つまらない専門書とおさらば 広告担当のための景表法ケーススタディ 第4回
景表法の判例を見ていくコラム第4回です。
今回で判例を見ていくのは最後になります。
皆さん、こんにちは。
インターカラーの田中でございます。
前回は空気清浄機の裁判例を見ました。他社と似たような広告であっても実際の性能以上のことを書いてしまうと行政が動くことがあります。
あの裁判例で排除命令を受けた原告は大手有名企業ではありません。対して似たような広告を出していたのは著名なメーカーです。中小企業サイドからはちょっと切ないところはあります。
さて今回は著名な家電量販店同士が争った事件です。
企業対企業の損害賠償請求事件で、これまでとはまた違った裁判例となっています。
事案の概要
事案はとてもシンプルです。「当店は原告の店よりも安くします」という広告を出すことが営業妨害に当たるかが争われました。
電化製品なんてどの店に行っても置いてある商品はだいたい同じです。品揃えでほとんど差がつけられないのですから、家電販売では値段で集客に差をつけるしかありません。
そのような業界で「当店は原告の店よりも安くします」なんて広告を出すのは不当ではないか、落ちた利益を賠償しろと原告が請求したのがこの事件です。
第一審の前橋地裁は、平成16年5月7日、以下のような一文が追記されていたことを理由に違法ではないと判断しました。
・万一調査漏れがありましたらお知らせください。お安くします
・処分品、当社原価割れにあたる商品は原価までの販売とさせていただきます
しかし原告の従業員が被告の店に行って本当に安くしてくれるか試したところ、値引きをしてくれなかったそうです。当然原告は納得がいきません。東京高裁に控訴しました。
東京高裁は平成16年10月19日、原告敗訴の判決を言い渡しました。
「この広告を見て『必ず原告よりも安くしてくれる』という確信までは生じないから違法ではない」という理由です。
判断の理由
前回まで見た通り、医薬品の表示では疑わしい時にアウトの判断が出ることがあります。今回のケースのような値段に関する表示は、相当に疑わしくともセーフになることがあるということです。
東京高裁の判断の理由は、広告を見た人のイメージから論じられています。
家電量販店では頻繁に表示価格が変わります。他社の価格を毎日調べて正確に把握し続けるのは不可能です。これは私たちも経験上わかることですね。
こう考えると、被告の広告は、一般消費者に対し、安さで有名な原告よりもさらに安く売るという被告の姿勢を示すものにとどまることになります。
原価までの販売という一文もありますし、絶対に安くなるとまでは思わないでしょう。
読者はこの広告を見て、被告の従業員に値引き交渉すれば安い値段で買えるかもと期待するだけです。そうであれば、被告の値段が原告の値段とほぼ同等かそれ以下であれば、広告内容に問題なしというわけです。
必ず安くなると思われる表現
ではたとえば「他社のチラシに掲載された商品をうちではその値段の10%以上安くします」という表現をした場合はどうでしょうか。
この書き方は対象となる商品、値引き率が具体的に書かれています。裁判例の広告と比べると、本当に安くしてくれると期待しますよね。
ここまで表現してしまうと、実際に10%以上値引きしないと違法になってしまう可能性が高いと私は見ます。
同じ理由で「全商品大幅値下げ」と書いてしまったら、通常値引きしない商品も含めて全商品を値引きをしないと違法です。
だからこそ、私たちを取り巻く広告は「一部対象外の商品がございます」など、うまく逃げを打っていることが多いと思います。
まとめと次回予告
今回も一般消費者が広告を見て抱く印象がポイントになりました。
クロレラチラシ、空気清浄機、家電広告と3つの事件を見てきましたが、誤解を生む1つのポイントが具体性です。
対象商品、値段、性能や効果について具体的に書くのはリスクが伴います。しかし、具体的な情報を載せないと内容に真実味が生まれませんしそこが難しいところです。
表示した通りのことができるか、表示した通りのことが証明できるか、最低でもそこだけはよく考えて広告を作りましょう。
「細かい字で逃げを打っておけば何を書いても法的に大丈夫」とばかり、誇大広告を乱発していいのでしょうか。この点について、最後にお話します。
確かに、もしかしたら行政や裁判所は、その作戦で騙せるかもしれません。しかし、お役人よりももっと怖い相手がいます。消費者です。従業員もです。この人達の信頼を失うと、取り返しがつきません。