EC個人事業主が特定商取引法に基づく表記に自宅住所を使用するリスク

出水洋樹

新型コロナウイルスの影響で多くの人が困難な状況にいる中、対面取引が必要ないECに注目が集まっています。内閣府が発表した消費者意識指数が全体として悪化傾向を示していた3月、4月も、業種別消費指数でECはプラス成長をみせていました。

販売サイドから見ても、アフターコロナの活路をECに見出す企業に加え、ハンドメイド商品など、個人事業主によるECビジネス参入の動きが加速しています。コロナが要因となり、インターネットで”売る・買う”という行為が、多くのユーザーに短時間で定着したことは間違いないのではないでしょうか。また、スタートアップサービスが用意されたECプラットフォームを利用することも、より参入のハードルを下げた要因と言えます。

しかし、ECへの新規参入障壁が低くなる中で、新たに注意が必要な事も増えてきます。特に、個人事業主の方々は、個人事業であるがゆえのハードルが存在するのです。

個人事業主ならではのリスクとは

個人事業主ならではのリスクとは

ECを始めるにあたり、運営者が個人事業主の場合も「特定商取引法」や「景品表示法」等の法律を遵守する必要があります。その1つとして、販売にあたり事業者の所在地、連絡先の開示が必要なのですが、個人運営となるとオフィスを構えるほどの金銭的余裕はなく、自宅住所以外に掲載できる所在地を持たない場合がほとんどです。

しかし、これはプライベートな情報をネット世界に開示しているのとなんら変わりはありません。その結果、何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性も0ではなく、新規参入の際、1つの壁になっているのです。

そんな時に知っておいてほしいのが、「レンタルアドレス」というサービスです。

レンタルアドレスは、そのECビジネスに必要な開示所在地として自宅住所に代わって使える住所のことです。実際の住所とは異なるため、虚偽になってしまうのでは?と思われる方もご安心ください。

特定商取引法第11条に(通信販売についての広告)https://www.no-trouble.caa.go.jp/pdf/20180625ac04.pdfと規定があります。「住所」については、具体的に解説があり、『法人にあっては、現に活動している住所(通常は登記簿上の住所と同じと思われる)を、個人事業者にあっては、現に活動している住所をそれぞれ正確に記述する必要がある。いわゆるレンタルオフィスやバーチャルオフィスであっても、現に活動している住所といえる限り、法の要請を満たすと考えられる。』と明示されています。


スペース活用事業を運営する株式会社Lucciが提供するバーチャルオフィスサービスNAWABARIでは、2014年3月からレンタルアドレスのサービスを提供しています。そのニーズは近年顕著に増加しており、今年に入ってからは新規申込み件数が前年同月比で3月は4.5倍、4月は6.8倍、5月は11.6倍と著しく高くなっています。

ここで着目したいのは増加傾向の背景です。実際の利用者の声をまとめると、EC業界全体の参入増加だけではなく、個人情報に対する意識の高まりと、インターネットを介した情報発信の持つ怖さによる被害実態を垣間見ることができました。

・過去にストーカー被害にあったこともあり、住所開示が怖くて開業をためらっていたがこちらのサービスで安心してビジネスを始められた。(会社員Aさん)

・以前自宅住所を利用しての販売をしていたところ、詐欺まがいのSEO対策の勧誘電話が多数あり、自宅住所の開示に不安があった。(自営業Bさん)

・家族に小さな子供もいるので自宅住所の開示には抵抗がある。(自営業Cさん)

・自宅兼職場でスクールを開催していたが、引越し検討をしていた際ネット上に自宅住所が出るため、不動産屋にこちらの物件は商売できませんよとしつこく念を押された。自宅ではしない旨を伝えても、物件契約の審査に落ちることが続いた。(自営業Dさん)

一度ネット上で開示した情報を取り消すことは難しく、それゆえデジタルタトゥーとも言われます。現在、自宅住所を使ってECビジネスをされている人も、今後行う人も “保険”として、レンタルアドレスの存在は知っておくべきです。

NAWABARIでは、ECプラットフォーム「BASE」にもサービス提供しています。レンタルアドレスに加え、電話番号サービス、郵便物受取・転送サービス等も行なっており、この住所、電話番号が名刺、パンフレット、商品の発送ラベル、ホームページ、特定商取引に基づく表記等に使用できます。

また、これまで主に個人事業主が中心であるWebショップオーナー向けにサービス展開していましたが、今後は新規サービスも展開予定です。具体的には、企業が本体事業とは別にプロジェクトベースで運営するEC事業の支援や、芸能人が本業の契約事務所とは別にオリジナルプロダクトのプロデュース等ビジネス展開をする際のECサポートサービスを提供していきます。

以前よりも気軽に始められる環境が整い、明日からでも始められる自分のお店。しかしそこには思いもかけない落とし穴があり、日常生活を脅かす脅威が潜んでいる事を理解した上で準備を整えてほしいと思います。自己責任だけでは片づけられない事態も起こります。自分自身と家族を守りながらチャレンジして欲しいのです。NAWABARIの運営担当は業界の成長期を見てきた立場ゆえに、業界の健全な活性と成長を願い警鐘を鳴らしています。


著者

出水洋樹

大学卒業後、自動車メーカーにて勤務
その後、大学時代の友人とダイニングバーにて起業
別業態で、ハンドメイド作家の委託販売を請け負うレンタルボックスNAWABARIを運営したところ、ネット販売において自宅住所を公開したくないという需要があることを知る
消費者庁へ法令事前確認手続き(ノーアクションレター制度)を利用し、サービス設計の確認を行い、バーチャルオフィスNAWABARIのサービスを開始する
以降、各種ビジネスの運営上必要となるツールやサービスを複数運営している