つまらない専門書とおさらば 広告担当のための景表法ケーススタディ 第2回
今回からいよいよ本題です。
第2回はクロレラチラシ事件を扱います。
クロレラチラシ事件ってどんな事件?
皆さん、こんにちは。
インターカラーの田中です。
法律の一般論よりも具体的な事件の方が面白いですし役に立ちますよね。今回から判例・裁判例を見ていきます。よろしくお願いいたします。
最初に取り上げるのは有名なクロレラチラシ事件です。サン・クロレラAという商品の折込みチラシをめぐり、最高裁まで争われた案件です。
問題のチラシは毎日新聞朝刊に折り込まれました。チラシ表面の3分の2、裏面のほぼ全面が体験談で占められていました。内容は以下の6つです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(1)慢性病に悩む方々には「クロレラ療法」が勧められる
(2)クロレラは全てが同じものではなく、より質のいいクロレラを選ぶ必要がある。
(3)クロレラには、「病気と闘う免疫力を整える」「細胞の働きを活発にする」「排毒・解毒作用」「高血圧・動脈硬化の予防」「心臓・腎臓の働きを活発にする」などの効用がある。
(4)ウコギには、「神経衰弱・自律神経失調症改善作用」「ホルモンバランス調整」「高ストレス作用・疲労回復作用」「鎮静作用による緊張緩和・睡眠安定」「抗アレルギー作用」などの効用がある。
(5)クロレラとウコギには「相乗効果」がある。
(6)体験談
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
体験談がまたすごい
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
① クロレラ粒とウコギエキスを継続的に服用したところ腰部脊柱管狭窄症の症状が改善した。
② クロレラ粒を服用したところ肺気腫の症状が改善した。
③ クロレラ粒とウコギエキスを継続的に服用したところ腰痛の症状が改善した。
④ クロレラ粒とウコギエキスを継続的に服用したところ自律神経失調症・高血圧の症状が改善した。
⑤ クロレラ粒とウコギエキスを継続的に服用したところ糖尿病の症状が改善した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
他にもホルモン療法と並行すればがんに効果的みたいな体験談もあったようです。
なかなか大胆不敵なチラシです。これに消費者団体がブチ切れて裁判となりました。原告の主張と判決は以下のとおりです。関係者の心の声を若干補ってお伝えします。
原告の主張
①景品表示法上、チラシの記載が不当表示なので差し止めよ
②消費者契約法上違法な勧誘に当たるので差し止めよ
「差し止めよ」とは、普通の言葉で言えば「禁止しろ」ということですね。前号で書いた憲法21条への挑戦です。
第1審 京都地裁 平成27年1月21日判決:
①景品表示法 チラシの記載が不当表示にあたる。差し止めるぜ。
②消費者契約法 言及せず。差し止めるって言ってるんだからいいだろ。
被告が控訴
「反省して白旗あげてるのに差し止めとは殺生な」
第2審 大阪高裁 平成28年2月25日判決:
①景品表示法 販売業者が第1審判決後に当該折り込みチラシの配布を中止しており、今後も使用されるおそれがないので差し止める必要性はない(内容が正当とは言っていない)
②消費者契約法 不特定多数向けのチラシであって同法12条が規定する勧誘には当たらない。よって差し止める必要はない。
原告が上告
「ざけんじゃねえよ」
第3審 最高裁 平成29年1月24日第三小法廷判決:
・被告側はすでにチラシ配布を中止した、との理由で上告は棄却。
ただし
②消費者契約法 しかし大阪高裁さん、これ勧誘じゃないって言い切るのまずいんじゃね?
ということでこのチラシは
①内容的に景品表示法違反
②配布方法がチラシであっても消費者契約法違反あるで
ということに相成りました。
問題となったのはこの表現
具体的にどこが違反なのよという話を皆さんお聞きになりたいですよね。
難しい法律の話は専門家にお任せするとして、論理の流れはこうなります。
1.クロレラチラシの広告を読むと、通常の人なら「クロレラって医薬品(みたいな効果があるもの)なんだ」と思うのは明らか。
2.でもクロレラは医薬品ではありません。厚生労働大臣が医薬品と認めるには膨大な時間と資金を投入して臨床試験を実施し、効果を証明する必要がある。クロレラはそれをしてません。
3.だから医薬品コスプレするのは景品表示法上違法。
医薬品とそれ以外との間には深~い溝があります。白黒ははっきりついています。広告を出す方がこれを誤魔化したい気持ちは分かります。でもここには鉄壁の守りが敷かれています。
実は、ある商品について成分、形状、効能効果、販売の方法、その際の宣伝などを総合的に考えて、通常人が「これは医薬品だ」と思うのであれば、たとえそれが薬理作用を持たなかったとしても医薬品と解されるという判例があります。水を薬だと言って売ったら違法になるということです。
ちなみに、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の広告規制に違反すると2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金という重い処罰を受けます。
「病気の治療や予防に効果的です!」とか「身体機能を高めます!」という広告をしてしまうと懲役刑までありうるのですから、特に注意しないといけません。健康食品だから大丈夫とか、その手の言い訳はまず効きません。水でもダメなんですから。
ここまで理解したうえで、本稿の最初に戻ってクロレラチラシを見てみましょう。
(1)慢性病に悩む方々には「クロレラ療法」が勧められる→アウト
(3)「高血圧・動脈硬化の予防」→アウト
(4)「神経衰弱・自律神経失調症改善作用」→アウト
(6)→全部アウト。体験談も効果効能や安全性に及ぶと消費者が誤解するためNGとなっています
次に身体機能の増強や増進を目的とする表現もしてはいけません。
(3)「病気と闘う免疫力を整える」「細胞の働きを活発にする」「排毒・解毒作用」「心臓・腎臓の働きを活発にする」→アウト
(4)「ホルモンバランス調整」「高ストレス作用・疲労回復作用」「鎮静作用による緊張緩和・睡眠安定」「抗アレルギー作用」→アウト
最後に相乗効果もダメなので(5)もNGです。
NGな表現を削っていったら(2)だけになってしまいました。クロレラチラシは問題のある表示の典型例と言えます。あなたが最初にチラシの内容を読んだ時と今再び読んだ時とで「これはヤバい」の度合いが変わっていれば、この原稿は成功したことになります。筆者としてはこれ以上の喜びはありません。
いかがでしたか。
ここで問題になっているのは、国の審査を受けていないのに審査済みだと受け取ることの危険性です。実際にクロレラに医薬品並みの効果があるかは関係ありません。しかも国から審査を受けているかは、調べればすぐにわかることなので反証がほぼ不可能です。
医薬品だと思われるような広告を出したが最後、反論もできず違法になることもあります。病気の治療や予防を目的とする表現、身体機能の増強や増進を目的とする表現はしないよう、特に注意しなければなりませんね。
次回予告
さて、次回は競業他社と同じような広告をしたのになぜか自社だけ違法と言われた事件を取り上げます。
今回も事案を先出しするので、どこがまずいのか是非考えてみてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
A社は店頭配布用パンフレットと毎日新聞に次のような空気清浄機(商品Aとします)の広告を出しました。
「商品Aは電子の力で花粉を強力に捕集するだけでなく、ダニの死骸・カビの胞子・ウイルスなどにも有効な頼もしい味方です。」
「有害微粒子を集塵」「フィルター式では集塵が難しい微細なウイルスやバクテリア、カビの胞子、ダニの死骸の破片までもホコリと一緒に捕集します。」
「適用範囲/最大14畳まで」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なお、他の会社は
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「フィルター式では取れない細菌やウイルスなども逃しません」
「花粉・タバコはもちろん、ダニやウイルスもしっかりキャッチ」
「お部屋の空気中を浮遊するウイルスや雑菌を素早く取り囲みます」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
といった広告を出していました。
どちらも似たようなことを言っていますが、なぜA商品だけ公正取引委員会に目をつけられたのでしょう。
ここでもヒントになるのは消費者目線です。
では次回またお会いしましょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。