでグッと我慢しました。
では娘はどのくらいの期間セブンティーンを読んでいたかというと、12歳ぐらいから16歳ぐらいまでだったと思います。
17歳の女の子向けというタイトルをつけたことによって、「ああ、そのぐらいの女の子が興味を持つ、ファッションとかアイドルとかお悩み事が書かれているんだなあ」と内容が非常にわかりやすいことに気が付きます。
これが10代から60代までの女性みなさんどうぞ、というタイトルだったとしたらどうでしょうか?何が書いてあるかわからない雑誌になってしまうと思います。
誰も手に取りませんよね?でもターゲットを広げる、というのはそういうことなんです。
ターゲットミス
事例をもう一つ。
男性用着物専門店さんのケースです。
着物は通常女性向けが90%、男性向けは10%ぐらいなので、非常にニッチなターゲットを取りに行く戦略です。
ターゲッティングの設計を行うことにしました。
元々男性の着物ユーザーは数が少ないことが予測できたので、まず最初は「着物を着たことが無い男性に着物を良さを伝えてトライアルセットを購入してもらおう」という設計を行いました。男性用着物の需要自体を増やそうという作戦です。
そして「初めての男着物トライアルセット」をリリース。
着物の良さを着物を着たことの無い男性に啓蒙しようとしたのです。
しかしこれは見事に失敗します。
着物を着たことの無いユーザーは着物に興味はありませんから、「着物」というキーワードで検索しないのです。当たり前ですが。
ですからトライアルセットのページには誰もアクセスせず、取り組みは失敗に終わりました。
次に、男性用着物専門店さんは、夏場に浴衣がたくさん売れます。そこで着物を同じような服なので、浴衣を買った方に小冊子を同梱して、そこに浴衣の粋な着こなしについて説明して、後半に「浴衣が様(さま)になったら、次は着物にトライしよう!」といった感じでクーポンをつけて着物に誘導しようとしました。
しかしこれも失敗。浴衣は夏の普通のファッションとして買っている方が多く、着物とは全くつながらなかったのです。2連敗です。
そして初心に帰り「そもそも着物を買う人って、どんな人だろう?」と考えて見ると、当たり前の話なのですが「着物を着ている人」という答えに行きついたのです。
つまり、着物を普段着ている人に、たとえば帯を販売したり、バッグやストールといった雑貨を購入してもらい、そろそろ2着目はいかがですか?という感じで着物ユーザーに向けて情報を発信していきました。これが当たりました。
結果的に前年対比150%の売上アップとなりました。
男性用着物専門店さんの事例も当初客層を広くとってしまったことによるターゲットミスです。
その後、着物ユーザー限定にしたことで売れるようになりました。
啓蒙活動はリソースが豊富な会社さん、大企業さんの戦略です。ピータードラッガーが「マーケティングとはノンカスタマーをカスタマーにすることである」と言っています。
有名な事例としては任天堂がゲーム機のノンカスタマーであるご高齢者さんと主婦層に対して、ご高齢者さんには「任天堂DSの脳トレ」で大ヒットし、主婦層には「Wiiフィット」でゲーム機でフィットネスを行うというコンセプトで見事にノンカスタマーをカスタマーにすることに成功しています。
しかし、これは大々的にTVCMを流したり、マス広告を多用したりして、啓蒙することができてはじめて実現します。
基本、中小規模の事業者である我々は、弱者の戦略を採用することになるので、マス広告はリソース的にも使うことはできません。なので、最初からノンカスタマーをターゲットにすることができない、と思った方がよいのです。
もう一つ。
大幅な値引きをしなければ販売できない場合も、ターゲットを間違っている可能性があります。大幅な値引きをしなければ売れない、ということは、商品の価値や店舗、店長さんへの共感が創出されていないということで、値引きによるお得感という価値に対してのみメリットを感じているユーザーが多いことが予測されます。
先日渋谷のセルリアンタワーにある中華料理店「陳」に行きました。
ご存じ「陳建一さん」のお店です。
そこで「回鍋肉(豚肉とキャベツの味噌炒め)」を食べたのですが、一日限定4食の陳建一さんこだわりの回鍋肉が1皿なんと3000円!
めちゃくちゃ美味しかったです。
一方でファミレスチェーン店の「バーミヤン」にも回鍋肉はあるのですが、こちらは599円です。
こちらもそれなりに美味しいです。
この2つのお店の客層は全く異なります。
たとえば「陳」の回鍋肉をバーミヤンを意識して本日限り!半額の1500円でご提供!みたいなセールをやったとしたらどうでしょうか?
「いやいや陳さんのお店にそういうのを求めてないから」と言いたくなりますよね?
てか、バーミヤンを意識する必要もないと思いますし。
でも、往々にして我々は1500円の回鍋肉のようなことをやりがちです。
それは自分自身のブランド力を下げているにもかかわらず。
うまくターゲッティングを行って、人・商品・店舗に対する共感を創出することができれば老舗の包丁の製造・販売専門店さんのようなブランド化を実現することができ、客単価アップも不可能ではないのです。