ECの役割 ー パーソナライズドな商品目利きの実現
山崎徳之のコラムはこちら
コラム#2:パーソナライズな目利きを実現するための各種のアプローチ
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/6386/
コラム#3:需要予測 - 消費者に情報提供の協力を促す2つのパターン
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/6433/
変化するブランドとリテールの境界線
ECが普及拡大するにつれ、日常での消費者との接触頻度もさらに増えていくものと思われます。オムニチャネルという言葉を引き合いに出すまでもなく、マーチャント(小売事業者)にとってはECは消費者にアクセスする一手段として、今後はより一層取り組みが重要になってくることでしょう。
店舗はECのアトリビュートに、ECは店舗のアトリビュートになるでしょうし、そもそもECすなわちEコマースという表現もなかなか境界線が微妙になってきます。現在のところは一応、「購入をネットで行う」のがECだと思います。もちろんマーチャントにとっては購入こそがコンバージョンであり、いかに商品を他でなく自分のショップで購入してもらうかが重要であって、商品認知にだけ貢献して他所でコンバージョンするというのは最悪です。
またECの場合には、ブランド自体が製造小売に乗り出しやすいということもあって、リテールにとってブランドが敵になったり味方になったり、なかなかこれまでのようにはいかない面もあります。EC登場前は、ブランドによる商品認知→リテールによる購入という図式がほとんどでしたが、今後はブランドによる商品認知→そのまま購入という図式もある程度は増えていくことは間違いありません。
ただ、リテールにはブランドをまたいだ中立性という、根本的に消費者と同じスタンスに立てるという特徴、強みがあります。元々小売業の必要性というのは、消費者視点での商品の目利きと、消費者との地域的緊密さによる消費者サポートが大きなポイントです。ところがECというかネットの最大の特徴は「距離を越える」ことですから、地域的緊密さというのは関係ありません。
まあ本当は関係ないことはなく、そのためにオムニチャネルというキーワードが脚光を浴びる面もありますがそのあたりはまた別の機会に取り上げたいと思います。このため今後のマーチャントが目指すべきは、リテールとしていかに消費者サイドに立つことが出来るか、そしてプロならではの商品目利きを発揮することができるか、そして「それをいかに消費者に届けることができるか」が重要になってきます。
店舗の場合には「近いからその店に行く」という、もう一つのリテールの必要性であった地域的な緊密さが、消費者だけでなく店舗にとっても大きな導線でした。ところがECでは距離という差別化要因がないため、別の要因で他所と差別化する必要があります。
ECにおけるリテールの役割とは
リテールにとっての差別化要因を考えてみましょう。まずは価格です。消費者にとって一番重要なポイントでの一つあることは間違いありません。次に重要なのはサポートです。配送、キャンセルポリシー、返品や交換に対する対応などさまざまです。ただ、この2つはどちらも、マーチャント間の差別化要因という以前に、ブランドとリテールの間での差別化要因ではありません。そうなるとやはり、重要になってくるのは「商品目利き」です。
消費者は、自分にとって一番良い物を、安く、早く買いたいと思っています。「安い」よりも「自分が求めるもの」であるかのほうがより重要です。こここそが、リテールならではの活躍のポイントであり、そしてマーチャント同士が切磋琢磨すべきポイントだと思います。そしてもう一つ重要な点が、「商品目利きは消費者ごとに異なる」ということです。Aさんにとって良い商品がBさんにとって良い商品とは限らないのです。つまり「商品目利きはパーソナライズされなければならない」のです。
パーソナライズされた良い商品目利きを実現してこそ、消費者にとって「それをそのお店で購入する」という強い動機につながります。では、どうしたらパーソナライズされた良い商品目利きをすることが出来るでしょうか。それには「消費者を理解すること」「商品を理解すること」「それらの良い組み合わせを見つけること」が必要です。
この中でECにとって一番難しいのが「消費者を理解すること」です。ECにとってだけではなく、小売業全体に言えることですが、特に消費者との対面というインターフェースをもたないECにとっては、より難易度が高いといえます。
次回、この「消費者を理解すること」と、それによって「パーソナライズされた良い商品目利きを実現する方法」について解説したいと思います。