【第4回】お客さんの「教えて」に向き合うコトでアクセスも売上も伸びた
タキシード、燕尾服、モーニングコート、フォーマルスーツ・・・
メイドインオオサカの紳士礼服を製造販売するフォーマル専門店ノービアノービオ。1952年に礼服の生地問屋として創業、今は製造から小売(ネットと実店舗)まで手がける、いわゆるSPA企業ですが、小さな小さな町工場です。
バブル最盛期、従業員230人 年商65億円、紳士礼服メーカーとして業界2位。バブル崩壊後、従業員20人、負債45億円、在庫は倉庫に14億円分。
年商65億から負債45億円、約100億円のジェットコースターを下りきった頃、服の「フの字」も知らない素人だった僕は楽天市場店のスタッフとして、この会社にやってきました。
順調に伸びていた頃、相次ぐ大手の参入で再び窮地に。首の皮一枚すらちぎれそうなとき、次々と訪れた出会いと気付きと・・・たくさんの先達に出会い、学び、SNSを使ってV字回復。
SNSは次々にピンチをチャンスに変えてくれました。
子供の頃から大好きだった僕の「ヒーロー」に自社のタキシードを着てもらえ、「僕より僕のことを知ってる日本一のファン」と抱きしめてもらえた・・・。
SNSをやってたら、売上が伸びて子供の頃から大好きだった方に約30年越しで対面が実現、これまでの想いを伝えることができ、夢がかなった瞬間。
スタッフ数人の小さなECサイトのごくごく平凡な僕に起こったウソみたいなお話。
これから記させて頂くことは特筆すべき秀でたスキルなど何もない普通の僕がやってきた、「今日から誰にでもできるお話」です。
このお話を通じ、皆さんのお店のコンバージョン率+0.1%~に少しでもお役に立つことができればと、経験した全てをお伝えしていきたいと思います。
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素人VS広告コンサルタント 付け焼き刃で挑んだ戦い
縫製工場で生産管理を学び、縫製現場からブログやTwitterで発信、「のだめの燕尾服メーカー」として認知して頂けるようになった頃、1年半ぶりに本社EC事業部に戻りました。以前と比較して一番大きな変化はECサイトでリスティング広告を常時利用していることでした。
過去もECモール内の広告は社内で運用していましたが、リスティング広告は外部の広告コンサルティング会社に丸投げ状態でした。
とはいえ、広告は月額平均100万円超にも関わらず、ECサイトの売上が伸びているとは言い難い状況でした。
ちょうどこの時、当店のECサイトを黎明期から支えた女性スタッフが産休に入って中核不在のサイトになり、売り場も少し荒れているような印象でした。それをカバーしようとリスティングコンサルタントに依頼して広告出稿をしていたのです。
当時の僕はAdWordsの管理画面も観たこともなく、Google Analyticsについても「増えた、減った、多い、少ない」程度の見方で、深い考察もしていませんでしたが、何度か見ていくうち、経費と利益のバランスが取れているのか?という疑問はなんとなく感じました。
コンサルタントさんは広告開始にあたり、「フォーマルスーツだけで600万円売る」と豪語したというのですが、現実は理想とは程遠い数字。
僕は率直な気持ちを社長にぶつけます。「これ、リスティング広告の意味あります?」
すると、コンサルタントを呼ぶから直接話し合いを持つことになりました。ですが、先述の通りGoogle Analyticsの上辺しか観たことがない。このままでは対等に話すことすらできないわけです。
そこでGoogle Analyticsに関する情報サイト、書籍を読み漁りました。まるでテスト勉強の一夜漬け。学生時代、これぐらい必死に勉強していたら、良い大学に行けたかもなぁと思ったりもしました。自宅でメルマガを書き、アクセス解析の見方について学ぶ。深夜2~3時に及ぶこともしばしばでしたが、苦痛という感じはなく、データ解析にハマって没頭しました。
管理画面の見方を一通り覚えて見てみると、リスティング広告費は売上の24.5%。赤字ではありませんが、これまでに見たことが無いような比率。
しかし最もコストパフォーマンスの悪いジャンルではなんと売上の79.7%もの広告費を遣っている異次元な数字が出ていました。もはや広告でもなんでもないですよね、ただ経費を垂れ流しているだけ。
それだけではなく、月別でみていくと広告費だけを遣い1円の収益もない広告も決して少なくありませんでしたが、その報告や改善提案も全くなされていませんでした。
腹立たしいやら情けないやら悲しいやら。複雑な感情が入り混じる中、コンサルタントを呼び、商材とキーワードの選定基準、入札額の出し方、予算の配分の考え方を聞きたかったのですが、責め立てたと取られたのでしょう。開き直りの一言を放ちます。
「御社の広告運用では僕たちは全然儲からないんです」
ちょっと何言ってるかわかんないです。え?逆ギレ?
「いや、ちょっと待って。話すり替わってないです?僕の聞き方が悪かったです。売上が伸びていないことを責め立てたいのではなく、広告費を是正したいんですよ。ウチも任せきりになっていたので、これからは相談しながら決めていきたいんです」
と話すと、キーワードの見直しをするので1週間時間が欲しい。そう言って、キーワード群を校正し直し、再度打ち合わせに入りました。
翌週、再打ち合わせをしました。
「ノービアノービオさんにいいキーワードが見つかりました!」
そう言うので僕も期待してキーワードを見ると、顎がはずれそうな言葉がありました。
「タキシード 葬式」
呆気にとられながらも、その意図を訪ねました。
「競合がいないので独占できます」
「いやいやいや、タキシード葬式とかないから!競泳用振り袖とか、サッカー用ゴム長靴ぐらいないから」(もしあったらごめんなさい)
とはいえ百歩譲ってこういう考え方もあります。フォーマルはしきたりやルールが複雑なもの。
たとえば、タキシードはお葬式に着てはダメなのかと調べたとして、その理由を明記したランディングページを設け、正しい着こなしから喪服へ誘導するというのならありかもしれません。
しかし、彼はただ入札額が安く、競合が居ないという理由で持ってきていました。このやり取りが決定的となり、リスティング広告を一度打ち切る事になりました。
前回の最後にも書きましたが、僕は広告=ダメとは全く思っていません。自社内で予算から運用、効果観測まで掌握できているのであれば問題ないと思います。
それでも時々、
「足から命にかかわるほど出血しまくっているのに、顔の擦り傷を気にしている」
そんなお店に出会うことが意外と多いのです。
自社の経験も踏まえ、外部に丸投げをして、お金は出ていくが社内にお金もノウハウも残らないような広告運用は絶対にすべきではないと思います。
これまでのコラムでお客さんとの関係や距離について書いてきましたが、この広告運用ではお客さんである当店のことや商材のことを何も考えてくれていなかったことがわかりました。強いてはその先にいる当店のお客さんのことも考えてくれてはいなかったのです。
授業料はかなり高くつきましたが、この経験は今の自分を形づくる中で非常に大きなポイントになっていると思います。
社長、広告やめるってよ
ウチは源泉掛け流しの温泉ではない。お金が潤沢に湧き出る夢のシステムを持っているわけではない。この広告に関しては一先ず止めるべき、そう判断しました。
「では、どうするのか?」
他のスタッフが帰った後、テーブルで向かい合い、着地点の見えない話し合いは一進一退。夜も更けて行くところ、フゥとため息をついた後、社長が言いました。
「一回、全部やめてみるか」
広告費の効果が見えないのなら、中途半端な変化では気づくことも限られているだろう。蛇口を少し閉めるぐらいなら、完全に止めてしまおうという話になりました。
店頭でも、少しずつブログを見たというお客さんも増えているし、一度これに賭けてみよう。本当に数字には直結していなかったのか、広告が集客に役立っていたのかどうかを見極めるためにも完全にストップしようと。
それで本当に売上が落ちるようなら、再度広告を始めればいい、そう言ってもらえはしましたが、いよいよ明日から広告が止まるという前夜は本当に眠れませんでした。
その話を今になってすると、「全然覚えてない」というのですが、経営者はそういうものなのか、本当に覚えていないのかわかりませんが、それぐらい図太くないとやっていけませんよね。
広告を止めたとはいえ、翌日からいきなり売上がガクンと下がるわけはないのですが、その時が来るのか来ないのか、いつ来るのかと内心ドキドキしていました。ところが、1週間、1ヶ月経っても売上は落ちませんでした。
時が経つにつれ、むしろ広告をかけていた時よりもじわじわと受注、来店は増えてきました。その理由は至ってシンプル。予想通り、お客さんはメルマガのバックナンバーを含むブログを見てくれていたのです。ただアクセスが増えているのではく、お客さんがしっかりその事を教えてくれました。
実体験のメルマガが、お客さんを繋いでくれた
店舗も順調で時折店頭のヘルプに入ることもあり、お客さんと会話する中で広告を止めた不安は徐々に拭い去ることができて自信になっていきました。
店舗ができたことにより、メール以上にダイレクトにお客さんからフィードバックをもらうことができるようになりました。ブランド商品の取扱を止め、広告を止めるタイミングでお客さんに言われた事は今も鮮烈に覚えています。
「ブランドネクタイなんていらんやん。アルマーニ買うならアルマーニ行くって。おたくはフォーマル専門店でしょ?僕らは結婚式とかパーティーに何を着ていくかわからへんから来てるねん。それを教えてや」と。
他にもありました。
「冠婚葬祭の着こなしを知りたい」
「大事な式で主賓として行くのに恥をかきたくない」
「専門家に聞けばわかると思って」
50年前の名著・セオドア・レビット博士の「マーケティング発想法」で有名な一節、
「ドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいからドリルを買う」
この通りですね。
お客さんは商品が欲しいのではなく、冠婚葬祭のどこかに行く必要があるから、専門店である当店に「教えて」「助けて」と来て下さるのですよね。ここに来てもまだ売り手都合だったのかと思い知らされました。
僕らの「ブランドネクタイもありますよ。品揃え豊富でしょ」なんてことはお客さんにはどうでもいい。むしろ「どうしてそれを取り扱うの?」を作り出して、お店に対しての信頼感を落とすような結果になっていたのです。
また、ある時には店舗のお客さんが僕を呼んで欲しいと仰ることがありました。お店は事務所の下階、クレームか何かと思ってお店に降りると
ダンディーなおじさまが、顔をくしゃっとして僕にこう言いました。
「酒匂さんのメルマガ、いつも読んでいます。妻とクルージングに行くことなって、タキシードが必要と書いてたでしょう?なので買いにきました」
2009年前後、団塊の世代の方々が定年を迎えられ、クルージングに出かけられる方が増えていたのです。人気のクルージング客船ではかなりの期間、予約待ちであるということも教えてもらいました。
このお客さんもそうで、以前はお嬢さんの結婚式でネクタイをネットショップでお買い上げ下さっていました。
その後も購読頂いていたメルマガで僕が書いたクルージングに行くにはタキシードが必須という記事を読み、クルージング用のタキシード一式をお買い上げ頂いたのです。
タキシードの需要が伸びているのはこれか!核心に触れた瞬間でした。
SEOができているのかな?ぐらいにぼんやり思っていたタキシードの売れ行きが好調の理由のひとつがここにありました。
そのメルマガに書いたのは僕の実体験に基づくお話です。
カナダを旅行している時のこと、ビクトリアで観光ドライバーをしているスコットランド人のキースという男性と出会ったのです。
滞在中、ビクトリアに入港した豪華客船を見に行こうというキースに誘われ港に行くと、接岸している船はまるで巨大な城壁かビル群かというほど。
「あの船、何人ぐらい乗るんだろう?」と僕がつぶやくと
キースはすぐに「あの船なら1,600人ぐらいかな」と答えてくれました。
どうしてわかるの?と聞くと、キースは造船エンジニアとして勤務した後リタイアして、奥さんとクルージングで世界中を回り、一番気に入ったビクトリアにやってきたのでした。キースは本当にいろんなことを教えてくれました。
「あの船は最上階がカジノになってるんだ」
さすが専門家!と感心しつつ、まさかと思って聞きました。
「え、もしかしてあの船に乗ったことあるの?」と。
するとキースは言いました。
「1回だけね。あの船はレストランだけで10個あるんだ」と。
いや、マジかよキース!ってなりましたが、世界中のクルージング船を見てきた彼との話の流れから、僕がタキシードメーカーで働いていることを話すと、キースの口から出たことが目からウロコでした。
「なんで日本人ってタキシード持ってないんだ?最近はタキシード着てる日本人も増えたけど、ブラックスーツでネクタイをあれこれ替えたり、窮屈にやり繰りしているけど、オシャレじゃない。タキシードが1着あれば、寄った町のいいレストランでもOKなのにね」
海外のクルージングではフォーマルナイトや寄港した時のウェルカムパーティー、船長主催のパーティーなどドレスコードが段階的にあり、タキシードが必要なパーティーが時々あることを教えてくれました。
その体験談を元にクルージングに行くなら1着はタキシードを、というメルマガを書いたのです。
ここからキーワードを細分化していく作業が面白いのです。
「タキシード」を買って欲しい、売りたいのが売り手の都合。
お客さんは「クルージング」に行きたいので準備物を調べる。
パーティーでは「タキシード」が必要なようだと知り、目的に迫られて購入する。
検索スタート時は自己の欲求は低いが購入動機はあり、購入する可能性も高い。
さらに「クルージングはどこへ行くのか?」「乗船する船の名前は?」などですね。
こうして考察していくと、
例えば
「クイーンエリザベス クルージング+タキシード」
という検索クエリが出てきます。ボリュームは大きくはないけれど、目的と購入動機が明確なので、お客さんになって頂ける可能性は高いわけですね。
クルージング一つとっても、地中海、カリブ海、エーゲ海・・・。船もクイーンエリザベスや飛鳥など様々。
検索ワードの組み合わせが複雑になればなるほど、競合が減り、自社とのマッチング率が高くなる。ロングテールワードですね。
この流れはより一層、強まっており、昨秋のGoogleのカンファレンスでは、
「RankBrain(検索順位を決める人工知能)の学習能力はロングテールで効果を発揮する。これまで検索結果にまとめられなかった複雑な検索クエリを処理できるようになった」
とGoogleが明言し、先日3月上旬の大幅なアルゴリズムのアップデートでは
「良いコンテンツを作る以外に方法はない」
と公式にアナウンスを出しています。
更に人工知能の進化でこれまで過小評価されていた記事が上がることもあり、実際に当店でも、フォーマルの深く入り組んだ検索で10年以上前のブログが上位に出ることが増え、お客さんからも
「2009年のブログを見てるんですが」
「2012年の記事にある靴はありますか?」
などのお問い合わせ、ご来店があります。
今日明日、すぐに売上にはつながらないかもしれない。だけど、数年後の自分を今の自分が助けてくれる、お客さんを呼んでくれる。
コンテンツにはそんな想いを込めて更新し続けていくこと、いつか実を結ぶと信じていますし、事実、僕たちは過去の自分たちから今へつながる道を更に未来へ進むようにコンテンツづくりをしています。
5年かけた売場整理。気づいたらアクセスが7.5倍になった商品も
コンテンツマーケティング、オウンドメディア、今は聞き馴染みのある言葉も当時はなく、僕たちはブログ、ブログと言っていましたが、自然とやってきたことがそうだったのかと振り返って思います。
こうしてお客さんに教えて頂き、成長、脱皮することができ、在庫のブランド品は一気に処分、フォーマル専門店として売り場の整理をかけました。
いよいよフォーマル専門店としてコンパクトに磨き上げられたノービアノービオは再出発を迎えます。
大手競合の進出で苦戦を強いられた2007年から、変貌を遂げた2012年では上図の通り検索ワードは一変しています。
仕入れブランド品の知名度に依存し、広告費を掛けていた2007年。
2012年~現在はアスコットタイやラペルピンといった、フォーマルアクセサリーの単一キーワードで自社ECサイトが上位をキープ。ECより店舗での購買率が高い重衣料は大阪・梅田や東京・渋谷という地域名で上位をキープ。
2007年では、タキシード・燕尾服専門店といいながら燕尾服が10位以内にも無いのです。
しかし2012年ではブログや、のだめカンタービレのおかげで「売れるわけがない」という先入観が消え、燕尾服や店名ノービアノービオでも検索して頂けるようになりました。
さらにフォーマルの中でもよりニッチなディレクターズスーツという商材でも当店にたどり着いて頂けるようになりました。
5年間での検索数の伸びは数字の通りです。最もアクセスが伸びたアスコットタイは5年で7.5倍に。これは第2回で書いたお客さんの電話がきっかけになったことは間違いありません。
そして現在も「ラペルピン」「クロスタイ」「アスコットタイ」などでECサイトが上位に。
ECではお客さんも買いづらい重衣料は「タキシード 大阪」のように地名をつけて実店舗へ誘導しています。
こうして自社のコンテンツマーケティングとO2Oが確立できつつあった頃、タキシードや燕尾服などニッチな商材でありながら、ECも店舗も伸ばすことができ、お店と事務所を大阪の一大商圏である梅田に移転したことをきっかけに小さな勉強会を始めます。
小さなテーブル1台、参加者は数人。
ブログ、Twitter、続いてやってきたfacebookを学ぶ小さな勉強会を立ち上げました。数人が1人また1人と口コミや紹介で広がり、現在のECや中小企業の勉強会「まちカレッジ」に発展、数十社が参加する会になりました。今なお、大切な仲間との出会いが加速していると感じています。本当に幸せなことですね。
新しくやってきたFacebookをビジネスで使えないかな?
そんな軽い気持ちで遣い始めたFacebookが、30年来の僕の夢を叶えることになるとは、この時は知る由もありませんでした。
第4回も最後までお読み頂いて本当にありがとうございます。
前回もご感想を頂いて本当に嬉しかったです。
ぜひぜひ皆さんの温かいお言葉をよろしくお願いします。
http://www.machicollege.jp/contact
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次回のお話は、ブログ、Twitterの次に取り入れたSNSが僕の夢を叶えてくれたお話です。
口コミ、ファンづくり、CRMとしてのFacebookは一気に世界を広げてくれました。
子供の頃から大好きだったヒーローと僕をつないでくれたのはFacebook、SNSが夢を叶えてくれた「僕のヒーローに、30年かけて届けた手紙」のお話へ。
Facebookがきっかけで対面することがきでた僕のヒーローはノービアノービオのインフルエンサーにもなって下さるのでした。
次回は4月16日(月)ごろを予定しております。
次回も宜しくお願いします!