BtoB-EC化の成功事例「福助」【後編】−−136年の歴史のコンテキスト
BtoCよりもはるかに巨大な市場となっているBtoB-EC。BtoCの実に20倍の規模を誇る巨大マーケットだ。EC化率はBtoCを大きくしのぐ28.3%にものぼるが、その舵取りに苦戦する企業も少なくない。そんな中、スピーディーにBtoB-EC化を成功させた「福助株式会社」。明治15年創業の老舗企業が革新的な転身を遂げられた背景はどこにあるのか。その歴史を紐解きながら、BtoB-EC化を成功させた理由を探る。
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日本の産業をリードして来た福助の革新の歴史
靴下や肌着・ストッキングを手がける福助株式会社(以下、福助)は、言わずと知れた老舗企業だ。136年という歴史を誇る福助が、BtoB-EC化を決定してからサイトの開設まで要した時間はわずか2ヶ月。それから紙のカタログによるFAX注文を完全に廃止するまで、たった4ヶ月。驚異的なスピードで変化を遂げたその大改革を1人で遂行し、首尾一貫させて成功させた立役者が福助の総合部東日本総合営業グループ 長尾博之氏だ。
「当社の歴史を振り返ると、いつも時代の先をいくパイオニアの役割を果たしていたことがわかります。大正12年に業界で初めて足袋を空輸していますし、昭和26年には日本で最初のCM放送を実施しています。昭和27年に先駆けてコンピューターシステムを導入し、昭和45年にはオンラインシステムを採用。これは当時、新幹線のみどりの窓口や一部の都市銀行が導入していただけで、とても先進的な取り組みでした」そう長尾氏は語る。
昭和33年には当時製造していたミシンで業界初のGマークに選定されたり、今となってはありふれている「キャラクター付ソックス」を昭和36年にはじめて販売したり。福助の長い歴史は、その先見性と決断力により築きあげられてきたことがわかる。むしろ、過去のやり方に縛られて身動きが鈍くなるような企業であったなら、ここまでの歴史は刻めなかっただろう。
ちなみに、伝票にカーボン紙を挟んで複写式にする方法を昭和2年に考案したのも福助だ。この伝票により、日本中のどれだけの企業が事務処理を軽減化・省力化できたことだろう。先進的な取り組みだけではなく、効率を追求する姿勢も当時から変わらない企業風土なのだ。
その福助に、受注業務や物流・財務における大幅な業務効率化とコストダウンをもたらしたBtoB-EC化。シニア層の多い得意先に受け入れられるために長尾氏が実践したのは、最先端のシステムとは対照的な人間味あふれる対応だった。
安定した商品供給と良質なサービスの提供のために。丁寧な得意先対応は必定
足袋装束店として発祥した福助。長尾氏は、高齢化が進む得意先のために徹底的にわかりやすいマニュアルを作り、遠方であろうと持参して直接説明にまわることをいとわなかった。
「使い方がわからないという得意先には出向いて行きました。『パソコンはあるけど1度も使ったことがない』という衣料品店さんの事務所では、パソコンの前にダンボールが山積みになっていて。メールの設定からはじめ、『福助会員制卸専門サイト』をブックマークに入れて、福助発注専用パソコンのようにセットアップしてきました」長尾氏は冗談交じりにそう話す。しかしその懇切丁寧な対応は誠実そのものだ。
「電話では説明が難しく、拒絶反応を示すお客様もいらっしゃいます。でも直接伺って顔を合わせてご説明すれば、きちんと理解していただける。最大限に得意先の事情を考慮した対応を優先しました」。結果として福助は紙のカタログによるFAXでの注文をスッパリとやめ、EC1本に絞ることができた。インターネット環境がない一部の得意先に対しても、別の仕入れルートを紹介するなどの形で取引を継続しているという。
「やると決めたらやりきる。その決断が必要でした。慣れというのはやっぱり重要で、慣れるまではどうしても『やりづらい』と言われてしまう。EC化に合わせて決済方法も変更したため、当初は振り込み先を間違える得意先も多くいらっしゃいました。しかしそれも1年経ってほぼなくなり、今ではむしろ『使い勝手がいい』と喜ばれています」。
大切なのは、お互いにとって利益となること。だからこそ「いくら業務効率が上がったとしても、得意先がメリットを感じられなければ、その事業は必ず失敗する」と長尾氏は断言する。福助がEC化に成功した理由は、丁寧な得意先対応だけにあるのではない。EC化を最終目的とせず、それを「得意先の利益のために」そして「得意先の向こう側にいる消費者に価値ある商品を届けるための1つの手段」として捉えていることが大きいだろう。
革新を続ける老舗企業のこれから。136年間座っていた座布団から立ち上がる福助
「私たちだけが利益を得ているのでは商売は成り立ちません。それによりお客様にどういったメリットを出せるかがビジネスの肝です。紙のカタログによるFAX注文では売価の変更はできませんでしたが、ECであればシーズン末に割引販売ができる。特別企画やご奉仕品を用意することでEC化によるコストダウンで得た利益を得意先に還元しながら、ともに発展していきたいと考えています」そう話す長尾氏。
そしてEC化を目指すにあたり目標としていた、早期予約による受注生産もスタートさせている。「商品供給の安定化・最適化を図るための早期予約・受注生産。これをBtoB-ECを開始して3年以内に開始するのが当初の目標でした。しかし実際には開設から8ヶ月で着手することができ、それから2ヶ月で運用フローが完成。開発にあたり、当社の相談に素早く対応いただいた“Bカート”の協力も得て、思いのほか順調に進めることができました」。
まだ試験段階のため規模は小さいものの、これからは早期予約割引などを導入して利用を拡大していく構想だ。そうすることで商品供給を安定させるとともに、品切れによる機会損失も防げる。
「『顔が見えない』と言われがちなECですが、私たちは今まで以上に『得意先の要望をサイト上でどうにか実現できないか』と考えるようになりました」長尾氏はそう語る。より良質なサービスのために、電話によるサポートセンターも開設した。
これまでの慣習にとらわれず、伝統に縛られず、新しいフィールドを模索し挑戦していく福助。変化を怖れないパイオニア精神と決断の連続が、今に連なる歴史を刻ませているのだろう。福助は長年座っていた座布団から立ち上がり、次の時代へと歩みを進めようとしているようだ。