ECでクロスボーダー~越境ECが活況な今だからこそ理解しておきたいこと~

ECのミカタ編集部 [PR]

コロナ禍で消費者行動が変わり、EC市場は加速度的に進化した。ECをやるなら越境ECもと、ここ数年で参入したEC事業者も多いのではないだろうか。ただ国内ECとは違う、越境ECならではの課題が多く、参入したもののなかなか結果が出ないという話も耳にする。
では越境ECを始めるうえで本当に必要ことは何だろうか。膨大な情報よりも、わずかでもいいのでリアルな情報を知りたい。

4回にわたってお届けする本連載では、株式会社4PX EXPERESS JAPANの代表取締役である謝郁安氏に、越境ECとは何か、越境ECを行ううえでの問題点、想定できる課題など、これから越境ECを始めるビギナーや、越境ECを始めたものの思うような実績が上がらない企業に向けて越境ECのノウハウを、事例を交えながら伝えていく。

越境ECの定義とは「クロスボーダーのEC」

越境ECの定義とは「クロスボーダーのEC」

2004年に中国で創業した4PX EXPERESSの日本法人である株式会社4PX EXPERESS JAPAN(以下、4PX)は2016年に設立。越境ECを専門に、世界規模のロジスティクスサービスを提供する物流会社で、世界26カ国に国際物流・倉庫の拠点を持ち、中国から全世界に配送する越境物流に強い。

社名にはクロスボーダーを完璧にサポートする「For Perfect X-border」という意味が込められている。代表取締役の謝郁安氏は、「後で翻訳されて越境ECという言葉ができただけで、越境ECとは国と国をまたいだクロスボーダーでECをやろうというところが原点。その意図を社名に込めています」と話す。

越境ECという言葉が定着した現在では、EC事業者や消費者も含め大半の人が越境ECを「ECを通して行う国際的な取引」と理解しているだろう。柔らかく言い換えれば「ECで海外から商品を買う・売る」だろうか。しかし謝氏は「越境ECの定義が広がりすぎてしまった」と指摘する。

「自社のある国内に設けた倉庫で商品を在庫せず、他国で商品を在庫しておいて、そこからエンドユーザーに直送する。本来の意味は自社で在庫を持たないことです。中国の企業が日本法人をつくって、日本法人で在庫している商品をECに出品するというパターンや、単純にECを介して海外に商品を販売しているケースまでまとめて越境ECとされるようになったと感じています」(謝氏)

越境ECの現状「市場拡大でも遅れる日本」

越境ECの現状「市場拡大でも遅れる日本」

消費者のニーズ、物流をはじめとする越境ECサービスを提供する事業者の増加、越境ECの市場拡大についてはここで述べるまでもないが、Report Oceanが発表(2022年3月25日)したレポートによると、越境EC市場は2022年から2030年にかけて26.2%の成長率が見込まれている。

特に4PXの本拠地である中国は越境EC市場において、世界トップレベルの規模を誇っている。2015年の設立以降、越境EC総合試験区を中国全土に拡大を進め、対日本での取り組みでいえば、日本産酒類の取り扱いを目指して関税の免除も検討されている。拡大の勢いは止まらない。

しかし日本はどうだろうか。よく指摘されるのが、モバイル決済や物流トラッキングへの対応の遅れだ。日本は国土が狭く、国内物流の便利さに慣れすぎてしまったのか、「今日注文したら明日届く」という感覚が染みついている。しかし大陸移動を余儀なくされる越境物流では状況が常に変化することもあり、物流トラッキングが非常に重視される。倉庫でいつ梱包して、いつ発送し、いつ配送業者に渡ったのかを徹底して管理されるが、対応できる体制・設備が整っていない日本企業は多い。

日本における越境ECでの変化「消費者の意識変化」

そんな日本でも近年、越境EC市場は拡大されてきた。背景にあるのは、「日本人特有の感覚が変わったこと」が大きいと謝氏は感じているという。

以前の日本ではメイド・イン・ジャパンへのこだわりが強かった。海外で製造された商品が、海外から直接届くことに抵抗感があり、越境ECを利用する消費者が圧倒的に少なかったことが、日本の越境EC市場が後発となった要因の一つといえる。そうした国産への強いこだわりも徐々に軟化し、Amazonなどのプラットフォームを利用する人が増え、同じ商品なのに日本国内の倉庫から発送されたものよりも、海外のある倉庫から発送されたもののほうが圧倒的に安いと、消費者が越境ECを使いこなすようになった。

ただメイド・イン・ジャパンへのこだわりは、4PXが本社を構える中国にもあった。2015年の新語・流行語大賞にも選ばれた「爆買い」という言葉は、中国から来日する旅行者が日本製の商品を大量購入するというブームを称して使われた。当時、爆買いされていた商品の一つに紙オムツがある。中国では2014~2018年くらいまでは越境ECを介して日本から紙オムツを購入していた。日本企業の製造拠点が海外にあり、同じ工程を踏んで製造された商品が手に入ったにもかかわらず、日本国内の製造拠点で製造された商品でなければ購入されなかった。そうした社会現象ともいえる出来事があってから、特に中国では保税区(外国からの輸入品を、税関を通す前段階で関税を保留したまま補完しておける場所)商品を発送するいわゆる保税区モデルの整備が加速した。

「最終的には、各国や地域に置いた倉庫に商品を在庫するというところに行き着くと思っています。そのほうがコストダウンできる」と謝氏は考えている。日本から世界に直送することもあるが、増え続ける物流量や社会情勢の影響を受けて海運や空運が遅れることも考えられる。その反面、配送スピードは「より速く」を求められるのだ。各国で在庫するほうが確実と考えるのもうなずける。

とりあえずでは難しい「越境ECで何をするのか」

とりあえずでは難しい「越境ECで何をするのか」

4PXでは個数の少ない配送にも対応しているので、大手企業から個人など依頼者側の特性はさまざまだが、「とりあえず越境ECをやりたい」という要望だけが先行し、越境ECで何をするのかに目が向いていない依頼者も少なくないという。

謝氏はヒアリングの席で最初に、「越境ECをやりたいのですかではなく、商品を海外に直接配送したいのか、もしくは海外の倉庫に在庫してそこから出荷したいのか。どちらですか」と確認しているという。商品カテゴリーによってコスト削減につながる選択は変わってくるし、関税も変わる。国・地域によっては申請が簡単なものもある。そうしたことを踏まえて総合的に判断しなければ最善の選択はできない。

「越境ECをやりたい」だけでも越境ECを軌道に乗せられるのは、コンサルタントなど支援サービスにサポートを依頼できるだけの資金的な企業体力があったり、海外ビジネスについて多少知っていて、越境ECで売上を上げるという課題に目が向いている企業に限られるのかもしれない。

「本当にアドバイスが必要なのは個人や小規模な越境EC事業者や、コロナ禍の影響でインバウンドが見込めないために、越境ECを進めることをトップから急に言われた現場の担当者です。越境ECを始めるためには、企業が抱えている問題の本質を見極めて、適切に問題解決をしていく必要があります。そのうえで越境ECの目標を決めて、EC事業者様と我々で一緒に越境ECを進めていきたいと思います」(謝氏)

越境ECを始める前に「確認すべき7カ条」

越境EC支援サービスをどの事業者に依頼するのかを考えたり、見積もりを依頼する前に「やるべきこと」を謝氏にうかがった。

例えば配送先となる国の言語が分からなくてもHSコードがあれば、各国の関税率を確認することができる。商品を配送するのに関税がいくらかかるのかを把握する程度のことは、調べようとする意志があれば容易なことだ。仮に越境ECに初挑戦であっても、事前に調べられる範囲のことだけでも把握しておけば、越境EC支援サービスを提供する事業者と打ち合わせに進んだ際に、自分たちが依頼しようとしているサービスへの理解度がまったく変わってくる。初挑戦だからこそ、そうした下調べを行っておぼろげながらも全体感を把握し、自分たちが越境ECで何をしたいのかを確認しておくことが大事だ。

これから越境ECに挑戦する時に、最低限社内やプロジェクトチームで検討・整理しておくべき項目を7つ挙げておく。参考にしていただきたい。

【越境ECを始める前に確認すべき7カ条】
①なぜ越境ECをやるのか
②誰に商品を販売したいのか
③どのカテゴリーの商品を販売するのか
④どの国、あるいは地域を対象とするのか
⑤どのプラットフォームを利用したいのか
⑥何を重視するのか(物流スピード、品質、コスト)
⑦国内ECの出荷数はどの程度か。これ以上拡大は見込めないのか


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