特別企画:ECを支える配送業界の進化【概論編】

ECのミカタ編集部

ECで注文をすると商品が「配送」されて届きます。当たり前のようなこの仕組みが、いつ頃できたかご存知でしょうか。この仕組みがなかったとしたら、EC業界は今とは違った形になっていたでしょう。今のような便利な存在にはならなかったかもしれません。そんなECとは切っても切れない関係にある「配送」に注目して、サービスの誕生から発展、EC業界との関わり、さらに今後の展開にも迫ります。

今回は「概論編」として「配送」業界全体の動きについて、ヤマト運輸株式会社 営業推進部 営業推進部長 秋山佳子さんにお話を伺いました。

(企画/ECのミカタ メディア編集部 文/伊藤 愛沙美)

配送業界2度の転機と個人向け配送の誕生

配送業界2度の転機と個人向け配送の誕生ヤマト運輸株式会社 営業推進部 営業推進部長 秋山佳子さん

 今や現代の生活に欠かせない存在となった「EC」。欲しい商品を欲しい時に届けてくれる。その利便性を支えてくれるのが「配送」だ。だが、個人が依頼して個人宛に届く現在の一般的な「配送」の形態は、ヤマト運輸が「宅急便」として最初に作り出したものだ。「宅急便は今年で40周年を迎えます。宅急便が生まれる前、そして生まれてから、ヤマト運輸には2度の転機がありました」と秋山さん。それは、配送業界にとっての転機とも言えるものだ。

 「配送」はそもそも誰かから別の誰かに届けるサービスであり、自分で頼んで自分に届けるという今の考えはなかった。また宅急便の誕生以前は、個人がモノを送るためには郵便局に荷物を持っていくか、重い荷物であれば駅に持ち込まなければいけないという、面倒なものだったのだ。

 そこに「宅急便」という新しいサービスが誕生したわけだが、ヤマト運輸も最初から個人間の荷物を扱っていたわけではない。ヤマト運輸の創業は1919年、法人向けの荷物を扱う貨物自動車運送業としてスタートした。「トラック4台から始まり、そこから創業11年目の1929年には、東京・横浜・小田原間など、関東一円での輸送ネットワークを作り上げ、定期運送を開始しました」。これは、配送業界にとって大きな転機となる出来事だったという。
 
 そこから順調な成長を続けていたヤマト運輸。しかし1960年代半ば、次の転機が訪れる。「1973年にオイルショックが発生し、業績が急に落ち込みました。そこで、当時の社長である小倉昌男が低収益の理由を追求、小口荷物は採算が合わないという当時の業界の常識を覆し、1976年1月20日、個人向けの荷物を扱う『宅急便』をスタートさせました」。これがヤマト運輸、そして配送業界における2度目の転機となった。

多くの人の予想を裏切った「宅急便」の成長

 宅急便の誕生当時、業界の誰もが「儲かるはずがない」と口を揃えたそうだ。だがその予想を裏切って、宅急便は多くの人に利用され順調に売上を伸ばしていった。それを見た他社が次々と個人向けの荷物の扱いを開始した。個人向けの「宅配便」が生まれ「配送」業界が現在の形に大きく近づいた時期と言えるだろう。「宅急便」誕生の日の取り扱い荷物の数はわずか11個だったが、それから3年後の1979年には年間約1千万以上の荷物を取り扱うようになり、さらに5年後の1984年には約1億個以上の荷物を扱うようになった。

 「ヤマト運輸が『猫』をキャラクターに使っていたことで、競合他社も動物をキャラクターに使うようになって『動物戦争』とも言われたんです。この時期は、流通革命が起きたと言われます。『産直』サービスが生まれたのもこの時期ですね。配送サービスの変化により、世の中が変わったと思います。宅急便40周年を迎えた2016年1月20日の取り扱い荷物の数は471万個、年間では約17億個(2015年度)の荷物を取り扱っています」。

EC・通販の成長には「配送」の存在が欠かせない

 個人宅に集配する「配送」の形と「通信販売」の親和性は高い。宅急便、宅配便が通信販売で活用されるようになり、そのニーズに応じて配送サービスも進化していった。特に、産直やお取り寄せでのニーズを受け、「食材を安心してお客様に届けたい」という想いから、1987年(昭和63年)に「クール宅急便」が開始された。

 「宅急便、宅配便がなかったとしても、通信販売やECは違う形で発展していったかもしれません。ただ、全国どこでも注文した商品が自宅で受け取れるという形は、宅急便、宅配便という配送サービスがあったからできたものだと思います。また、通信販売やECによって宅急便、宅配便の形が変わった部分もあります。サービス開始当初は、誰かから自分へ、自分から誰かへという利用が多かったですが、今は自分で注文して自分で受け取るという『自己消費』の形が多くなっています。お客様のニーズに応じて、思考を変えていかなければならないと思っています」。

 思考の変化。それが、1998年に開始された「時間帯お届けサービス」であり、そこからさらに、最近の配送業界で積極的に取り組まれている、コンビニ受け取りや宅配ロッカーなど「欲しい時に受け取れる」ことを可能にするサービスへとつながる。

 「いつ商品が欲しいかというのは、商品によっても、人によっても変わってくると思います。例えば『明日読みたい』と考えている本は今日の夜に受け取りたいですが、ストックで買っておく歯磨き粉などはそんなに急いで受け取らなくても良いですよね。ただ早く届ければ良いというわけではなく、そういったニーズに応えることが、配送サービスの本来の使命だと考えています」。

ヤマト運輸が伝えたい、EC事業者へのメッセージ

 「EC・通販事業者様に対して弊社ができるのは『お客様が、受け取りたい時に、受け取りたい方法で、ストレスなく荷物を受け取ることができる』という面のお手伝いだと思います。そのために『コンビニ受け取り』を拡充したり、最近ではメールを見ない方が増えていることから『LINE』で通知を送るサービスを始めたりしています。今、世の中は凄まじいスピードで進んでいますが、それに遅れないようにと常に考えています」。

 ECを利用する人も、取り扱う商品の数も、そして、受け取るシーンもこれからきっと変わっていく。でも、どう変わろうと、お客様の気持ちにいつも寄り添って一番いい形で向き合ってくれるに違いない。今までヤマト運輸がそうしてきてくれたように。配送業界の力を上手に活用することが、お客様にとっての、より良いサービスにぐっと近づく。当たり前の配送について、EC店舗も見つめ直して欲しい。それが、きっとEC業界にとって、大いなる発展につながるだろうから。


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