【第6回】カスタマーサポートの今後。コンタクトセンターはAIに駆逐されるのか?

飯山 奈穂

ヤマトコンタクトサービス株式会社

少し前に話題になった、AIに駆逐される職業にコールセンターのオペレータが挙げられていたことを記憶している方も多いのでは。Webやアプリ、チャットボットの高度化・普及速度を鑑みると「さもあらん」との意見が多勢のようです。
連載最終の今回は、これからの「顧客接点」のあるべき姿を見据え、カスタマーサポートが進化すべき方向性についてお話したいと思います。これから顧客接点の充実を目指す企業さま、自社のコンタクトセンターの方向性を模索中の事業主さまの一助となれば幸甚です。

カスタマーサポートから「電話」はなくなるのか?

わたくしは2000年代の初頭からWebやEコマースに携わってきました。コミュニケーションの変遷として、デバイスは「電話」「PC」「スマートフォン」などと変化を遂げ「スマートスピーカー」にまで至り、ひとびとの生活や社会活動に大きく影響しています。

一方、コミュニケーションそのものの形態をみると「対面/非対面」「リアルタイム/ディレイタイム」「音声/非音声」「言語/非言語」・・・などいくつかの軸によって区分され、それぞれのデバイスが実現する形態のうち、社会や人々に受け入れられたものが成長した、といってよいでしょう。

「電話」に代表される、音声による非対面リアルタイムのコミュニケーション形態は、公衆電話、家庭用電話、携帯電話、スマートフォンと変遷してきました。将来的に「電話」というデバイスは無くなるかもしれませんが、「音声による非対面リアルタイムコミュニケーション」というカスタマーサポートはデバイスを変え残りつづけるのではないでしょうか。

機械か?人力か?

コミュニケーションの形態とは、当事者にメリットがある形態が支持され生き残る、とお話しました。次に、コミュニケーションの「担い手」はどうでしょう。プログラムされた機械や人工知能(AI)が人間に取って代わるでしょうか?

誰が訊いても100%同じ回答であるもの、条件指定で単純に判定ができるものは、機械が検索を補助したり、プログラム化してアプリでシュミレーションできたりしたほうが顧客にも利便性が高く提供側も効率的になり、このようなコミュニケーションは機械化・AI化が進んでいくと推測されます。

コンタクトセンター関連の技術では、Text to Speech(音声合成)の高度化が進んでいますから、決められたシナリオによって成り立つ会話であれば機械による接客も可能でしょう。

一方で、シナリオによる成り立ちが難しく、単純に判断ができない内容、細かな気遣いや感情の機微に寄添う応対はまだまだ機械化が難しいのが現状ですから、こういった対応はいましばらく人力依存が続くでしょう。また、ハイエンドなシステムも維持コストで相対的に安ければ人力を選択することもありえます。

カスタマーサポートにおいて重要なのは、顧客の置かれた状況に寄添い最適な顧客接点と応対品質を用意することです。機械やAIありきではなく、どのようなコミュニケーション形態が求められるのかを設計し、使い分けしていくことなのです。

あるべき顧客接点とは?

顧客行動が多様化する今、カスタマーサポートにおける顧客接点はどのようにあるべきなのでしょう。大きく3つの切り口で整理してみました。

第一に、「自己解決」「自働解決」「人力解決」のマルチエントランス化
お客様が自らの状況や都合に併せ解決方法が選択できるよう、複数のチャネルを整備すること。時代や社会変化にあわせコミュニケーション形態に留意し、最適なデバイスを常に用意すること。

第二にオムニチャネル
単に独立した複数のチャネルが存在する(マルチチャネル)ではなく、チャネルそれぞれが連携しチャネルが切り替わってもインシデントが統合管理されること。

第三に「個」客対応
お客様がどこから訪れても「個客」認識され、要望を汲み取り、そのお客様に最適な問題解決に誘導できること。お客様の嗜好も昔のようにインターネット好き・嫌いなど単純ではありません。同じお客様でも状況によって「最適解」が異なる複雑な時代です。状況を的確に判断し、感情にも寄添う対応ができて初めて顧客満足につながるのです。

カスタマーサポート「チャネル」には画面共有やWeb-RTCなどコンタクト領域のIT化で登場したものもありますが、「Webコンテンツ(FAQ)」や、「Web接客」と呼ばれる他事業領域からの参入(というよりむしろ垣根が存在しなくなってきた)が顕著です。カスタマーサポートにおいて、コンタクトセンターがこれまでのように「電話対応だけ」担う存在であってはならないのです。

コンタクトセンターはどう進化するのか?

業界外から来てまず驚いたのが、コンタクトセンターの独特な環境でした。同じITとはいえ、電話回線、交換機(PBX)、CRMツール(コンタクト業界では「応対履歴を管理するツール」の意)、WFM・・・など独特のシステムが多く、コンタクトセンターは専用の環境が必要なチャネルなのだな、と実感しました。先に記したような高度な顧客接点を実現するには「情報系」「電話系」両方へのIT投資が不可欠なのです。

コンタクトセンターをアウトソーシングする利点はこのような環境構築の固定費を軽減し、変動費で利用できる、という点にありました。今しばらくはこの状況が続くとおもわれますが、しかし、高度なシステム環境そのものが未来永劫カスタマーサポートの優位性にならないことは他の業界と同様です。

2017年4月にAmazon Web Services(AWS)からクラウド型のコンタクトセンターサービス「Amazon Connect」が発表されました。

(以下引用)“専門知識のないユーザーでも、Amazon Connect のセルフサービス式のグラフィカルインターフェイスを使えば、対応フローの設計、スタッフの管理、業績指標の追跡が簡単にできます。 Amazon Connect なら、前払い料金も、長期契約も、インフラ管理も不要です。費用は分単位の従量課金と、ご利用の電話サービスの料金だけです。”

つまり、これまでのように膨大な設備投資なくコンタクトセンターが構築できるということです。自社でコンタクトセンターをクイックに立ち上げたい事業者さまには朗報です。また専用環境を持っていないIT企業であっても、莫大なシステム環境投資をせずにコンタクトセンターを受託できる可能性が広がった、ということです。

コンタクトセンターに特異なシステム環境が手軽に利用できるようになれば、システムそのものは「あるのがあたりまえ」となり、カスタマーサポートの大きな差別化要因にはならない。IT業界で広く起きていることはコンタクトセンターでも例外ではないのです。

技術のコモディティ化は、AIであっても逃れられない

テクノロジーは必ずコモディティ化する―。産業革命以降、インターネット時代を経てもなおこの原則は不変的といえます。グーテンベルグの活版印刷も、ゲノム解析によるDNA検査も、これまで4つの産業革命をとおして生まれた技術は経年と供にいずれも世の中の「あたりまえ」つまりコモディティ化し、技術そのものでは差別化が困難となりました。

今は技術自体がもてはやされているAIもいずれコモディティ化は避けられないでしょう。また技術は経年とともに「質」の要求が高まる、という傾向もあります。いまや金融、医療、商取引などさまざまに利用されているインターネットも、黎明期は趣味性の高い利用が主でした。インターネットを利用すること自体が目的で、利用環境の安定性や得られる情報の質自体はあまり重視されていませんでした。

AIによるコミュニケーションも同様に、現在は話題づくりのオウム返しでももてはやされてしまいますが、いずれホスピタリティや高度な接客が求められる局面が訪れることでしょう。

カスタマーサポートはコミュニケーションの「質」こそ重視

技術そのものが「あたりまえ」になり、技術の上でなしえる「ソフト」「コンテンツ」「サービス」がかつては差別化の要因になりました。今後、カスタマーサポートを差別化する要因は何でしょう?

機械やAIが自働的に効率よく対応してくれる先には、やはり人による質の高い応対が求められるのではないでしょうか。両者は駆逐する・される関係なのではなく、互いに補完し役割分担でより良いカスタマーサポートを実現する要素といえます。“AI”を「Artificial Intelligence(人工知能)」ではなく「Augmented Intelligence(拡張知性)」と意味付ける動きがあります。人間の代替としての機械ではなく、人間が判断し行動するのを機械が支援する、という考え方です。

デバイスやシステムの充実だけを追いかけるのではなく、そこで行われるコミュニケーションに最適な「質」が伴わなければ、優良なカスタマーサポートとはいえません。スピードの質、情報網羅性の質、そして人が担う質はやはり「個に寄添う」応対です。

ヤマトコンタクトサービスではオペレータではなく「Brand Ambassador(BA)」と呼称しています。単にコミュニケーションを処理するのではなく、お客様とクライアント企業様を繋ぐコミュニケーションパートナーとして位置づけているからです。顧客との関係構築において顧客接点を充実させ、統合的にハンドリングしコミュニケーションの質を維持していく役割こそコンタクトセンターが将来にわたり担うべき役割といえるでしょう。

故に“コールセンター”は将来なくなるかもしれませんが“コンタクトセンター”はあり続ける「はず」です。




最後になりますが、6回にわたりご購読くださり誠にありがとうございました。
深く御礼申し上げます。



著者

飯山 奈穂 (Nao Iiyama)

ヤマトコンタクトサービス株式会社 CRM戦略部長

情報デザイン・工業製品のインタフェースデザインを経て、インターネットの黎明期から十数年にわたりweb・ITのコンサルタントとして、総合通販、航空券やホテル予約、証券・保険など多様なサービスのネット化・新規ネット事業立上げ・webブランディングに携わる。国内小売チェーンの事業責任者としてネット事業を立上げ、その後CRMコンサルタントを経て、2016年より現職。VOC(Voice Of Customer)を活用したオムニチャネル時代のCRMを担う。

コーポレートサイト:http://www.y-cs.co.jp/

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