輸送力は継続できるのか──政府の施策は? 「2030年度に向けた政府の中長期計画」を公表

ECのミカタ編集部

物流業界が2024年問題に直面するなか、何も対策を講じなければ、2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力不足となる可能性がある(※1)。政府は2024年2月16日、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を行い、「2030年度に向けた政府の中長期計画」を策定・公表した。ドライバーの賃上げや再配達率を下げるための施策など、EC事業者にとって知っておかなければならないポイントをまとめた。

※1 参照元:「『物流革新に向けた政策パッケージ』のポイント」

2030年度に向けた政府の中長期計画について

政府は物流の2024年問題に向けてさまざまな対応を行ってきた。2023年6月には「物流革新に向けた政策パッケージ」(※2)を策定し、商慣行の見直しや物流の効率化、荷主・消費者の行動変容について抜本的・総合的な対策をパッケージ化した。

また同23年10月には「物流革新緊急パッケージ」(※3)を策定。賃上げや人材確保など、早期に具体的な成果が得られるよう可及的速やかに各種政策に着手するとともに、可能な施策の前倒しを図るべく、特に重要とされる事項について必要な予算の確保も進め緊急的に取り組むこと、進捗管理を行うことが公表された。

そして24年2月、このたびの「2030年度に向けた政府の中長期計画」では、両パッケージに基づきモーダルシフト(※4)に必要となるハード整備を始めとした各種施策が策定・公表された。

※2 出典元:「物流革新に向けた政策パッケージ」(令和5年6月2日我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定)

※3 出典元:「物流革新緊急パッケージ」(令和5年10月6日我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定)

※4 モーダルシフト:トラックなどで行われる貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶を使っての輸送に転換すること。

(1)商慣行の見直し

まずは商慣行の見直しについて。取引関係の健全化、適正価格での運賃収受、貨物輸送の効率化を加速させるため、以下の施策を行い、かつ取組実施の徹底を推進する。

① 荷主・物流業者間における物流負荷の軽減

② 納品期限、物流コスト込み取引価格等の見直し

③ 物流産業における多重下請構造の是正

④ トラックGメンの設置等

トラックGメンは、トラック運送事業における適正な取引を疎外する疑いのある荷主企業や元請け事業者の監視を強化するため2023年7月から始動している施策。発足後、着実に成果を挙げている。

⑤ 担い手の賃金水準の向上等に向けた適正運賃収受・価格転嫁円滑化等

⑥ トラックの「標準的な運賃」制度の拡充・徹底

賃上げについてはトラック運送業の標準的運賃を8%引き上げるとともに、荷役対価や下請手数料等の各種経費を新たに加算できるよう措置。これにより10%前後の賃上げが期待されている。

2024年2月16日に行われた「物流革新・賃上げに関する意見交換会」で岸田総理大臣が「賃上げと価格転嫁、ひいては物流革新に向け、政府、荷主、物流事業者が一致団結して、我が国の物流の持続的成長の実現に向けて、全力で取り組んでいきたい」(※5)と語っている。

※5 出典元:物流革新・賃上げに関する意見交換会(内閣官房)

計画内で示された商慣行見直しについてのロードマップは以下の通り。2023年度中に作られる業界・分野別の「自主行動計画」を踏まえ、ガイドライン・「自主行動計画」に基づく取組を2030年度にかけて実施。合わせて規制的措置も導入される。

※出典元:「2030年度に向けた政府の中長期計画」

この施策に関連して、2024年2月13日には物流の2024年問題に対応するため、荷主・物流事業者やトラック事業者の取引に関する規制等を示した「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」が発表されている(※6)。

※6 関連記事:国交省 物流の2024年問題に対応する改正法案の閣議決定を発表 荷主・物流事業者に対する規制も

(2)物流の効率化

次に物流の効率化について。物流施設の自動化・機械化など即効性のある設備投資や手続きの電子化による物流DXの推進、鉄道や内宮海運の輸送量を10年程度で倍増させることやコンテナ大型化によるモーダルシフトの推進によって効率化を図る。

具体例として、荷待ち・荷役作業等時間の削減対策として自動倉庫や無人フォークリフト等を活用し、2030年度までにトラックドライバー1人当たりの荷待ち・荷役作業等時間を2019年度比で年間125時間以上削減することを目指している。

また高速道路の利便性向上については、大型トラック速度規制を2024年4月から90km/hに引き上げる政策案が2月27日に閣議決定されている。また貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直しなど各ドライバーの行動変容に関わる施策も行われる。

(3)荷主・消費者の行動変容

急速で抜本的な施策を成功させるためには、荷主はもちろん消費者の行動変容も必要だ。「翌日配送」や「送料無料」を当たり前に享受できる今のやり方のままでは、消費者の意識が変わることはないだろう。

そこで、コンビニ受け取りや置き配、ゆとりある配送日時の指定など、物流負荷の低い受取り方法を選択した消費者に対しポイントを還元する実証事業、多様な運賃・料金の設定などの促進により再配達削減の仕組みを社会実装する。

また送料の表記に監視「送料無料」表示の見直し要請や、見直し状況のフォローアップ調査を実施する。

先に触れた「トラックGメン」の設置や標準的運賃・標準運送約款の見直しをすすめるとともにこれらの施策を行うことで、全体的な物流改善の取組を促進していく構えだ。

出典元:「2030年度に向けた政府の中長期計画」

まとめ

これら政策パッケージに関係する2023年度補正予算については、一般会計が383億円他、特別会計はエネルギー対策で409億円他。2024年度の当初予算案は一般会計が21億円、特別会計に至ってはエネルギー対策に97億円他、自動車安全9億円、労働保険1億円が設定されている。

なお会計種別としては、商慣行の見直し(トラックGメンの設置等)、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容の3つとなっている。

さまざまな施策がロードマップ通りに同時多発的に促進されていけば、多大な輸送力効果が期待できるだろう。とくにEC事業者には、ドライバー運賃の値上げや、再配達率減少に寄与するよう複数の配達方法提示が求められている。今後の法改正を見逃さず、適切な対応を取っていきたい。


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