急成長するインド、中国のネット通販市場。対して小売売上は低調?
インドでインターネット通販市場が拡大している。現地企業が躍進し、2013年には米アマゾン・ドット・コムも参入した。市場規模はこれから3年間で4倍近くに達すると見込まれている。一方で、同国の店舗小売は低調。また、中国のインターネット通販市場も急拡大中だが、政府調達なども加算した小売全般の販売額は低い伸びにとどまっており、消費者支出に関する統計に実態との乖離(かいり)が生じつつあるとの声も上がっている。
拡大するインドのインターネット市場に対し、小売業界は低調
インドのインターネット通販市場は、衣料品、音楽ソフト、書籍をはじめとする豊富な品揃えが厚みを増す中間所得者層に消費を促している。一方で、同国の店舗小売は勢いが振るわないようだ。スーパーマーケットなど総合小売業への外資導入は、零細の個人商店の保護を求める世論や、これに配慮する政府の姿勢が障害となり、思うようには進んでいないのが現状だ。
2014年5月末には、インドのネット通販のトップ企業であるフリップカートが同業のミントラ買収を明らかにし、インドの通販業界が沸いた。フリップカートは登録者数1800万人にのぼる、インドにおける総合通販サイトの草分けだ。ミントラは衣料品の通販に強く、こちらもサイト利用者は800万人を下らない。
2012年、インド政府は総合小売業への外国投資を解禁
インドの調査会社クリシル・リサーチによると、同国のネット通販の小売販売額は2012年度(12年4月〜13年3月)が1390億ルピー(約2300億円)だったが、2015年度には3.6倍の5000億ルピーに膨らむ見通し。インターネット通販市場の年間成長率は2008年以降、平均で50%を超えており、インド全体では個人消費が伸び悩んでいるが、ネット通販は別世界である。
ネット通販の浸透で、中間層の消費生活は革新され始めたが、店舗を持つ小売業は旧態依然のままだ。インド政府は2012年、スーパー、コンビニエンスストアを含む総合小売業への外国投資を解禁した。
いまだに強い個人経営の零細店の保護を求める風潮
当初は米ウォルマート・ストアーズなどの多国籍企業の進出が見込まれたが、いまでも外資の総合小売店はインド全土でゼロのままである。現状で具体的な出店計画を進めているのは英テスコだけだ。
インドには「キラナ」と呼ばれる個人経営の中小・零細店の保護を求める風潮が各地で強い。「キラナは生活の基盤だ。食料品や日用品を小さな単位で売ってくれるので、あまりお金がなくても買える。店主とは顔見知りだから、給料日まで支払いを待ってもらうこともお願いできる」とムンバイ市内の30歳代男性はコメントしている。
これが一般的なインド人の本音だろう。キラナはごく一部の富裕層をのぞき、ほとんどの所得者が利用し、親しんでいる。スーパーやコンビニのような“近代的な小売店舗”は、容易に人々の生活に入り込めないのが実情である。
インド同様ネット通販が急拡大する中国も……
一方、インドと同じくインターネット通販が急拡大している中国。ネット通販の利便性が消費者を引きつけ、EC大手の阿里巴巴集団(アリババ・グループ)などが提供するサービスの利用者が増え続けている。
中国国内では6億1800万人がインターネットを利用しており、そのうちネット通販を利用する人の数は2013年に3億200万人に達した。国家統計局が4月に発表した1〜4月のオンライン小売売上高は前年同期比52%の増加を記録。これに対し、実店舗を含めた小売売上高全体の販売は12%増と、2004年以来の低い伸びにとどまった。
また、上海に拠点を置く調査会社のiリサーチによれば、携帯端末経由の購入も含めた昨年の中国オンライン小売売上高は、前年比40%増の1兆8400億元(約30兆2312億円)あまりに達した。同社は今後3〜5年間のネット通販の年間伸び率を20〜30%と予想している。
従来の統計データ集計システムに問題か?
中国経済全体の成長率が1990年以来の低水準に陥ると予想される中、ネット通販の増加は明るい話題と言えるだろう。小売業界全般が伸び悩んだのは、習近平(しゅうきんぺい)国家主席が2012年11月の中国共産党総書記就任以降から取り組んでいる汚職撲滅と浪費抑制キャンペーンの影響が強いと見られている。
統計には、政府と企業により購入も加算されることから、消費者支出の実像が反映されにくくなっており、現在の中国の統計データ集計システムについては「過去の計画経済の遺物に過ぎず、ネット販売の活況を完全に網羅したものではない」との声も上がっている。
2014年6月以降の統計には新データが反映
従来の小売統計は、年間売上500万元以上の企業が対象となっており、アリババが運営するショッピングサイトに出品する企業各社の売上は昨年、平均で20万元に満たなかった。
国家統計局の広報担当者は4月の記者会見で、オンラインの売上を公表することについて「統計手法に中国経済の変化をいち早く反映させるという意味で、先を見越した改善策だ」との認識を表明。
すでに、アリババとJDとの間では、小規模の出品企業を対象にした売上データを取得することで合意したという。4〜6月から先の統計には、これらのデータが反映されるようになる予定だ。