ヤマダデンキのEC戦略 後発だからこその強みとは? 顧客はほとんどOMO型「デジタル会員」

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

「ヤマダデンキ」といえば、家電量販店として初となる「全国47都道府県への店舗展開」を実現しており、2001年以降、家電量販店として「業界1位」の売上高を誇っている。つまり、「実店舗がとても強い家電量販店」だ。一方で、「購入者からの投票」「2023年の売り上げや受注件数」などを主な基準に優れたショップを選出する「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー2023(楽天SOY2023)」で、総合グランプリに輝いており、ECにおいても存在感が増してきている。では実店舗での強さを、ECでどのように発揮しているのか。また、楽天市場にひしめく家電量販店の中で、なぜ売上を拡大できているのか。その強さの理由を、株式会社ヤマダデンキのインターネット事業部 事業部長 後藤賢志氏に直撃し、前後編でお伝えしていく。
前編では実は「後発」だったヤマダデンキのECサイトの強みを聞いた。

ECでは後発、だから学べることが多かった

──ヤマダデンキは早くから全国展開されていますが、EC参入はどちらかというと後発ですよね。

そうですね。ヤマダデンキは都市部以外の店舗は小型店も多く、「家電」に特化していることが特色で、ネットはあくまでもお客様の利便性を上げる販売チャネルの一つとして始めたという背景があります。
競合他社は、店舗スペースに限りがあるがゆえに、文房具や洗剤などの生活用品といった店舗に置いていない商品を扱うなど、「ECが店舗のスペース不足を補完する役割」を果たしている面がありますので、同じECでも狙いが少し違うといえるかもしれません。とはいえ、スタートが遅かった分、早くからECに参入し切り拓いてきた他社ECからは、学ぶことが多くありました。

──どのようなことを学んだのでしょう。

競合他社がバーコードを全商品に付与し、ネットショップと店舗の価格が同じだと示すのを見て「うまい!」と思いましたね。そもそも店頭ではプライスカードが小さいので、商品説明はポップくらいでしかできないのですが、バーコードを読み込んでもらい自社サイトに誘導できたら、情報は無限大に表示できるようになるわけです。
例えば無線ルーターが出始めたばかりのころは、「(外観はほとんど変わらないのに)値段がこんなに違う。何が違うのか」という疑問を抱かれるお客様が大勢いらっしゃいました。Webサイトであればその点、十分に説明できるので、お客様・店舗双方にとって効率的だなと感心したんです。

店舗とECでの「会員情報統合問題」がなかった

――なるほど。では後発の「ヤマダデンキのネットショップ」の特長はどういうところにありますでしょうか。

店舗でしか買い物をしないという方ももちろんいらっしゃいますが、お客様のほぼ全員が、弊社サイトで会員登録されている「デジタル会員」ということですね。

――よく聞く「会員情報統合問題」がなかった、と。初めからOMO型の会員にできていたのは強いですね。

はい。初めから顧客情報が統一された状態でした。ですからECで獲得したポイントが店舗でも使えますし、逆も同様ですので、お客様にとって条件の良いほうでお買い物をしていただけます。それが15年以上前、ECを始めた当初からできていたのは大きいですね。

ヤマダデンキの「ヤマダデジタル会員」はWebでも店舗でも使える

6年くらい前から店舗出荷・配送に変更 サポートも受けやすいと顧客に評判

──最初から店舗とECが融合した状態で始められたと。在庫はいかがでしょうか。変化はありましたか。

ECをスタートしてから、売上拡大に伴って、以前はモールで売れた商品をセンターで集約して出荷していました。それを、6年くらい前から店舗出荷・店舗配送に変更しています。ヤマダデンキは全国に店舗があるので、店舗出荷の場合、お届け先に近いエリアの店舗から配送できるので、EC専用倉庫から配送するよりも距離が短くなり、配送費が削減できます。またEC用の倉庫を構えていると、計画通りに売れた場合はいいのですが、なかなか動かない商品が出た際に、売れそうな店舗に在庫を移動するため、移動コストが発生します。その点、店舗配送の場合はそれが抑えやすいんです。お客様としても、お近くの店舗からの配送なら店舗のサポートも受けやすいので安心です。

――お客様、店舗、双方にメリットが大きいですよね。全店で出荷されているんでしょうか。

仕組みとしては全店から出荷可能ですが、実際には出荷機能を持った店舗を少しずつ増やしている段階です。売上や市場規模に応じた人員や在庫の持ち方を、全店舗で調整しなければなりませんので。例えば都内でも池袋(LABI1 LIFE SELECT 池袋)や新宿(LABI 新宿西口館)などの大型店と、赤羽や江戸川などの店舗では、在庫も人員もかなり差があります。

――EC店舗の売上への影響はありますか。

ヤマダデンキグループのストアブランドの「ツクモ(TSUKUMO)」の場合、店舗は北海道・東京・名古屋・大阪・福岡がメインなのですが、出店すると当該エリアのECの売上、受注件数が確実に増えるという傾向が、データからわかっています。地方都市なら売上構成比が2~3倍に、大都市圏でも1%~2%は上がります。ヤマダデンキはECを始めた時はすでに全国にあったので、そういった動きが見えなかったと思うんです。小さい規模だから見えることもあるんですね。

──実店舗を出店したらECの売上が下がるかと思いきや、同時に増えるというヤマダデンキの運営戦略。後編では「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー2023(楽天SOY2023)」で総合グランプリに輝いた理由と、そもそも自社ECが充実している中でなぜモールを活用しているのか、その理由と施策をうかがいます。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■桑原恵美子
フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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