ネット通販キホンと本音〜逸見氏と川添氏 前編:運営の罠
ネット通販をやるにしても、どんな心構えでいればいいのか。今こそ、基本に立ち返って考えてみたい。ということで、講演などでもお馴染みのEC業界での人気者、カメラのキタムラの逸見 光次郎さんとメガネスーパーの川添隆さんを編集部に招いた。そして「ネット通販(=EC)で仕事する上で一番大事なこと」をテーマに対談を試みた。それは、ネットショップにとっては勿論、支援企業にとっても、考えさせる本質に迫る話なので、業界が長い人も、新卒の人でも、気づきがあると信じている。是非、読んでいただけたら、幸いだ。
現状を知ること、それは整理することである
石郷 まず、お二人には共通点があって、逸見さんの場合はカメラのキタムラ、川添さんの場合はメガネスーパーというそれぞれ既にECが存在していて、そこにお二人が後から入ってきて、既存でやってきたものを改善していったという似たような経緯があります。変化させていく過程で、ECにおいては、何が一番大事だと実感されたのか、その根本について話が聞けたらと思っています。まず、最初にやられたことってなんでしたか?
川添 確かに、逸見さんと僕の場合は、既にECが存在していて、そこに僕らが後から入ることによって改善していこうという意味では、共通です。僕より逸見さんの方がシステマチックに図を用意されていてすごいなとは思います(笑)。そうですね。最初にやるべきことって、現状を知るってことだと思うんですよ。僕の場合は全然、コンタクトとか眼鏡とか全然、自分が使わないものをやらなきゃいけなかったんで。だから、なんとなくこんな風にやっているのかなって思ったとしても、ちゃんと聞かないと、現状を把握して、何に課題があるのかを知ることにはならないと思いました。まずは、そこから入りましたね。
逸見 川添さん、正直言うと、あの私の図とかは後から完成したようなものなんで(笑)。当時は、何でこんな図を作っているのかわからなくて、振り返ってみたら、ちゃんと整理には役に立っていたんだなって感じなんですよね。
川添 そうなんですね(笑)。おっしゃる通り、本当に最初のうちは、整理なんですよね。大体確認してくいく中で、あれ?これっておかしくない?ってことがあるわけですよ。おかしいなっていうポイントは、特に、当人にとってはおかしくなっている理由が湧いてこないんですよね。例えば、会社のルールとしてやれって言われたとかなんです。規模は違えど、限られる人数の中で、売上を上げていくというのは、働ける時間の中で、ダメなところをなくして、整理していくことが大事なんですよ。
石郷 カメラのキタムラさんもそうですか?
逸見 そうですね。外から来た立場なので、他のECでできている当たり前の仕組みってものに対して、今いるこの会社においてのズレは、見つけやすいかもしれません。当然、これは他から見ておかしいから直しましょうということにはなりますよね。ただ、それだけじゃなくて、図を書くにも意味があって、ちゃんとフローを書いて、「どっかおかしいよね」と問うてみるわけです。なぜそんな事するかっていうと、その「おかしい」と言った時に、「誰が」とか「部署が」とかって話をすると、それは絶対、敵対勢力になるからです。もう意固地になって抵抗しますよね(笑)。
そうじゃなく、こうやって全部流れていって、最後、出荷できたら、お金がチャリンと入ってきますよね。ここの中で「変なことない?」とか「時間かかっていることない?」って聞いてみる。あくまで、誰かじゃなく、業務の流れの話をすることが大事なんだと思います。それが違和感だと感じてもらえるためにです。出来上がっているものに対してはちゃんと整理し、そして、何のために、イーコマース、ひいてはその作業をやっているのかをちゃんと説明する。これをやると、誰が嬉しいんだっけ、メーカーが嬉しいんだっけ、お客様が嬉しいんだっけ?って話です。
全体を見ていていないと起こりうる事象って?
石郷 全体を見通した上で、どこに向かってやっていくか、流れを押さえた上で、どこか部分的におかしいことに自分で気付いてもらうということなんですね。
逸見 そうですね。全体が見通せていなければ、川添さんがおっしゃられている、変な部分っていうのも、判断がつかないわけですよ。何のために向かっていることの中で、「あれ?これいらないんじゃない?」ってなるわけです。お客様なのか、会社なのか。もし、それがそれぞれ違う目的に向かっていっていると判断が難しいわけです。うちら、こういう目的に向かってやっているんだよね、と最終的には、経営陣も含めて、やることだって必要です。
石郷 実際に起きていた事象で、どんなものが大きな問題となっていたのですか?
逸見 例えば、入金の処理がおかしいとかですよね。よく起きるのは、イレギュラーの対応なんです。キャンセルが発生した時、返金が発生した時とかは、意外と手作業でやっていたりする。「絶対ダメだよ。納期に関するところと決済に関するところは絶対ずれるな」って言っているんですけど、イレギュラーゆえに、大事なのはわかっているけど、決済で、手作業でエクセル管理していたりするわけです。
そのうち、経理も関わって、カード会社、信販会社のデータを戻していって、ヤマト代引きみたいなものが入っていると、ヤマトフィナンシャルに聞いてみたりとかになって、これがロスの業務になっていたりするんですよね。数は少ないんだけど、面倒くさい作業をミスすると、その影響が大きいわけです。だって、金額が小さくてもお客様は怒りますからね。経理まで話がいって「なんで数字が合わない!」って話になれば一大事です。
川添 僕のことで言えば、僕が入った時というのは、メガネスーパーの変遷で言えば、楽天から始めて、その後にコンタクトのECを買収して、売上上がっているけど、儲かっていなくて、会社全体も赤字が続いていた時なんですよね。そういう状況で入って、例えば、「リスティングを代理店でやっていますが、予算は30万円です」って言われて「なんでその代理店にしたんですか?なんで30万円しかない、もしくは固定なんですか?」って話をするわけです。すると、「他部署でその辺に詳しい方が決められまして、特にわかりません」と。数字を見て、ちゃんと運用されていない。
他にも、コーポレイトサイトも外注に任せていたりするけど、「月額50万円です」と。一体何をやってくれてるんですかって聞くと、コンテンツ10個くらい作って終わりです、とかです。アフィリエイトなんかもそうなんですけど、結局「始めた後はそれをやめる」って選択肢はないわけです。なんのためにやっているのかを気にせずにやっているから、なんだと思います。聞いていると、コンテンツ制作とかは時給が2万円とかになっちゃっている。そりゃありえんだろ、と。
わからないなら、わからないなりのやり方がある
逸見 最初はわからないからいいんですけど、わからないから外注にお願いしたりするわけです。でも、そのうち、能力がついてくるから、そのジャンルに関しては、もう別に、外注使わなくていいでしょって思うわけですよ。時給換算したらいくら?ECの特徴っていうのは業務が変わっていくことにあるんです。当たり前の商売の流れは変わらないけど、業務の内容はどんどん変わっていくわけです。それは社員が学んでいくし、SEOなのか、リスティングなのか時代によっても変わります。その時その時で考えないと。
石郷 凝り固まった考え方っていうのは、そういう考え方しかできない環境にいるから起こるのかもしれないですよね。お二人が言うように「全体を見通す」とか「なんか変じゃない?」とヒントを出すことで、それをヒントに、自分は何をしなければいけないかを考えなきゃいけない。
逸見 そう。そして、 考えている業務が評価に結びついていなければならないわけです。会社の利益にどう貢献しているのか。結局、小売の場合で言えば、お客様が喜んでいるかという話ですよね。そこに繋がっていない業務や効率の悪い業務だとしたら、見直すべきでしょう。あなたが悪いと言っているわけじゃなく、対お客様で考えたら、変えたほういいよねというわけです。利益が出るようにして、上から評価されたいでしょ?と。
石郷 意識が変わってそれに見合った行動したらそれだけの成果が得られる環境にしていくと。
逸見 色々あれやれ、これやれというのはとても簡単な話なんです。でも、そんなことしたって、人は成長しませんよね。
川添 「既存でECをやっているところに入る」とか「小売店舗があるところで、EC事業部門に入る、立て直しで入る」ということは「うまくいってないから入る」わけです。そこで共通しているのは先ほどの話じゃないですけど、無関心になっているということですね。その中でやっている人も、自分たちがやっているのは良いのか、悪いのか、わからない。だから、捨てるものもわからないし、何を伸ばしたらいいかわからない。ある程度、第三者的に見て、これは強みであるとか、これはいらないとか、そこを考えてみることが大事です。ここはもっと伸ばせそうとか。価値提供として、これをやったら面白いとか。それぞれで成果が出たら、その人の評価をしていくとか、仕事として最低限やっていくべきことじゃないですか。でも、どうしても人ってわからなくなる。そうすると、人は、仕事さえとりあえずやっておけばいいじゃないかってことになっちゃう。
逸見 無関心のルーチンワークになって、それが本人にとっても何も楽しいことってないわけですよ。
企業をダメにする無関心は、好調に見える店舗に起こる
石郷 嗚呼。そうやって連鎖していくわけですね。最初は小さなことではあるけど、積み重なって、大きくなって、会社にとって大変なことになっているってことなんですね。いつの時点でも、どんな企業でも、関心を持つってことですね。逆に言うと、無関心になったら危険だと。
川添 企業再生やM&Aとかもまさにそうですよね。まだ、うまくいっていない状況が明確だと、よくしようという方向に転換しやすい。逆に利益が出ていると、いくら株主から何を言われても、やり方を変えることは難しかったり。そうなると、そっちの方が危なかったりするんです。
逸見 確かに、そうですね。そこそこ利益出ていると、このまま続ければいいやって言って、またルーチンワークに入っちゃうんですよ。でも、それを客観的に商売としてみてみると「あれ?そのうちダメになるんじゃない」ってこと、大いにあるんですよ。お客様がちょっとずつ離れていっているよね、とか。サイトの更新度合いが落ちているから、お客様の来店頻度が落ちているよねとか、でも、そこそこうまくいっていると、そういう見たくないものは見なくなる。だけど、これを客観的に常に見なきゃいけない。だから、やっている自分としては一生懸命やっているんだけど、時々、一歩引いてじゃあ役に立っているのかを見る必要があるんです。この後、どうなっていったら、喜ばれるのか、今どうありたいのかっていうところの話を。でも、難しいのは、これを毎日考えているとノイローゼになっちゃいます(笑)。
石郷 笑。ほどよくですね。
逸見 そう。そういうことを思うようになって、私はポストイットを持ち歩いているんですよ。
川添 おお!メモ書きがたまっていくわけですよね。
逸見 これをあちこちに貼って、課題は赤にして貼っておいて、解決策は青にして貼っておくわけですよ。
川添 なるほど、いいですね。
逸見 また後で振り返ったりするわけですよね。
石郷 見える化ですね。
逸見 そうそう。とにかく自分の頭の中にあるものを「見える化」していくわけです。これ、ポストイットにしていることですごく意味がある。だって、パワポとかワードに向かった瞬間に整理しようと思っちゃうんですよね。率直なできない課題だけを書き出しておけばいいのに、答えを書こうとしちゃうんですよね。
石郷 なるほど。そもそも、わからないから書き出しているんですものね。
逸見 パワポとかを使ってしまって小さく解決してまとまろうとすると、また、部分解決に過ぎなくなっちゃうから、全体の道筋がまた見えなくなっちゃうんですよ。一生懸命やっているんだけど、全体で見たら、効率が悪いって話になるわけです。だってですよ、皆、一生懸命やりたいし、評価されたいから、やるんですけど、既存の商売と違ってECって次々、新しいことも来るわけです。カタカナ用語が出てきたりですね。そうすると、なんか、そっちをやらなきゃいけないって気になるんですよ。でも、絶対に忘れちゃいけないのは、キタムラで言えば、最終的に写真。メガネスーパーだったら、コンタクトの定期購入のお客様が増えていくとか、しかも診断を受けてくれて、4年に一回のメガネが2年に一回になったり、そこが大事なことじゃないですか。でも、ついつい月次決算の利益がいいよねとかの話になっちゃうんです。でも、それは怖い話なんです。
石郷 大事なのは、本質をつかむってことなのかなって思いました。実際、社内では、ECと小売両方やられていると、ECって特殊なことって思われているかもしれない。
川添 特殊なことって言えば、確かに・・・(後編へ続く)
【後編は 勘違いしてない?外注選びの秘訣(http://bit.ly/22dKorz ) 支援企業との付き合い方に迫ります】