国交省が10年で社会実装を目指す自動物流道路とは 「物流危機を転機とする」道筋を探る

奥山晶子

2024年7月25日、国土交通省が設置した「自動物流道路に関する検討会」は「自動物流道路のあり方 中間取りまとめ」を公表した。道路空間とデジタル技術を活用した新たな物流形態である「自動物流道路」が実現すれば、物流の2024年問題 は解決にぐっと近づくことになるだろう。ただ、自動物流道路は便利な一方、懸念点もある。今回は、自動物流道路の詳細や今後の流れなど基本的なところを解説する。

自動物流道路、10年での社会実装を目指す

自動物流道路とは、道路空間を活用した物流の専用空間のことだ。そこを無人化・自動化された輸送車などが走ることで、大量の物流を担うことが想定されている。

人手不足による物流危機を回避するためなどの理由により、国土交通省はこの自動物流道路の構築を計画。「自動物流道路に関する検討会」を設置し、2024年2月から同7月まで、5回にわたって検討会を開催。そして2024年7月25日、自動物流道路のあり方に関する中間とりまとめを公表している。

中間とりまとめでは、社会実験を経た上で、小規模な改良で実装可能な区間などにおいて自動物流道路が10年で社会実装を目指すことが記載されている。

画像元:国土交通省:【別紙1】中間とりまとめ(概要)p2

なぜ自動物流道路は必要なのか?

自動物流道路が必要になった背景は、主に以下の4つだ。

トラックドライバーの人材不足
育成の難しさや報酬の低さから、物流を支えるトラックドライバーが減少の一途をたどっている。2024年4月にはトラックドライバーの時間外労働に年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用された。さらに「改善基準告示」によってトラックドライバーの拘束時間等が強化され、日本は何も対策を講じなければ物流の停滞が懸念される「2024年問題」に直面している。

ドライバーの賃金対策については、適正運賃収受や多重下請構造の是正といった商慣行の見直しが検討されているが、並行して物流の効率化にも早急に取り組まなければならない。

※参考元:物流の2024年問題について(国土交通省)
※関連記事:輸送力は継続できるのか──政府の施策は? 「2030年度に向けた政府の中長期計画」を公表

物流負荷の高まり
物流の小口・多頻度化が急速に進行するなか、コロナ禍を経てEC市場規模は年々拡大。宅配便取扱実績は1989年度に10億個を超えて以降、2022年度には初めて50億個を超えた。この急速な物流負荷の高まりに対応しなければ、重要な社会インフラである物流はいずれ滞ってしまう。

高規格道路ネットワーク構築の必要性
大都市圏や地方都市の渋滞は、経済的にも環境面でも大きなロスを生じている。また、日本の港湾・空港・鉄道駅などの交通拠点と高規格道路のアクセスは、ネットワークの不連続や渋滞により時間を要するケースがあり、スムーズな物流が実現されているとはいえない。シームレスなネットワークの構築が必要とされている。

物流における協調領域の必要性
国土交通省がとりまとめた「自動物流道路のあり方 中間とりまとめ」によれば、物流全体を最適化していく視点を持って参画するプレーヤーがいない状態が続いてきたという。そこで民間が参入しやすいかつ意欲的に取り組めるインフラ構想を行政が主導的に導く必要があるとしている。

自動物流道路の実現に必要なものの1つとして物流DXを実現させれば、物流・商流データについて事業者間・業界の垣根を超えて収集・蓄積・共有・活用することが容易に。この協調領域において輸送情報やコストなどを「見える化」することで、非効率な物流を改善し、生産性を高めていくという。

※参考元:自動物流道路のあり方 中間とりまとめ(国土交通省)

社会実験を踏まえた、今後の流れは?

自動物流道路の実現に至るまでの想定ルートは以下の通りだ。

・社会実験
新東名高速の建設中区間(新秦野~新御殿場)などにおいて実施。

・第一期区間
先行ルートとして、小規模な改良で実装可能な区間などにおいて10年後を目処に実現を目指す。物流量も考慮しつつ、大都市近郊の特に渋滞が発生する区間を想定。

・長距離幹線構想
物流量が特に大きい東京―大阪間を対象に、自動物流道路を実現させる。

ただし、具体的な区間の決定に当たっては、仮の区間・拠点・処理能力などを設定した上で、初期投資(建設コストなど)やランニングコストを含め、詳細な需要分析・事業性の分析を行う必要があるとされる。

実装に向けて物流事業者や荷主へのヒアリングも

自動物流道路がターゲットとしているのは小口の荷物だ。パレット等に積載したサイズを輸送単位にすることが適当であるとされており、小口・多頻度の輸送に課題を感じているEC事業者には最適な輸送手段になり得るだろう。
ただし、積み替えの自動化の観点からフォークリフト差し込み口など自動荷役に必要な機能を荷主側で備える必要があるだろう。また、荷物管理の観点からICタグやバーコードの装着が可能な設計にしなければならないなど、課題も多い。

中間とりまとめでは、自動物流道路を実現化させるための具体的な方法について、交通分析や物流事業者・荷主等へのヒアリングなどにより、詳細に分析を行う必要があるとしている。荷主側としてどう向き合っていくか、引き続き動向を追っていきたい。


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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