顧客満足とマーケティング ~カメラのキタムラ EC成長の道のり~

逸見 光次郎

逸見光次郎の連載コラム「カメラのキタムラ EC成長の道のりと今後の展望」
第7回:「キタムラeモール計画」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7777/

第8回:「大事にしている2つのこと」
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7847/

商売の基本は“顧客の立場に立つ事”

eコマースでも、通信販売でも、店舗小売でも、いや本当はB2Bのビジネスでも、売り手と買い手がともに満足すること。それが商売の基本だと思っています。

セブンの時に「顧客のために・・・」と言って鈴木(康弘)さんにすごく怒られた事があります。「“顧客のために”ってお前は一体何様のつもりだ!?“顧客の立場に立って”だろう!?」実は当時はその違いがよく理解出来ていませんでした。「なんで怒るんだろう?同じ意味じゃないか」って。最近になってようやくわかるようになったのです。

「顧客のために」って“何かしてやろう”という感じで、“ウチのサービス、商品はいいものなのだから、売ってやろう”みたいな感じになってしまいますよね。でも「顧客の立場に立って」だと、“同じ消費者目線で商品・サービスを見て”“買って頂けるレベルのものかどうか“となるのです。

この事がわかってから、顧客満足の考え方がよくわかるようになりました。「自分が消費者・買い手の立場になってみて、その商品・サービスを使いたいかどうか、考えてみればいい」だけなんだと。店舗のロケーションもたたずまいも、駐車場の形・位置・広さも、店内の導線の取り方も、品揃えも陳列手法も接客も、あらゆること全て。

誰でも、いつでも消費者の立場に立って考える事が出来るのに、会社に居る時はすっかり事業やビジネスサイドの考え方になってしまいます。ちょっと視点を休日モード(笑)に切り替えて、自分が買い物をする側に立って冷静に見るだけで、顧客満足とは何か、どうしたら売れるのか、わかると思います。だから会社では「とにかく残業は減らして、終業後は街で買い物をして欲しい」「残業を減らすのは健康の問題でも重要だけど、それだけではない。ECの人間はついつい画面とデータで完結したがる。実際の各社の店舗を見て、エンド台には何があって、いまの流行は何で、どんな接客をしていて、どういう顧客層が関心を持って来店しているのか?そういうのを肌で感じて欲しい」と言っています。

指標を決め、お客さまを見て、継続的に改善し続ける 

顧客満足の考え方が理解できても、難しいのは指標化する事。数値にしなければ、良くなっているのか悪くなっているのか変化がわからないし、顧客満足に貢献した!として評価する事も出来ません。ここからはいろんな考え方があり、キタムラでもまだ定まっていませんが、私は全て“売上・利益”だと思っています。

私の大好きな(笑)TOC(制約条件の理論、ゴールドラット博士)では、工場の生産でも卸への出荷でも店舗への出荷でもなく、店舗でお客さまが商品を買ってお金を払った瞬間が“本当の売上・利益”であるとしています。それ以外はSCM(サプライチェーンマネジメント)の中での“見かけの売上・利益”に過ぎないからです。そしてお客さまがお金を払って買ってくださった事実が、お客さま自身が顧客満足について表現してくださったものと思っています。

だからこそモノやサービスが売れた売上・利益金額の集計(商品勘定)ではなく、どれだけのお客さまが買ってくださったか(顧客勘定)という考え方だと思っています。

例えば年間100億円の売上目標を達成するのに、
“カメラ2万台40億円”
“プリント1千万枚30億円”
“スマホ2万台20億円”
“家電1万台10億円” 合計100億円ではなく、

“50万円買い物をして下さるお客さま4千人”
“30万円買い物をして下さるお客さま7千人”
“10万円買い物をして下さるお客さま1万6千人“
”5万円買い物をして下さるお客さま3万人“
”3万円買い物をして下さるお客さま6万人“
”1万円買い物をして下さるお客さま10万人“

合計21万7千人で100億円と考えるのです。一人のお客さまがどれだけ多くキタムラのサービスを利用してくださったか、それが大事です。

これはタワーレコードのオンライン事業本部長 前田さんに教わった考え方で、これこそが本来のマーケティングの基本だと私は思っています。この「顧客勘定に基づいた“本当の売上・利益”」を達成するために、どんな施策を考えて実行し、検証していくのか、PV(ページビュー)数、UU(ユニークユーザ)数、セッション数、CV(コンバージョン)、顧客数、顧客単価、会員数、会員増加率、、、さまざまな指標を組み合わせて見ていく事が大事なのです。

最近はデジタルマーケティング主体となってきて、いかにアドテク(アド:広告、テクノロジー:技術)を使うかという話になる事が多いのですが、基本は「売上・利益・顧客数・顧客単価」であり、その為にもお客さまをよく見る事が大事だと思っています。なぜならデジタルの数字だけでは見えない事も多いからです。

先日も「なぜキタムラでプリントするのか?」という事をお店でお客さまに聞きました。答えは「10枚プリントするのにプリンターのインクを買うのはもったいない」「家のプリンターだときれいに出来ない」「設定がめんどう」そして共通で「だから近所の専門店のキタムラに来た」でした。これは自分たちが全く知らなかった事であり、デジタルデータでもネットアンケートでもわからず、お客さまと目線を交わしながら会話することで初めてわかることです。

そして更にその中の半数以上のお客さまが、プリントした写真を人に差し上げる、とおっしゃっていました。だとしたらインクカートリッジをたくさん揃えるよりも、人に差し上げる時に使えるような封筒やシールリボンなどを揃えておけば、お客さまの満足度も売上・利益も上がる筈です。顧客満足とは慈善活動や道徳的なものではなく、営業行為そのものなのです。そしてマーケティングとは顧客満足を高める為の手法なのです。

(第10回へ続く)


著者

逸見 光次郎 (Koijro Henmi)

学習院大学文学部史学科卒。
1994年 三省堂書店入社、神田本店、成田空港店、相模大野店、八王子店勤務。
1999年 ソフトバンク入社。イー・ショッピング・ブックス(現:セブンネットショッピング)の立ち上げに関わる。
2006年 アマゾン入社、 ブックスマーチャンダイザー。
2007年 イオン入社、ネットスーパー立ち上げ後、グループ全体のネット事業戦略構築を行う。
2011年 キタムラ入社、EC推進本部副部長、ピクチャリングオンライン代表取締役会長を経て、執行役員EC事業部長。
2015年 経営企画、オムニチャネル推進担当。
2017年 3月よりローソン、マーケティング本部本部長補佐