つまらない専門書とおさらば 広告担当のための景表法ケーススタディ 最終回

田中 太朗

皆さん、こんにちは。
インターカラーの田中です。

このコラムも今回で最終回です。
今回は判例ではなく消費者庁の措置命令を見ていきます。

打消し表示のNG例

見出しや仕掛けで大々的に盛っても、本文に「個人の感想です」みたいな逃げを打っておけば大丈夫ではないか? 広告を作る多くの人に聞こえる悪魔のささやきではないでしょうか。

今回は消費者庁がこれにNo(措置命令)を突きつけた例を2つ見ていきます。どこがNGだったのか、皆さんもいっしょに考えてみてください。

中古自動車販売業者に対する措置命令(平成29年12月8日)

ある事業者が中古自動車販売のチラシに以下の記載をしました。
・個々の自動車の写真隣に「保証付き」「10年保証対象」
・チラシ下部に「長期保証最長10年」「重要機構部分を対象に最長10年の長期保証付き」
・チラシの裏面最下部に「価格は、車両本体価格のみとなります。価格には、保証料…は含まれておりません。」「保証は別途有料となります。」

消費者庁はこの広告をしてはならないという措置命令を出しています。
その理由は自動車の写真に「保証付き」と書かれていたら、一般消費者は保証が無償でついてくると認識するからです。

一方中古車販売業者は、「価格は、車両本体価格のみとなります。」と打消し表示をしているのだから、写真に書いてある値段に保証料は含まれていないのは明らかである。何も問題ないと主張するでしょう。

前回までのコラムで見たように、広告に何を表示したかは消費者の認識で決まります。
中古販売業者の主張することも事実ではありますが、自動車の写真が載っている部分と裏面最下部の表示内容が矛盾していることは疑いようがありません。
このように打消し表示と打ち消す対象が論理矛盾を起こしていたら、打消し表示は何の意味ももちません。
したがって、保証料が別途必要なのに「保証付き」と書くこと自体が景表法に違反することになります。

健康食品の通販事業者に対する措置命令(平成30年7月25日)

もう一つ措置命令を見ましょう。
体験談について指摘があった事案です。

健康食品の通販事業者が自社サイトと同梱チラシに肥満効果が得られるかのような表示をしたことが問題になった事案です。

・「女性らしい美ボディに!健康的にふっくらしたい」「3ヶ月で5.1kg増えた『7つの秘訣』プレゼント!」
・「このサプリを飲むことで体重が増えた」旨の体験談を多数のせ、「※個人の感想であり、効果・効能を保証するものではありません。」「使用感には個人差があります。」

消費者庁は今後合理的な根拠なくこのような表示をしてはならないと措置命令を出しました。

措置命令が出された原因は、肥満効果があることの根拠となる資料の提出を求めたところ、事業者から提出された資料はこれを証明できなかったからです。

ここでは、なお書きで次のようなことにも触れているのが興味深いです。
・「個人の感想です」などの記載は、一般消費者が表示から受ける本件商品の効果に関する認識を打ち消すものではない。

つまり、体験談が事実であり、かつ「個人の感想です」と断っていたとしても、その効果が商品の性能試験によって実証された内容と適切に対応していなければ景表法に違反するおそれがあるということです。
体験談も商品の説明文の一部ですから、だいたいの人に効果がある体験談を載せるべきというのが消費者庁の方針です。

消費者庁の方針

いまだに「個人の感想です」という一文を見ますが、これを書いても免罪符にはならないということが最近では明確になっています。
例えば消費者庁が平成29年7月14日に公表した「打消し表示に関する実態調査報告書」の88ページにはこうあります。
「広告物は一般に商品の効果、性能等を訴求することを目的として用いられており、広告物で商品の効果、性能等を標ぼうしているにもかかわらず、「効果、効能を表すものではありません」等と、あたかも体験談が効果、性能等を示すものではないかのように記載する表示は、 商品の効果、性能等を標ぼうしていることと矛盾しており、意味をなしていないと考えられる。」
商品の効果や性能は、体験談も含めた広告全体から抱くイメージによって決まります。
体験談がたとえ本物であったとしても、使用者の特殊な体質や、何らかの偶然で効果が生じた場合もあります。
そういった体験談は商品の効果と対応していないので、記載すると景表法に違反するおそれがあります。

また、中古車販売の広告であったように、打消し表示はただ書けばいいのではありません。
広告が何を伝えているかは広告全体の記載から総合的に判断されます。
書いた内容が広告のほかの記載と矛盾しないようにしましょう。

本コラムのまとめ

5回にわたって続いたコラムも以上でおしまいです。
広告を作るのは本当に難しいですが、大事なのは商品に自信を持ち長所を端的に表現することです。
ポジティブで見るものをワクワクさせるような広告が一つでも多く世の中に生まれることを望みながら、コラムの終わりとさせていただきます。

長い間、私のコラムを読んでいただき誠にありがとうございました。


著者

田中 太朗

1990年5月3日生まれ、静岡県出身

大勢の人々が秩序だって組織を構成する仕組みに興味を持ち、法学部へ進学。
法律の勉強を続けるうちに法律の世界に興味を持ち、法曹を志す
10年間勉強したが三十路手前になって、自立し社会貢献するために就職を決意、
株式会社インターカラーに入社する
まだ入社して間もないが、どうすれば広告でお客様の力になれるのかを毎日考えながら働いている。
今のところどんどん厳しくなる広告表記に注目している。法律の勉強を続けてきた経験を応用し、薬機法・景観法を勉強して法律面から広告のアドバイスができるようになることが現時点の課題である。

薬事や表記の良い情報を発信していきたいので、どうぞよろしくお願いいたします。

https://www.intercolor.co.jp/inquiry/