バンダイがECでコトを売る!?変化する消費と時流を捉えた寺田倉庫のAPI
モノ消費からコト消費へ、そしてトキ消費へ。消費動向の変化が言われて久しいが、それはEC市場においても看過できない現実だ。自店のビジネスでコトの提供ができないか?話題のサブスクの仕組みができないか?そういった議論を交わしているEC事業者もいるだろう。そんな時代に、あの老舗バンダイまでもが新たな展開を見せている。バンダイと寺田倉庫が提供するコトとサブスクとは?(株)BANDAI SPIRITS コレクターズ事業部 Web・プロモーションチームマネージャー 仲澤誠氏と同チーム 黒川美帆氏、寺田倉庫(株) MINIKURAグループの今成真之介氏、姫野良太氏に話を聞いた。クラウド収納市場のパイオニア、寺田倉庫が描く未来のライフスタイルがここにある。
玩具メーカーのバンダイが「コト」を「サブスク」で売る理由
――『魂ガレージ』というフィギュア専門のクラウド収納サービスを寺田倉庫と共同で提供されていますね。
黒川氏(以下、黒川) BANDAI SPIRITS(以下、バンダイ)では完成品フィギュアブランド『魂ネイションズ』のECショップ『魂ウェブ商店』を運営しています。
フィギュアはコレクター要素が強いので、置き場所に悩むお客様が多くいらっしゃいます。リアル店舗でお客様とお話する機会もありますが、10人とお話したら8人は困っているというような状況でした。「もう置き場所がないから買うのをやめる」というケースもあるようで、その課題をすこしでも解決できたら、と寺田倉庫さんと一緒に企画・運営しているサービスです。
今成氏(以下、今成) ベースとなっているのは『minikura』という寺田倉庫の個人向け保管サービス。保管アイテムの写真を1点1点スマホやPC上で確認できる個品管理の仕組みが、フィギュアのコレクション性と非常にマッチしました。バンダイさんに“見つけていただいた”という感じです。
黒川 メディアでこのサービスのことを知った当時のEC担当者からすぐお電話させていただきました。
サービスは月額306円のスタンダードと612円のデラックスの2種類のコースがあり、ユーザーはアイテムを専用ボックスに詰めて送るだけ。ひとつずつ写真撮影をした上で寺田倉庫さんに保管していただきます。
今成 二重構造の頑丈な段ボールを使用した専用ボックスは、スタンダードで3辺合計120cm、デラックスは160cm。魂ネイションズ商品のパッケージがすっぽり収まるよう研究して設計しています。「このアイテムを預ける」というところから発想しているので、ターゲットに刺さっていると思います。
姫野氏(以下、姫野) デラックスコースは、有事の際に補償が受けられる寄託価格をスタンダードの10倍に設定しています。これが「大切なモノをしっかり保管する」というアピールになり、その安心感に価値を見出されている。思い入れのあるアイテムを預けたい魂ガレージのユーザー層には、価格の高いデラックスコースが多く利用されています。
仲澤氏(以下、仲澤) コレクションは、「実際に手に取っている」時間に比べると保管している時間のほうが圧倒的に長いものです。E Cで注文完了したことで、一旦満足されるお客様もいらっしゃる。目で見て、手で触れて自由に動かす楽しみとともに、「所有していること」自体にも大きな価値があるのだというのは私たちにとって重要な視点でした。
ニッチを追求するほどサービスが磨かれコアターゲットに突き刺さる
――かなりニッチな層を狙ったサービスですが、支持を得られているのですね
姫野 魂ガレージのユーザーは継続率が高く、会員数も預けられるアイテム数も伸び続けています。1ユーザーで100箱近くのボックスを預けていただいている方もいらっしゃいます。強いファン層にサブスクの仕組みがマッチしているのが非常に面白いですね。
仲澤 バンダイには長年買い続けてくださっているコレクターのお客様が多くいらっしゃいます。当時ECを強化していた弊社には既に会員登録の仕組みがあったので、こうしたお客様を囲い込むサービスというものをスムーズに導入できました。
黒川 魂ネイションズには、魂ウェブ商店や『TAMASHII NATIONS TOKYO』(魂ネイションズが運営するリアル直営店)でのショッピング、イベント参加によりマイルが貯まる『CLUB TAMASHII MEMBERS』という会員制システムがあります。マイルが貯まるとステージが上がり優待が得られるので、たとえばこの会員制システムと魂ガレージを相互連携させられないかなと。上位ステージ会員には「魂ガレージのボックスをプレゼント」する、また魂ガレージの利用に応じてマイルが貯まるなど。ちょうど検討を始めたところです。
姫野 一般的に倉庫ビジネスでは、ストックし続ければ収益があがるので利用者様に向けてアクションをしません。しかしそれではECの売上につながらないので、minikuraとしてもID連携やポイント付与の仕組みづくりに取り組んでいきます。
仲澤 魂ネイションズは東京・秋葉原を舞台に、フィギュアの展示販売イベントを春と秋の年に2回主催しておりまして、リアルの会場に数万人規模のファンが集います。会場に寺田倉庫さんのブースを設け、ボックスを現物で見ていただいたり、その場でお持ち帰りいただける方にはボックスを無料で差し上げたりというような訴求も試みたりしました。
姫野 minikuraはwebサービスなので、これまで利用者様と直に接点を持つことはありませんでした。しかしユーザーの方たちと直接対面することでニーズが可視化されますし、「このフィギュアはボックスに入るの?」といった細かい質問もありました。
そういうこだわりに合わせてサービスを磨いてくことが、ユーザーの利便性向上につながっていくと考えています。
成長するトランクルーム市場の中でも大注目の「クラウド収納市場」とは?
――個人向けのトランクルーム市場が活況を呈していますね。
今成 寺田倉庫は以前から、首都圏を中心にトランクルームという形で個人向けの保管サービスを提供していますが、こちらはお客様に現地までアイテム搬入に来ていただくものです。そんな中、2012年「次世代のトランクルーム」として立ち上げたのがwebサービスのminikuraです。誰もが箱単位で倉庫を持てるクラウドストレージです。衣替えの洋服、本やメディアなどの保管に多くご利用いただいています。
仲澤 私はプライベートでも利用しているのですが、魂ガレージは実はフィギュア以外の雑貨も預けられる(※注)ので、DVDや本も預けたりと、幅広く利用しています。以前、一般的なトランクルームを借りてみたこともあるのですが、自宅からそこまで台車を押して収納して来たり取りに行ったりする手間と時間もかかるのと、トランクルームの荷物の山のなかから目当てのものを探し出すのが結構重労働です。これがクラウド収納であれば、その面倒なところを運送業者さんや寺田倉庫さんが全部やってくれるので、非常に便利なサービスだなぁと実感しました。
※預けられる品目については、「魂ガレージ」サイトの「よくある質問」でご確認ください。
姫野 段ボールを開けて写真を1点1点撮って保管するminikuraの個品管理システムは、他社ではほぼやっていない仕組みです。もともと根底にあるのは、当社が法人向けに行っていた文書保管のサービス。契約書を箱でお預かりし、その中の契約書を1枚1枚記録するシステムがあり、それを派生させたサービスなのです。
仲澤 この個品管理サービスが良いのは、マイページで預けたコレクションの写真を確認できて忘れてしまう心配がない点ですね。
姫野 個人向けサービスのminikuraでは、独自のAPIを活用しさまざまな分野の企業と連携してサービス展開をしていこうと考えています。これまでも淀川製作所さんと『ヨドクラウド物置』というゴルフセットやスノーボードなどの保管サービスを行ったり、複数のファッションサブスクリプションサービスをお手伝いしたりしています。
我々はプロフェッショナルである保管の部分を担い、表側はバンダイさんのようなものづくり企業やシェアリングサービスの企業と組む。それにより新しい価値を生み出していけると確信しています。
今成 トランクルーム市場は110%もの伸びを見せており、日本ではまだまだこれから成長が期待されています。クラウド収納市場にもスタートアップ企業が次々と参入し、市場が活性化しているのは喜ばしいことです。
寺田倉庫には、徹底した温湿度管理が必要なワインやアートなどを保管できるノウハウがある。長年の経験とオペレーションは、他社に劣らない自負があります。
バンダイが提供するコトの広がりとminikuraのこれから
――これから魂ガレージとminikuraはどう成長していくのでしょう。
仲澤 バンダイのような製造業は、一般的に「作った商品は売り切る、在庫を残さない」ことを良しとするカルチャー。そういう部分も作用してか、初めは「預かる」を事業とすることに社内の反対論もありました。また、新しいサービスを始めるにも、モノづくりは得意ですが、サービス業的なリソースやノウハウもありません。
しかし魂ガレージは、そうした不安やリスクの部分を、寺田倉庫さんというスペシャリストにお任せできるということで、最終的に社内承認が得られました。
もともとは購入の阻害要因を解消し、すこしでも販売促進につながればと思って始めたサービスでしたが、結果としてサブスクモデルの将来性が見えてきた気がしますので、やって良かったと思っています。今後、他のサブスクにもチャレンジしていきたいですね。
黒川 バンダイではコレクター向けフィギュア以外にも、プラモデルやクレーンゲームのぬいぐるみなども取り扱っています。部屋にたくさん溢れている方もいると思うので、ターゲット層の異なるそういう商材にも展開できるかもしれません。
仲澤 モノづくりを強みとするバンダイは、寺田倉庫さんと組んでみて、いままで欠けていたコトビジネスを実現できるようになりました。良い相性で、私たちにない部分を補っていただいているので、これからもさらに新しいことが始められるのではないかと期待しています。
姫野 バンダイさんはユーザーとのリアルな接点をお持ちです。接客からユーザーニーズを引き出してサービスに反映できるのは、このサービスを普及させていくための大きな強み。その知見をお借りして、ユーザーに刺さるサービスを盛り上げていきたいです。
クラウド収納市場は、流行のミニマルな生活やモノを持たない暮らしの提案、収納サービスが付帯している住宅など、あらゆるサービスに広がりを見せています。minikuraのAPIを活用し、他のパートナー企業様とも新しい価値を提供していきたいと考えています。
今成 レコードやメディア系など、普段は使わないモノを大量に預けられる人が多いのがminikuraの特徴。コレクション系のアイテムを中心に、OEM展開や他企業とのコラボレーションを進めていきたいと思います。