EC業界で法律にどう向き合うか eBay Japanに聞く
世界最大規模のオンライン・マーケットプレイス 「eBay」が日本で運営するインターネット総合ショッピングモール「Qoo10」。そのバックオフィスでは、法的な基盤をより強固にし、確たる体制を築き上げている。eBay Japan合同会社の社内弁護士・土田泰弘氏に、その取り組みについて聞いた。
eBayは、「知らない人同士が信頼し合うこと」を起点に誕生したビジネス
──まず、eBayとはどんな会社なのか教えてください。
土田泰弘氏(以下、土田) eBayは、1995年に創業者であるピエール・オミダイアが、「知らない人同士が信頼し合った中で物の売り買いできないか」という考えからスタートしたビジネスです。世界初のオークションサイトと言われており、ECの草分け的存在と言えるでしょう。その考えをもとにECのシステムを作り、多くの人が利用して売買できるようにし、その結果eBayの規模はどんどん拡大。現在では世界190の国と地域で展開し、出品数は約15億点、バイヤー数は1.34億人、取引高は約739億米ドルとなっています。規模が拡大しても、ポリシーは変わらず、創業の精神である「Trust(信頼)」をとても大切にしている会社です。
この中でQoo10は2018年にグループ会社となり、2018年時点での会員数は1000万人ほどでしたが、現在は2300万人、出店数は約2万1400店にまで成長しています。
──eBayの中で、土田様が所属するのはLegal&GRという部署ですね。
土田 はい。Legal&GR は、Legal(法務)とGovernment Relations (ガバメント・リレーションズ) を指します。
eBayの同部署はアメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋地域などのメンバーから構成されています。法律面でのあらゆる問題点について、他国のメンバーとの意見交換が可能であることが、私たちの強みの一つだと思います。海外にいるリーダーとは、毎週、定期的に情報交換をしているので、海外の法的な変化・情報をリアルタイムで収集できます。
法務の大きな使命は、「リスクのコントロール」
──その中で、土田様はどのような業務を担当されているのですか。
土田 法務については、総括的に言えば、会社がスムーズにビジネスを行えるように、法律上のリスクをコントロールするのが使命といえます。具体的には、社員に対しビジネスに関連する法律に関する注意喚起やアドバイス・教育を行ったり、締結する契約の内容を精査したり、利用規約をアップデートするなど、さまざまな法律問題に携わります。利用契約を適切なものにすることは、出品者・出店者や購入者の利益になり、ひいては会社の円滑な運営に資することになります。個人情報、コンプライアンス、知的財産、労務問題等も扱います。
──GR(ガバメント・リレーションズ)はどのような役割を果たすのでしょうか。
土田 GRは、新しい法律の情報を入手し、また、政府との連絡、政策提言、同業他社との情報交換などを行います。一般的には、Legal(法務)とGR(ガバメント・リレーションズ)は別の部署で担当することが多いのですが、eBay Japanの場合は私が両方を担当することで、どちらについても理解できるという利点があります。
「Trust(信頼)」をキーワードに取り組んでいる
──Qoo10は、最近、大きく会員数を伸ばしていますが、どのようなルールを作ってきましたか。
土田 より信頼していただけるショッピングモールにするため、カスタマーセンターでお客様の声を丁寧に集め、その声に対応することを徹底しています。また、出店者や出品の審査も徹底し、監視チームが定期的にモール内をパトロールしています。
──もし出品者にルール違反があった場合はどのような対応をするのでしょうか。
土田 すぐにその出品者に警告し、場合によっては販売停止にしています。法務部として、複雑な事案について対処するためのアドバイスも行います。「Trust(信頼)」をキーワードに、モールへの安心感を高めるためショッピングモール全体の品質向上に取り組むことが、会員数の増加につながると信じています。
──出店者と購入者の保護については、どのように取り組んでいらっしゃいますか?
土田 出品者のサポートはさまざまな形で行っていますが、法律関係で言えば「こんな法律が今問題になっていますよ」ということを出店者専用のWebサイトで適宜注意喚起するようにしています。法律というのは、社会の変化に対応して変わります。次々と新しい法律や規制ができてきますので、そうした情報のアップデートをすばやく行うことを重視しています。また購入者の保護に関しては、不良品が届いた場合等は、基本的には出品者に対し適切な対応を促し、出店者の対応次第では警告や取引停止なども行っています。
──「個人情報保護」は重要課題だと思いますが、Qoo10の基準をお聞かせください。
土田 個人情報の保護については、個人情報保護法に基づいて最大の努力をするのは当然のことですが、同時にeBayグループ全体に適用されるプライバシーについての厳格なルールにも従います。お預かりしている個人情報を第三者に提供することは原則として禁じられていますし、法律で認められた理由で提供する場合は厳格な手続きに則って行います。非常に厳格に定められた細かいルールに則っている点も、eBayの強みの一つです。
EC業界全体をよくしていく基盤作りに貢献
──今後の展望について教えてください。
土田 今、eコマースビジネスは日々変化していて、新しい広告や決済の仕方が登場してきています。そこに潜む数々のリスクが顕在化しないための、リスクのコントロールは必要不可欠です。Qoo10でも今、テレビショッピングのような「Shocking Shopping Show」(Qoo10ライブショッピング)をオンライン上で行うなど、新しいことに次々と取り組んでいます。各担当者が法律をしっかり理解したうえで、自由にいろいろな企画にチャレンジしていけるような基本のルールを作るのも、法務の使命。創造的な側面をサポートするのも、法務の役割です。
──スポーツにおけるレフリング(審判)の役割は、試合中の反則に対して警告することではなく、平等を重視して、プレーヤーの最高のパフォーマンスを引き出すことだといわれています。法務もそのような役割なのですね。
土田 その通りです。それに加え、EC業界全体をよりよくしていくために、公平性や透明性が確保されたスペースを作るための取り組みを行っていきたいと考えています。