「楽天市場SOY」1位のヤマダデンキ、モール出店は「自社サイトが弱いから」!? 弱みを強さに変えるには

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー2023(楽天SOY2023)」で、総合グランプリに輝いたヤマダデンキの強さに迫るインタビューシリーズの後編。前編ではヤマダデンキのECの始まり、ネットショップの特長について聞いた。本記事ではヤマダデンキがモールに出店する理由や楽天店舗の運営体制、今後の展望などについて、株式会社ヤマダデンキのインターネット事業部 事業部長 後藤賢志氏に直撃した。

ヤマダデンキがモールに出店する理由 しているのは「地道な誘導」

――店舗数が家電量販店の中でも最多のヤマダテンキ(※)が、自社サイトもありながらさらにモールに出店されている理由は何でしょう。

理由は明快で、自社サイトが弱いからです。「ヤマダデンキもオンラインショッピングやっています」ということをお客様に知っていただくために、出店しました。

──そうなんですか!? ちょっと意外です。
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例えば、楽天市場ではSEO対策やシステム改修に多額の投資をしています。それを自社でやろうと思ったら、どれだけ費用がかかることか。そういう面を、楽天さんにお任せできるのは大きなメリットです。手数料だけを見て高いと感じる人もいるかもしれませんが、SEO対策を含めた広告宣伝費とシステム改修費、それを管理する人件費も含めて全部お任せできているわけです。そう考えると全然高くはない、逆に安いくらいだと思います。

――モール出店によって、自社ECの顧客が増えるなど、効果を感じることはありますか。

モールから直接、自社ECに誘導することはルール上できませんが、2つの併せ技で、ある程度の効果はあると考えています。
まず1つはモール内において「なじみのある名前の店舗」として安心して購入してもらいやすく、そこから何かの機会に自社ECに来てもらえる可能性が高まるということです。楽天市場を例に挙げると、楽天市場で商品──例えばトースターだったり、ドライヤーだったり──を検索すると、1ページ目から数ページ目に、ヤマダ電機 楽天市場店で扱っている商品が出てきます。もちろん競合他社さんやEC限定で展開されている家電量販店さんの名前も多数出てきますが、お客様の中には「ヤマダデンキなら聞いたことがあるし店舗も知ってるし安心」という理由で購入してくださるケースも多々あります。こうしたお客様が、自社ECに来てくれるようになるわけです。

──確かに、楽天市場で購入した後に、「公式ECの在庫はどうなっているのだろう」と思って見に行くということは確かにありますね。

もう1つはモールでご購入いただいた場合も、前述のように店舗から発送をしますので、そこで配送やコールセンターの対応のクオリティを感じてもらえるということです。つまりある程度たくさんのお客様にご利用いただくことで良さを伝えて、自社サイトでも買ってもらいやすくするという、地道な誘導をしているといえます。

※2024年3月期決算説明資料によれば、ヤマダデンキの直営店舗数(国内)は、975店舗

単価の高い家電品、常に「次のお客様につながるように」を意識しリピート顧客獲得へ

――とはいえ家電は単価が高いので、リピート顧客を獲得するのは難しい面がありますよね。その対策は?

まだ社内に浸透していないので、個人的な考え方と言ったほうがいいかもしれないですが、家電は単価が高いからこそ、「リピート顧客」を獲得しやすいと、私は考えています。確かに1人のお客様が家電を買われたら、壊れるか機能が古くなるかするまで買い替えはしません。そう考えるとリピートするのはすごく長いスパンです。ただ逆に、安いものではないからこそ、一度信頼していただければ、それが他のお客様に伝搬する率も高くなるのではないでしょうか。

例えばビデオカメラを買いに来てある店員を気に入ってくれたとしたら、次に父親がテレビを買いたいといったときに、自分が信頼している店員を紹介してくれます。その店員が一生懸命接客してお父様が満足されたら、今度はお父様が友達や同僚を連れてきてくれる。そういうことを、意識しないでやるのと、「このお客様に次のお客様を連れてきてもらえるように」とイメージしながらやるのとでは、接客行動の精度がまるで違ってきます。だからこそ、販売員だけでなくコールセンターのスタッフも、配送スタッフも、常に「次のお客様につながるように」ということを共有してやっていくことが大切だと考えています。

――そういう「次のお客様につながる接客」が、「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー2023」総合グランプリ獲得の理由なのでしょうね。

とはいえ、楽天市場での販売に関して、本当に、特別なことはしていません。スタッフは毎日、前日に自分が予想した通りの商品の動きにならなかった場合には、仮説でもいいから答えが出るまで要因を調べて、「これだ」ということが分かったら、それに対して対策をする──これを繰り返しやっているだけなんですよ。

実は楽天市場の担当者は2人だけ 「競争より連携」が成果を生む

――毎日の分析となるとSKU数も多いのでなかなか手がかかりそうですね。楽天市場の担当者は何人ですか。

基本、実際に日々の運営を担当するモール専任の責任者は2人ほど。もちろんそれを手伝っているスタッフが商品カテゴリー別にいるのですが、それはモール専任者ではなく、事業部全体を見ている部署です。他には例えば入金管理や受注管理、楽天市場に連携するシステムの調整などを管理している部署は別にあります。

――そんな少人数の体制でもグランプリが取れた理由はなんでしょうか。

弊社の場合、自社ECやその他さまざまなモールの担当者が毎週、一堂に会して報告会議を行っています。会議では些細なことまで連携しています。例えば「うちはたまたまVRヘッドマウントの在庫が十分にあって、連休前だから特需が来た」とか、「競合店に価格を下げられて、出だしで落とした分を取り返せなかった」とか……。それに対してそれぞれの担当者が「自分はこうやっている」とアドバイスしたり、「うちのサイトもそういうことがあるかもしれないけど、もしそうなったらどうしたらいいか」というようなことを話し合ったりしているんです。
会議以外でも、それこそランチタイムに自然とそうした話が出てくる。モール同士で競わせるようなことは一切行わず、情報を共有したり連携したりできていることが、良い結果を招いたのかもしれません。

――それぞれが「どうしたらもっとよくできるか」をまじめに考えることができているということですね。今後、ECで取り組みたいことがあればぜひお聞かせください。

これまでずっと家電にこだわってECでも販売してきましたが、自社ECと各モール店舗を合わせるとそれなりの規模になってきましたので、そろそろ家電だけではないスタイルを目指してもいいかなと思っています。生活用品など、ネットではまだ販売していませんが、店舗では販売しているものもありますし、都市型の店舗と郊外型家電専門店ヤマダデンキ テックランドでは品揃えがそもそも違います。こうした店舗商品を生かせるような、家電以外のところでヤマダデンキが取り扱えるものに、どんどんチャレンジしていきたいなと思います。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■桑原恵美子
フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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