ブラジルのモバイル企業「Movile」は中南米のテンセントになれるか?

林 宜多

今回のコラムは、中南米のモバイル市場の状況を、世界最大手のモバイルマーケティングプラットフォームを提供する米AppLovin(アップラビン)の日本代表を務める林 宣多が紹介します。

中南米は日本の裏側というだけあって、日本ではあまり情報が入ってきません。そこで、このコラムではブラジルのモバイル企業で成長著しいMovile(モビール)を例にあげ、そのMovileを日本の皆さまにとってお馴染みの中国企業、テンセントと比較して紹介します。

ブラジルのモバイルエコシステムで大手企業のMovile(モビール)は、買収を通じて中南米でのグループ拡大を図っています。Movileが競合として意識しているのは同じ分野の企業ではありません。モバイル決済やMコマースなど、Movileが未開拓の分野の大手を競合と意識し、そうした分野に成長機会をうかがっています。

こうした動きは、中国のモバイルプラットフォームの大手企業テンセントに似ています。投資やM&Aを積極的に進めるテンセントの動きは、市場全体を網羅しようとするものです。Movileは、テンセントと同じようなことを中南米で目指しているのです。

それでは、Movileは中南米でテンセントのような成功を収め、メッセージサービス、決済、Mコマースといったエコシステムのあらゆる分野を席巻することができるでしょうか?本コラムでは、Movileの成長、買収、成長機会を分析したいと思います。

中南米を制覇

現在、中南米のモバイルネットワークの6.9億回線のうち約60%をスマホが占めています。Movileが拠点とするブラジルのサンパウロでは、人口約2億人で、スマートフォン普及率は100%近いです。

Movileは1998年の創業当初から続く資金調達(直近はNaspersによる1.24億ドルの投資)で、複数の小規模企業を買収し、中南米のモバイルエコシステムでのシェアを伸ばしてきました。配達サービスのRappido、フードデリバリーサービスのiFood(アイフード)などの買収を進めて猛スピードで拡大を図っています。

現在、Movileグループは未上場で、その企業価値は10億ドルを超えており、潤沢な現金も保有しています。最新の資金調達ラウンドのうち少なくとも5,300万ドルはRapiddo Marketplaceというプラットフォームの収益化に注がれる見込みです。IT系メディアのテッククランチは、「Movileの野心的な計画の1つに、PayPalに似たサービスZoopがある。Movileはこのサービスで電子決済をカバーし、Rapiddo Marketplaceをグループのほかの多くのアプリを集約する1つのプラットフォームできるかもしれない」と指摘しています。

バイ・アンド・ビルド(買収と構築)戦略で、Movileは市場へのリーチを積極的に拡大しつつ、ユーザー当たりのエンゲージメントと収益を着実に増やしています。

テンセントの足跡をたどる

アジアでは、テンセントがバイ・アンド・ビルド戦略を絶妙に進めています。なかでも最大の買収案件の1つがゲーム開発のスーパーセルの買収で、2016年に86億ドルで同社株式を取得しました。Riot GamesやMiniclipのほかにスーパーセルがゲーム事業の一角に加わったことで、グローバルなゲーム業界での戦略が強化されました。1998年に中国でスタートしたテンセントは2004年に上場し、時価総額は約4,300億ドルまでになっています。

Movileと異なるのは、テンセントが数々の有料サービスやアプリでも成功を収めていることです。2017年にはテンセントは有料サービスによる収益は約220億ドルでした。Movileが同じような成功を手にするには、ユーザーが必要として、かつデベロッパーや企業が収益化につなげられるような有料サービスやアプリを生み出す必要があります。

たとえば、テンセントがWeChatを成功させたような道を辿れば可能かもしれません。中国をはじめとするアジアの多くの国でスマホユーザーが利用しているWeChatは、成長と収益化への重要な基盤になっていて、Movileだけでなく世界のあらゆるテクノロジー企業にとって示唆に富むストリーです。

Movileが有料のツールやサービス、アプリを生み出し続け、それらが人々に受け入れられれば、さらに成長し、新たな資金調達や、もしかしたら上場に結び付けられるかもしれません。

大きな可能性

Movileは、ブラジルの決済プラットフォーム「Zoop」の決済システムでモバイル決済に進出しようとしており、その戦略はスマートと言えます。一方で、中南米のフィンテックはすでにかなり盛り上がっていて、Movileにとっては新たにビジネスを生み出すよりは買収の方が賢明かもしれません。

MovileはRappido、iFood、Zoopを軌道に乗せて積極的に成長戦略を進めていく構えのようですが、テンセントの収益や時価総額を同社が達成すると想像するのは難しいものがあります。中南米の人口は6.39億人ですが、中国は倍以上の13.8億人の人口を抱えています。つまり、中南米というのは中国およびアジアに比べて市場規模が小さく、 Movileの成長機会はテンセントの7分の1程度に限定されます。1.24億ドルというMovileの調達資金は成長に向けた足がかりには十分ですが、年間220億ドルの収益を備えて買収を進められるテンセントのM&A戦略には遠く及ばないのも事実です。

したがってMovileに描けるシナリオはおそらく、ゆっくりながらも着実な成長でしょう。そして資金調達を増やす、あるいはIPOや売却によるエグジットという道のりがあるかもしれません。ただいずれにしても、Movileが成長戦略を進めていけば、中南米のモバイルプラットフォームで中心的な存在になる可能性は秘めています。


著者

林 宜多 (Norikazu Hayashi)

AppLovin日本法人代表取締役。GREE、Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後、米国に拠点を移し、設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。

【AppLovinについて】
AppLovin (アップラビン) は、あらゆる規模のデベロッパーを毎月数十億のユーザーに繋げる包括的なプラットフォームを提供しています。2012年の創業以来、個人デベロッパーから大手ゲーム会社までのマネタイズ、パブリッシング、ビジネスの成長をワンストップでサポートしています。AppLovin のプラットフォームを通して、デベロッパーは良質なユーザーを獲得することができます。さらに、AppLovinの メディア事業部「Lion Studios (ライオン・スタジオ)」は、デベロッパーのアプリのパブリッシングとプロモーションをサポートしています。本社はカリフォルニア州パロアルトにあり、サンフランシスコ、ニューヨーク、ダブリン、北京、東京、ソウル、ベルリンにもオフィスを構えています。詳しくは https://www.applovin.com/jp/ をご覧ください。