多摩美術大学の学園祭を「minne」と「SUZURI」がサポート。学生の思いに共鳴し、オンラインマーケットを開催
新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止が相次いだ大学の学園祭。オンラインでの開催を決めた多摩美術大学では、学生の作品をオンラインで販売するために、GMOペパボ株式会社が運営する国内最大級のハンドメイドマーケット「minne(ミンネ)」とオリジナルグッズ作成・販売サービス「SUZURI(スズリ)」に協力を依頼。3者がタッグを組み、11月に『minne×SUZURI×多摩美芸術祭オンラインマーケット2020』を初開催した。
学生生活の集大成とも言える一大イベントにかけた思い、両社がサポートをした理由、そして具体的な取り組みの内容について、多摩美術大学の山下氏、「minne」の加藤氏、「SUZURI」の石飛氏に伺った。
初のオンライン開催、例年通りの芸術祭ができない悔しさの中で考えたオンラインマーケット
―多摩美術大学の芸術祭について簡単に教えてください。
山下:多摩美術大学の芸術祭は例年11月に開催されていて、一般の大学と同じようなサークルの発表などのほか、作品の観覧や販売があるのが特徴です。2019年は約3万人が来場しました。
2020年はコロナの影響で開催が危ぶまれましたが、絶対に中止したくないという思いで実行委員会と大学が話し合い、開催4か月前の2020年7月にオンライン開催を決めました。私は1年生のときから実行委員をやっていて、実行委員として最高学年を迎える3年生の芸術祭をすごく楽しみにしていました。中止という選択をしなかった大学には感謝していますが、例年通りの芸術祭ができないことは本当に悔しかったですね。
―そんな中、どういった経緯で「minne」と「SUZURI」とタッグを組むことになったのでしょうか?
山下:オンラインで具体的に何をするのかを考えたとき、学生の作品を販売するオンラインマーケットは絶対にやりたいと思いました。そこで思い付いたのが「minne」と「SUZURI」です。いずれも私が個人的に利用していて使いやすさを知っていましたし、学生に実施したアンケートでも利用者が多かったんです。また絵画や彫刻など、幅広い分野の作品をすべてカバーできるのは両サービスしかありません。それで声をかけさせてもらいました。
―「minne」と「SUZURI」では、最初に話を聞いてどう思いましたか?
加藤:お問い合わせ窓口からご連絡をいただき、お打合せをさせていただいた後、「minne」のチーム全体が「絶対に何らかの形で一緒にやりたい!」という気持ちになりました。「minne」は「ものづくりの可能性を広げ、誰もが創造的になれる世界をつくる」というミッションを掲げています。オンラインで芸術祭を実施したい!という山下さんからのご提案は、まさに芸術祭の可能性を広げ、新たな芸術祭の形を作ろうとしていると感じました。コロナ禍でも芸術祭を形にしたいという学生さんたちの期待に応えたいと思いましたね。
石飛:「SUZURI」も芸術大学の出身者が多いので、話を聞いて盛り上がりましたね。サービス的にもオンラインで完結できるという特性がありますし、昨年はコロナの影響を受けた店舗やイベントを支援する制度を設けていたため、その想いとも合致して嬉しかったです。実は個人的にも多摩美さんの芸術祭には毎年行っていて、コンテンツ力の高さは肌で感じていました。だからこそ「オンラインでも絶対に成功させたい、少しでも協力したい」と思いました。
―オンライン販売について、学生から不安の声はありませんでしたか?
山下:最初にオンライン販売の方針を伝えたときには「自分の名前や住所などの個人情報を公表しなければいけないのか」「送料はどこが持つのか」といった心配の声はありました。またお客さんの個人情報を預かることも不安に感じていたようです。ですがそれも「minne」さんと「SUZURI」さんのサービスを使うことで解消できました。そういう面でも協力いただけて助かりました。
逆にオンライン販売で「遠方の友人や祖父母にも買ってもらえるかも」「ネットでバズればファンが増えるかも」という期待の声もありましたね。
SNSの活用、ストーリー性のある特設サイト、購入につなげる複数の導線を用意
―オンラインマーケットの存在をより多くの人に知ってもらうために、どのような工夫をしましたか?
加藤:「minne」上に芸術祭の雰囲気を味わってもらえるような特設ページを作り、出品してくれた学生さんの作品をより多く紹介できるようにしたほか、SNSを活用するなど、より多くの方に作品が届くよう意識して企画設計を行いました。具体的には出品者である学生さんたちに活用いただけるようなハッシュタグを用意し、山下さんと協力して学生に向けた説明会でハッシュタグを事前に共有するなど、学生さんの投稿促進になるようなことをコツコツ行っていましたね。
各発信を通して、情報を受け取った人が購入してくれる可能性もありますし、オンラインマーケットだけではなく「今年は多摩美がオンラインで芸術祭をしている」と注目されてほしいとも思っていました。結果的に各メディアで、多摩美さんのWeb芸術祭自体が紹介されているのを拝見したときは、とても嬉しかったですね。
山下:多摩美側では、実際の芸術祭の雰囲気を体現するために学校全体の地図をイラストにした芸術祭の特設サイトをつくりました。それぞれの建物や場所をクリックすると、例年その場所で行われている催しのページに遷移する仕組みになっていて、作品を販売している広場とオンラインマーケットをリンクさせて導線を作りました。
石飛:サイト訪問者のことを意識したストーリー設計がされていて、それを見た私たちもテンションが上がりましたね。ほかにもバンド演奏の生配信ページやYouTubeで山下さんたちがラジオ配信をしたり、コンテンツが充実していて、オンラインならではの取り組みだったと思います。
―実際に学生が販売したものと普段「minne」で販売されているものと、何か違いはありましたか?
加藤:普段「minne」の販促企画等で作品募集をする際、販売している作家・ブランドさんの母数が多いアクセサリー類が比較的に多く集まる傾向があるのですが、多摩美の皆さんの作品は絵画や置物が多かったのが印象的でした。書きたいものを書いて、作りたいものを作って、それを芸術祭の3日間で販売する、という芸術祭に参加している学生さんならではの、スタイルや熱い気持ちが伝わってくる作品の数々に圧倒されました。
石飛:個性が本当に幅広く、統一感がないのが逆に良かったですね。
山下:ありがとうございます。今回は「minne」さんと「SUZURI」さんを介して販売を行ったので、学生にとっても在庫管理や受注生産がしやすかったです。
―ただ誰もが使えるサービスであるだけに、一つの大学を取り上げると不満を招くおそれもあったのではないですか?
石飛:サービス上では、多摩美さんだけを取り上げると不平等となってしまうため、「学生さん特集」を組んでその中でアイテムをご紹介させていただきました。
加藤:「minne」をご利用いただいているユーザーさんへの訴求方法などは、意識して調整していました。実際に企画が公開された時は、購入者さんからの嬉しい反響以外にも「minne」で活躍されている作家・ブランドさんたちが、学生さんたちへの応援メッセージをSNSで発信してくれたのは、とても嬉しかったです。
学生と企業での取り組みならではのトラブルは?コミュニケーションで乗り越える
―「minne」と「SUZURI」では企画を進めていく中で、特にどのようなことを重視しましたか?
加藤:「作る楽しみ」は大学で学びますが、「販売する・売れるという喜び」はそこから一歩踏み出さなければ体験できません。その喜びを1人でも多くの学生さんに感じてもらうためには、企画全体をどう設計すればいいのか、その点は常に考えていました。
石飛:例年の芸術祭が行われる多摩美の八王子キャンパスは、どちらかといえばアクセスしやすい場所ではありません。そこでこの企画をこれまでリアルでアプローチできていなかった人たちや、地方在住の方にも多摩美さんのクリエイティブを届ける機会にするという意識は強く持っていました。
―山下さんにとっては、企業と一緒に進めていく体験は新しいものだったかと思います。印象に残っていることはありますか?
山下:システム変更など大変そうだと思っていたことが意外に早くできたり、逆に簡単にできると思って頼んだことが手間のかかることだったり、実際に現場で働いてみないとわからないなと感じることがいくつもありました。
ただ実は大きな失敗もあって……。最初の方だったのですが、事前に「minne」さんと「SUZURI」さんへの確認が漏れており、3者の共有がうまくできていなかったことがあったんです。そこの意思疎通がしっかり取れていなかったことで、ご迷惑をおかけしてしまい、みなさんに平謝りしました。
加藤:山下さんが行ったことは、全て芸術祭に参加する学生さんを思っての行動でしたので、むしろ私が最初からもっと詳細部分まで確認すべきだったと反省しました。最初のお打合せから、実際にオンラインマーケットを行うまで、山下さんとは一度も対面では会わず、オンラインのみでコミュニケーションをとっていました。コロナ禍だからこそ、オンラインでもコミュニケーションをより密にとることの重要さを改めて感じる機会になり、その後はより密に、そして丁寧にコミュニケーションをとるきっかけになりました。
山下:すごく密にコミュニケーションをしていただいて、その中で私たちがやりたいことを実現するために、学生では考えもつかないような提案をいろいろしてもらいました。正直「こんなにすごいことをしてもらっていいのかな」と恐縮しましたしけど、非常にありがたかったです。
予想以上の反響、オンラインでも表現できた“熱量”
―実際の販売実績はいかがでしたか?
石飛:流通金額は想定以上になりました。学生さんが特設サイト上で自身を表現し、お客さんが学祭を楽しむというストーリーの先に購入体験を設定した、という仕組みがうまく回った結果だと思います。また、オンライン開催になったことに対しての想いや成功させるための熱量が特設サイトのコンテンツを通して伝わってきましたし、そういった想いに対して応援や支援をしたいという文脈も加わったのかもしれません。
山下:学生からもいつもより売れたという声がよく聞かれました。当初はお祭りならではの“お財布のゆるみ”が期待できないため、あまり売れないのではないかと心配していたのですが、リアルな芸術祭よりも、多くの人に見てもらえたということが売上に影響したようです。お客さんからも「どこからでも買えて本当に便利」と言われました。みんなの作品が売れて、私もすごく嬉しかったですね。
―今回の取り組みで、ますますECの可能性が広がりましたね。
加藤:リアルのイベントは大学など決められた場所に行かなければいけませんが、オンラインであれば日本全国どこからでも出品・購入ができます。もちろん、オフラインでしか味わえない現場の熱量や空気感はありますし、その場でしか感じられない体験は大切だと思います。今回の取り組みで違った形ではありますが、オンラインでも学生さんたちの熱い思いは表現できると実感したことは、私たちにとっても大きな学びになりました。。
既に別の大学からも一緒にやりたいとお声がけを頂いています。今後も学生さんとの取り組みはどんどん広げていきたいですね。
石飛:WEBとリアルの境界線はますます狭まっていくと思います。そして双方が表裏一体となる、今回のお取り組みではその片鱗が見えた気がします。今後もECを通して、リアルでしかできないと思われていることに対しての既成概念を壊していければと思っています。
山下:作品を生み出すことは、誰かに見てもらったり買ってもらったりすることと切っても切り離せません。2020年の芸術祭は、ECがなければ中止になっていたと思います。諦めないですむ、それは私たちにとってすごく嬉しいことでした。次回の芸術祭がリアル開催になったとしても、オンラインも活かしていければいいなと思っています。