メルカリの越境取引事業が拡大 「美露可利」として台湾に進出 

奥山晶子

発表を行ったメルカリ執行役員General Manager Cross Borderの迫俊亮氏

フリマアプリ大手の株式会社メルカリが、2024年8月29日にメルカリ東京オフィスで越境取引事業における新規取り組みの発表会を行った。ステージにはメルカリ執行役員General Manager Cross Borderの迫俊亮(さこ・しゅんすけ)氏が登壇。近年の越境取引事業における業績と、同日から展開される台湾進出の詳細を発表した。

メルカリ越境事業の成長

メルカリはグローバル展開に向けた戦略の一環として、2019年より越境取引事業を開始した。メルカリの商品を越境ECパートナーのプラットフォームから購入可能にすることで、現在では74社のパートナー企業と連携し、2024年8月現在で約120の国や地域に日本のアイテムを届けている。

2023年にはメルカリ内にショップを開店できる「メルカリShops」で越境取引を開始し、2024年には3言語対応のWebページを提供するなどの取り組みを展開。結果、5年間で累計取引件数が1700万件を突破した。昨年と比較してもGMVが3.5倍に飛躍するなど、事業を大きく拡大している。

越境EC市場全体の成長の加速

迫氏は、メルカリだけでなく世界の越境EC市場も成長を加速していると指摘。経産省の調査によると、2021年には7850億ドルであった世界の越境EC市場規模が、2030年には7兆9380億ドルにまで膨れ上がると予想されている。また、日米中3カ国間の越境EC市場規模が大規模になっていることも示し、成長ポテンシャルが大きい市場であると語った。

・メルカリの越境取引事業の成長要因1.COOL JAPAN
迫氏によると、メルカリの越境取引事業の成長要因は2つある。1つめは、いわゆるCOOL JAPANの人気だ。日本のコンテンツの海外市場規模が拡大し、メルカリでもエンタメやホビー関連のいわゆる「推しグッズ」商品が事業成長を牽引。カプセルトイなどでしか手に入らない、あるいは日本限定グッズといったCtoCマーケットプレイスだからこそ手に入るアイテムの取引も活発だ。

・メルカリの越境取引事業の成長要因2.USED IN JAPAN
2つめの成長要因は、日本の中古品への信頼感だ。日本の中古品は質が高いとされ、「USED IN JAPAN」として海外から支持されているという。

メルカリの海外取引においては、レディースの高級ブランドバッグが人気ファッションブランドの上位に。海外の家電取引件数のTOP5も、カメラが独占している。こうした状況を迫氏は、日本の二次流通市場で流通する中古品の状態が非常に良好であること、とくに中古カメラにおいては海外で「新品に近い品質を持つ信頼できる商品」として高く評価され、取引が活発になっていると推察した。

こうした背景を受け、US版メルカリで日本版メルカリの商品購入が可能になる「Mercari × Japan」を始動させている。これも越境取引事業の一環だ。

海外への越境取引のさらなる加速

メルカリは海外への越境取引をさらに加速させるため、2024年8月29日に台湾進出を果たした。台湾に住む人は、メルカリに会員登録することで、Web版のメルカリから日本のメルカリに出品されている商品を購入することが可能になる。台湾では繁体字名として「美露可利(メルカリ)」と表示される。

台湾で表示されるWeb版メルカリ。商品説明が繁体字で表記され、商品価格も台湾ドルで表記される。現状、現地でできるのは登録と購入のみで、コメントの書き込みなどは不可。UI/UXは現地のユーザー調査を繰り返し行い改善した。

これまでの越境取引では、越境EC事業者のプラットフォームを通じて間接的に「メルカリ」に出品された商品を購入していた。しかし今回の新たな取り組みでは、他のサイトを経由せず、Web版のメルカリを通じて購入が可能になる。

日本の出店者にとっては、買い手が大きく増えることが魅力だ。メルカリShopsの出店事業者にとっては、簡単に海外へ販路を拡大することが可能になる。また、越境事業パートナーと連携し商品が台湾へ届けられ、出品者と購入者のコミュニケーションは発生しないため、言語の違いから来る意思疎通の不安は解消される。荷物の種類にもよるが、送料は500円から1500円程度、納期は1~2週間を想定しているという。

なお、規制や大きさにより海外へ輸出できない商品は、購入可能商品として表示されないようシステム上で設計されている。

・進出先を台湾にした理由

進出先を台湾にした理由として、3人に1人は訪日経験があるという台湾の親日性や、メルカリの越境取引金額・件数が中国に次いで2位であることが示された。また、若年層を中心に、環境的・経済的な理由からリユース品を選ぶ人が増えており、ポテンシャルが非常に大きいと見て新事業展開に踏み切った。

台湾でもやはり「推しグッズ」が人気。デジタルカメラなどの高価格品も売れている

なお、質疑応答で「なぜ取引件数が最も多い中国ではなく台湾なのか」という質問があり、これに対しては「台湾は日本商材に対する需要が多く、規制やルールが日本に近い。スピード感を持った展開のしやすさで判断した」と答えた。

記者からの質問を受ける迫氏

日本の「メルカリ」で海外の商品の購入が可能に

メルカリは2024年6月より、越境販売の販路拡大に向けて韓国の大手フリマ雷市場(ポンジャン)と提携を開始し、雷市場の海外タブからメルカリの商品が購入可能になった。今回、昨年末から実証実験として「メルカリShops」で雷市場の出店をしており(一部カテゴリー限定)、メルカリ側からも雷市場の商品が購入できるようになっている。

今後も実証実験を進め、このモデルをさまざまな海外事業者に展開していく予定だ。迫氏は「こうした越境取引を通じた取り組みを通じて、CtoC取引の国境をなくし、出品者と購入者の両方により豊かな購買体験の提供を目指して参ります」と意気込みを語った。

まとめ

発表会の最後には、メルカリの今後の展開として3つの展望が語られた。1つは、海外の商品を日本のメルカリで購入可能にすること。2つめは、台湾を皮切りにさまざまな国や地域へ越境取引を展開すること。3つめは、海外の人々がメルカリへ出品可能になることだ。

メルカリが進めていく越境取引。日本のリユース商品は、海外でどのように受け止められるのか。また、世界中の人々がリユース商品をメルカリで取引する将来は実現するのか。CtoCの可能性に、今後も注目していきたい。


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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