中国のモバイルEC市場の今~群雄割拠しているアプリストア

林 宜多

世界最大のEC市場、中国。各国企業が中国市場を狙っているなか、日本のEC企業も中国へ進出したり、越境ECに対応したりして中国向けのビジネスが活発になっています。本コラムでは、世界最大手のモバイルマーケティングプラットフォームを提供する米AppLovin(読み方:アップラビン)の日本代表を務める林 宣多が、2018年に中国で1兆ドル市場になると言われているモバイル上の電子商取引「Mコマース(Mobileコマースの略)」の現状について紹介します。

中国は現在、米国を抜いて世界最大のアプリ市場です。また、ユーザーがMコマースにかける平均金額も過去最高水準となっています。月間ダウンロード件数は App Store が競合最大手(本ブログ執筆時点ではテンセントが運営するMyapp)の倍近くを記録しています。ここからApp Storeが中国のMコマースのアプリストア市場で独り勝ちしているように見えますが、実はそうではないのです。

というのも全体で見ると、中国のモバイルOSのシェアはAndroidが圧倒的に高く、iOSの約6倍とも言われています。諸外国と大きく異なる点は、中国内ではアプリストアとしてGoogle Playは使えません。そのため中国のアプリストアは複数存在しており、現在、Qihoo360、Xiaomi Market、Baidu、HuaweiといったAndroidのアプリストアが代表的なものです。

Android上でこれら4つのアプリストアを利用する中国のユーザーは、それぞれ10~15%程度です。一方、Android上でこれら以外のアプリストアを利用しているユーザーは合計で約57%になります。もちろんiOS用のアプリを利用するユーザーも存在します。つまり、米国や日本などと大きく異なり、中国ではアプリストアだけ見てもかなり競争が激しい環境なのです。

競争が激しい一方で、中国のアプリ内課金は好調で、2019年までに中国のモバイルユーザーがMコマースに使う金額は1.5 兆ドルに達し、2014年と比較して約8倍になると言われています。

出典: China’s Mobile Consumers And The Rise of Chinese M-Commerce

中国でMコマースが飛躍的に成長しているのはなぜでしょうか?スマートフォンの急速な普及、消費者の信頼感の高さ、モバイル決済への対応などがその大きな理由です。

絡み合う様々なダイナミクスが巨大市場を生む

人口が14億人に迫る中国で、スマホの普及率は60%近くになり、ECアプリのユーザーは7.13億人を超えています。この巨大市場は、様々な市場のダイナミクスが合わさって生まれました。なかでも特筆すべきは、成熟したモバイル決済のエコシステムでしょう。

AlipayやWeChat Payはモバイル決済市場で90%のシェアを占めています。一方で、マスターカードなどの従来の決済システムもモバイル決済に参入しています。今やモバイル決済はビジネスに不可欠な存在になっています。さらに決済会社は、収集した決済データを活用して、顧客企業のマーケティングを向上させ、売上を伸ばすための機会も提供しています。

また、モバイル決済はセキュリティ面の信頼度の高さや利便性の良さも消費者から支持されています。中国のマーケティング会社のSampi.coでは次のようなコメントがありました。

「中国ではMコマースによって、あらゆる場所のあらゆる人が、平等に機会を得られています。たとえ地元に実店舗がないブランドでも、地方等に住む人々は大都市に住む人々と同じようにそのブランドの商品を手に入れることができます。」

中国のユーザーは日常的にスマホで商品検索や価格チェックを行うなど、スマホに費やす時間は世界一となっております。こうした行動は実店舗内でも見られます。この流れは、EC大手などがアプリの機能を拡充することでますます広がるはずです。たとえばECサイトのTaobaoは、写真をタップするだけで注文できる機能を追加したり、プッシュ通知によるリマーケティング機能を強化したりしています。

Taobao の画像認識機能を使えば、写真を撮って簡単に商品を探せる

このように、Mコマース事業者にとって中国は大きな売上が見込めると共に、決済手段などモバイルユーザーの利便性向上につながる環境が整備されたとても魅力的な市場なのです。その一方で政府による規制の変更や追加、アプリストアの再編など、常に注視が必要な市場であることも忘れてはいけません。

一段の飛躍に向けて

巨大かつ成長がなお続き、細分化された市場のエコシステムを持つーーこれが中国市場です。しかし、変化はいずれ訪れるはずです。政府による規制強化の予兆はすでにありますし、サイバーセキュリティ問題は中国でも大きな懸念になっています。こうした流れが成長トレンドにどのような影響を与えるかは注目です。

ショッピングやポイント交換、さらに高度な銀行取引までが利用可能な中国のモバイル市場では、ユーザーの行動データを把握することが、ブランドとパブリッシャーが長期的な価値を築くことに結びつきます。

こうした透明性の高いユーザー行動データを活用し、商品の改善やユーザー体験の向上、決済プロセスのパーソナライズなどにつなげることができれば、中国のアプリ経済はさらに飛躍するでしょう。

中国進出を検討している日本のECアプリが中国進出で成功をつかむためには、こうした中国固有の特色把握することが重要なのです。


著者

林 宜多 (Norikazu Hayashi)

AppLovin日本法人代表取締役。GREE、Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後、米国に拠点を移し、設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。

【AppLovinについて】
AppLovin (アップラビン) は、あらゆる規模のデベロッパーを毎月数十億のユーザーに繋げる包括的なプラットフォームを提供しています。2012年の創業以来、個人デベロッパーから大手ゲーム会社までのマネタイズ、パブリッシング、ビジネスの成長をワンストップでサポートしています。AppLovin のプラットフォームを通して、デベロッパーは良質なユーザーを獲得することができます。さらに、AppLovinの メディア事業部「Lion Studios (ライオン・スタジオ)」は、デベロッパーのアプリのパブリッシングとプロモーションをサポートしています。本社はカリフォルニア州パロアルトにあり、サンフランシスコ、ニューヨーク、ダブリン、北京、東京、ソウル、ベルリンにもオフィスを構えています。詳しくは https://www.applovin.com/jp/ をご覧ください。