EC担当者「3つの間違い」とその改善方法

水上 浩一

EC担当者「3つの間違い」とその改善方法

水上 浩一です。
毎日、セミナーやEC実践会でたくさんのEC担当者さんとお話をさせていただきます。EC担当者さんは、店長さんだったり、サイト制作担当者さんだったり、場合によっては経営者さんだったりと、肩書きは様々です。

もちろん会社における立場によって視点は様々です。たとえば経営者さんや店長さんの立場でしたら、事業としてネットショップを考えて全体を俯瞰して見る「視点」が重要になると思います。

しかし、「EC担当者」として考えた場合、どうしても直近の売上やセッション数等の目先の数字に追い立てられ、近視眼的になってしまいがちです。特に「Google Analytics等の数字をどのように店舗運営に活用するか?」という点において、同じ数字を見ていても、出てくる結論が全く異なってしまう場合があります。

実はこの「視点」の違いがネットショップ運営においては非常に成果を左右するのです。今回は、EC担当者さんが犯しがちな「3つの間違い」についてお伝えします。もちろん、その改善方法についても検討していきます。

その1 Google Analyticsを見ているけれど売上が上がらない

その1 Google Analyticsを見ているけれど売上が上がらない

細かい数字をいくら見ても、数字を見ているだけでは売上は上がりません。

かなり前の話ですが、とにかくGoogle Analyticsの使い方や、その他アクセス解析ツールの使い方に詳しい方がいらっしゃいました。

その方は、一日のうちのかなり長い時間をGoogle Analyticsの「分析」に費やしているとおっしゃっていました。出てきた数字をエクセルでまとめていました。かなり細かい数字まで計測していました。

それで「この分析結果からどんなことが言えるのですか?」とお聴きすると「コンバージョン率が前年よりも0.2ポイント下がっています」とか「セッション数が前月よりも3ポイントアップしています」という感じで肝心の問題点の明確化と改善策が出てきません。

エクセルの資料を見せていただくと、とにかくセッション数が少ないのです。さらにコンバージョン率も低い。結果的に売上も低い状態でした。

例えば「セッション数1日200セッション、コンバージョン率0.5%、トランザクション数1件」みたいな数字だったのです。これは少ないセッション数、売上をバカにしている訳では決して無く、この規模の数字をいくら「分析」しても意味がありません。

セッション数200が3%アップしても206セッションです1日6セッション増えても、30日間で180セッション増です。コンバージョン率0.5%でしたら、1トランザクション分のセッションにも満たないことになります。

また、コンバージョン率0.5%が0.2ポイント低下してるとして0.3%です。いずれにしても、売上に与える影響は極めて軽微と言わざるを得ません。細かい数字の分析は無意味だ、と言っている訳ではありません。

セッション数が多かったり、売上が多い大規模サイトの場合では話が違ってきます。たとえば1日1万セッションだった場合、3ポイントアップした場合は1日10,300セッション、1ヶ月間で300×30日=9,000セッションアップすることになります。

コンバージョン率が2.3%あった場合、1ヶ月間で207件売上がアップすることになります。客単価@1万円だったら207万円の月商アップになります。これは無視できない数字です。

1日1トランザクションあるかないか?という段階のネットショップの場合、根本的に、まず売上をいくらにしたいのか?そのためにはセッション数、コンバージョン率、客単価はどのくらいの目標値になるのか?といった定量目標を設定する必要があるのです。

コンマ数ポイントの数字を分析してもビジネス・インパクトは極めて小さいのです。この場合は、たとえば売上を月商2倍と設定した場合、Google Analyticsの数字を分析する、というよりは定量目標の設定が重要になってきます。

この場合Google Analyticsは数字の分析というよりは、その定量目標の進捗管理に使うと効果的です。たとえばセッション数を現状の1.3倍に、コンバージョン率を現状の1.5倍にすると倍率同士のかけ算で1.3×1.5=1.95とほぼ2倍になります。

具体的な事例をあげますと、
<現状>
セッション数15,000×コンバージョン率1.0%×客単価@6,700円=105万円<2倍目標>
セッション数15,000×1.3倍=19,500
コンバージョン率1.0%×1.5倍=1.5%
客単価@6,700円(そのまま)
=204万円
となります。

このように具体的な数字に落とし込むことによって売上だけを「2倍の200万円にするぞ」と思っているときと比べてより現実的になってきます。「売上を2倍にするにはセッション数を月4,500セッション増やせばいいんだ。コンバージョン率を0.5ポイントアップさせれば良いんだ」と具体的な数値目標ができるのです。あとはこれをどうやって実現するか?に集中すれば良いことになります。

その2 数字を見ることができても、転換率、セッション数を上げる方法を知らない

ところがここで次の問題点が現れます。

セッション数をどうやって月4500アップさせればいいのか?コンバージョン率を0.5ポイントアップさせるには何を改善したらいいのか?ということです。

以前、チームであるクライアントのコンサルティングをしていたときのこと。Google Analyticsやその他のツールの数字の分析をある会社に依頼していました。

数字はしっかり出してきたのですが「ではこの数字から何が言えるのか?」「具体的な改善提案は?」という問題には全く答えていないレポートが出てきました。これは実は原因があります。

先ほど「問題点の明確化と改善策」という話をしましたが、データ分析をする際、最も重要なことは「仮説を立てる」ことだと思っています。仮説を立てることで、全体の設計の問題点も明確になります。

たとえば、主力商品があるとします。先ほどの数字で考えて見ますと、コンバージョン率1%ということは、2%の商品もある中で0.5%しかない商品もあるのではないか?と予測します。

売上が思ったように上がっていないとしますと、この主力商品のコンバージョン率が低いのではないか?と当たりをつけます。そして該当商品ページのコンバージョン率をチェックします。すると、案の定0.5%しかありませんでした。

ここで「なぜ主力商品のコンバージョン率が0.5%しかないのか?」というこのネットショップにおける根本的な問題点が明確になりました。商品力もあり、競合他社の同等品とも遜色がなかったとします。販売価格的にも負けていなかったとします。

そこで次のような仮説を立てます
1)主力商品の持っているターゲットキーワードで集客出来ていない
2)そのターゲットキーワードの購買確率が低い
3)広告をいろいろな商品やキーワードに分散していて主力商品の予算が少なくなっている
4)商品ページの内容が魅力的ではない
それぞれをGoogle Analyticsを使って検証していきます。

(1)についてはオーガニックの流入をまずは計測します。すると広告からの流入よりも大分少ないことがわかりました。

次にGoogle Analyticsでサイトコンテンツ>ランディングページを見ます。入口になっているページの分析です。

ここで主力商品よりもセッション数があり、さらに売れている商品ページがあることがわかりました。そこでそのページを閲覧し、その商品が持っているキーワードでの検索順位をツールを使って調査します。すると、なんと主力商品よりもSEOの順位が高かった。

ところがその商品ページは商品画像とスペック、価格が記載されているだけのシンプルなページだったとします。ここで仮説を進化させます。

実は主力商品Aだと思っていた商品よりも検索順位の高い商品Bを発見する。その商品ページは極めてシンプルで全く手をかけていなかった。当然ノーマークだったのでリスティング広告もかけていなかった。

そこで商品Bのページのブラッシュアップを実施し、比較のために主力商品Aのページも精査し、改修します。
商品Aと商品Bに対して広告費を多めに割り当てて、売れ行きを比較します。すると、圧倒的に商品Bの方が売れてきました。

主力商品Aのコンバージョン率も上がっては来ましたが、商品Bのコンバージョン率の方が上がり方が高く、また数も金額も多く売れてきました。

そこで主力商品をBに変更。Bの広告費を増額します。トップページのファーストビューでの露出も商品Bを大きく、その下に主力商品Aのバナーを設置しました。

商品Bが売れてきてセッション数も高くなり、SEOもさらに上がってきました。ページを改修したこともあり主力商品Aも売れてきました。

この2つの商品の相乗効果で目標を達成することができました。この結果は「仮説を立てた」ことで見えてきた部分が大きいのです。

ランディングページを分析しなければ商品Bの存在も知りませんでしたし、検索順位が上がっている事実も掴むことができませんでした。

ちなみに、この事例はフィクションですが、実際にランディングページを分析して、その店舗ではノーマークだった商品の可能性を知ることができ、実際に検索順位が高く、しかしページの作り込みが出来ていなかったため、コンバージョン率が低かった事例は実際にいくつもあります。

仮説を立てないと、こうした「お宝」を発見することができません。

さらに、ここではサラッと商品ページのブラッシュアップ、改修、と書きましたが、実際には数字の分析を依頼していた会社からは「では具体的にどのようにページをブラッシュアップしますか?」という提案はありませんでした。

実はこういうケースは意外と多いのです。データの分析は解決策とセットで初めて効果を発揮します。そうでないと「数字を見ているだけ」になってしまいます。

「えらそうに言っているけどおまえはどうなんだ?」と言われそうなので、ちょっとだけお伝えしますと、EC実践会には「PICASSOの法則」というライティングフレームワークがあり、これまでのところ受講者様全員が売れる商品ページのテキストを受講4時間の中で書き上げています。

これまでのデイリーでのコンバージョン率で最高は48%があり、その次は31.2%、それから29.7%と続きます。

こういったフレームワークをしっかりと持っているので、数字の分析を実施しても成果につなげることができるのだと考えています。

その3 SEOやソーシャルメディア等、新規集客についても新しい手法や環境の変化に振り回されてしまう

その3 SEOやソーシャルメディア等、新規集客についても新しい手法や環境の変化に振り回されてしまう

先ほどの事例でコンバージョン率において重要な分析があります。それは「新規」と「リピーター」です。

「セグメントを追加」のところで「新規」と「リピーター」を選択します。もちろんGoogle Analyticsにおいて「リピーター」はcookieが有効な期間における2回目以上のユーザーのセッションのことを指します。

ちなみに「新規」も「リピーター」も単位は「ユーザー数」ではなくて「セッション」となります。まずは、セッション比率を計測します。「新規」と「リピーター」では比率はどの程度でしょうか?

これも新規が40%でリピーターが60%だった場合、それが平均的な数字なのかどうか?平均的な、と言いましたがそれはネットショップ全体で考えたらよいのか?ジャンル平均はどうなのか?も知っておくとよいと思います。

次に、新規のコンバージョン率とリピーターのコンバージョン率を計測します。これも、基準値を把握しておくとよいと思います。通常は新規よりもリピーターのコンバージョン率の方が高くなります。

ちなみに、自社ECサイトの場合、新規のコンバージョン率が低いため、ネットショップオープンからしばらくは低空飛行になるケースが多いのです。モールはこの新規のコンバージョン率が高いのでうまくスタートできると早期に売上を作りだすことが可能です。

最後は、売上高比率を計測します。新規の売上高比率とリピーターの売上高比率を把握します。こちらも通常は新規よりもリピーターの方が多くなります。ですからリピーターをいかに増やすか?が売上アップには重要ということになります。

コンバージョン率を高めるためにもリピーター集客が重要になる訳です。リピーターを増やすためには新規が必要なことは言うまでもありません。

では新規を増やすためにはどうしたらよいか?というと自社ECサイトの場合、SEOとソーシャルメディア活用ということになります。

ソーシャルメディアもInstagramの「ショップナウ」機能の追加やYouTube等も含めたインフルエンサーとのコラボ等、どんどん新しい機能や情報がアップデートされています。

ハッシュタグの拡散で自社商品の使用画像の投稿を促し、毎月抽選で自社店舗で使えるクーポンをプレゼントすることで新規集客と既存客集客の両方を実現しているネットショップさんもいらっしゃいます。

SEOもネット上だけでも膨大な数の情報が存在します。最近も「Google検索では、10年以上前の古いコンテンツは表示されない」ということが広まったそうですが、Google側はこれを完全に否定しています。

一体どちらが正しいのか?と情報が錯綜することもよくあります。2019年7月31日と8月2日にかけて「コア・アップデート」が実施されたという情報があります。

コア・アップデートというのはコンテンツの評価の仕組みを改善する取り組みのことを言うようです。このコア・アップデートでも特定のキーワードで上がったところと、下がったところが見受けられます。見事に7月31日と8月2日に変化が現れています。

このコア・アップデートで検索順位が下がってしまったところは「大変だ!順位が下がってアクセス数が下がってしまう!なんとかしなくては!」と対策を講じる訳ですが、ここでやりがちなのが、「Googleにどうやったら良いコンテンツだと評価されるのか?」と考えてしまうことです。

これはモールでも同じことが起こりがちなのですが、どうしてもモール内サーチによって価格比較が起こってしまうのですが、「競合他社はいくらで出してきているからウチはいくらでだそう!」「競合他社はこういう広告をやってきているから、それに対してウチはこれで対抗しよう」という視点になりがちです。

でも、本当に見なければいけないのは、Googleでしょうか?競合他社の価格でしょうか?「お客様」ですよね。当たり前の話ですが。

Googleに評価されるコンテンツを作るのではなくて、お客様に有益なコンテンツを作成することでお客様の利便性が上がり、結果的にGoogleの評価も上がる、というのが正しい順番だと思っています。

ネットショップにおいてお客様に有益なコンテンツとはなんでしょうか?

EC実践会では「商品をどうやって選ぶか?」だと考えています。

商品の選び方をお伝えすることでお客様は商品を選び安くなり、買いやすくなります。結果、そのネットショップのコンバージョン率が高くなりますし、そのお客様に有益なコンテンツを作ることでGoogleからも結果的に評価されて検索順位も上がるケースが多くあります。

つまりは、「コンバージョン率とSEOとリスティング広告は三位一体の設計が重要」ということであり、そこに「新規」と「リピーター」が絡んできます。ですから目先の数字だけにとらわれてしまうと本質を見失ってしまう可能性があります。

たとえば、ターゲットキーワードの選定をしっかり行い、購買確率も高く、月間検索数も多いキーワードで対策を実施した結果1位にランクインした。しかし売上が上がらなかった、というケースがあったとします。ターゲットキーワードの選定をしっかり行っていない場合は、そのキーワードの購買確率を調査することになるのですが、ここではそれは問題無かった、と仮定します。

そういった場合、意外と「新規」と「リピーター」で分析してみると、新規のセッション数、コンバージョン率、売上は上がっていて、実は「リピーター」のセッション数、コンバージョン率、売上が下がっている可能性があります。

この場合、問題点はSEOや新規のセッション数、コンバージョン率ではなくて、リピーターのセッション数、コンバージョン率、売上金額に問題があり、これはその後の調査が必要ですが、もしかするとリピーターの集客が出来てない、たとえばメールマガジンがアクティブでは無い、リピート率が低い、新規のメルマガ登録率が低い等の問題が考えられます。

あくまでGoogle Analyticsの数字は仮説の検証手段であり、問題点の明確化にあります。Google Analyticsで数字を見ていても、どんなに細かく数字を分析しても、売上は上がりません。

実際に売上を上げるのは、たとえば今の場合であれば、新規を獲得するためにSEO等の知識を持ち、SNSを最大限活用し、ページを改善してコンバージョン率を上げていき、メールマガジンの配信タイミングや配信内容、告知する販促企画の魅力や新商品開発といったネットショップ運営の根幹となる部分なのです。


著者

水上 浩一 (Mizukami Hirokazu)

ランチェスター戦略を軸にしたウェブ活用・地域活性化コンサルタント。
「水上 浩一EC実践会 for FutureShop2」講師
株式会社ドリームエナジーコンサルティング代表取締役
8月5日 東京生まれ、神奈川鎌倉育ち。
●EC実践会参加1年間で売上純増2億1000万円(梱包資材)
・県産生鮮品月商1億円超、生花生産直売月商4800万円、
・オープン80日で月商1100万円(ファッション)
・月商200万円→6ヶ月間で月商1450万円等(地域土産)等

ランチェスター戦略の効果的なウェブマーケティング活用を中心とした勉強組織
「水上 浩一EC実践会 for FutureShop2」を全国で展開中。
2017年3月現在17地域、受講者数は2400名を超える。
講演・セミナー回数は年間240回以上、通算2000回超。
ジャンルを問わず短期間で劇的なネットショップの売上アップ実績多数。
大手上場企業から生産者直売店舗等地域活性化までコンサルティング成果事例多数。

http://www.ecjissenkai.com/