冷凍宅配食ブランド「三ツ星ファーム」が全面リニューアル ラインナップ大幅拡充で「日常食の総合EC」へ

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桑原 恵美子

(左から)株式会社イングリウッド 三ツ星ファーム ブランドマネージャー 本間悠也氏、管理栄養士 Shie(シエ)氏

需要の高まりとともに競争が年々激化している、冷凍おかずのサブスクリプションサービス。その中では2021年6月スタートと後発ながら安定した成長を続けている「三ツ星ファーム」が、このたびサービスを全面的にリニューアルすると発表。どのような課題にどのような対応をしようとしているのか。2025年11月12日に開催された「三ツ星ファーム サービスリニューアルお披露目会」の内容を紹介する。

サービス開始4年余りで累計出荷数3500万食を達成

三ツ星ファームを運営している株式会社イングリウッドは、ECコンサルティングを得意とするデータテクノロジー企業でもある。同社は2005年にアメリカからの輸入品を販売するEC事業を主な事業として設立し、その後、複数の自社商品を販売。そのノウハウをもとに2011年から、小売り領域に特化してDX化を支援する事業をスタートし、年商100億円を超える企業に成長した。冷凍宅配食ブランドの「三ツ星ファーム」はコロナ禍真っただ中の2020年から企画を開始し、2021年6月にサービスをリリースした。

株式会社イングリウッド 三ツ星ファーム ブランドマネージャー 本間悠也氏は当時を振り返り、「コロナ禍で外食市場が閉じていたため、『中食』と呼ばれる日常食の通販マーケットが急拡大しました。その分野で、弊社がEC黎明期から様々な事業で培ったノウハウを活用できるのではと考え、食に的を絞ってサービスを設計しました」と語った。

三ツ星ファームはサービス開始から2年で累計販売500万食を達成、2年半後には同1000万食を突破し、2025年9月で累計出荷数3500万食を突破している。累計会員数は2025年9月で30万人を突破しているが、当初ターゲットとして想定していた20代の独身男女や共働き世帯ばかりでなく、40代~50代の独身男女や70代~80代のシニア層など、想定より上の世代にも利用者が多い。また男女比では4割が男性。予想していたよりも幅広い層に支持されていることがわかった。

2025年9月で累計会員数が38万人を突破。顧客属性を見ると男女比では男性が4割近くを占め、年齢層も幅広い

急成長の理由として本間氏が挙げたのが、「おいしい」「身体にいい」「簡単・便利」という訴求ポイント。「おいしさ」では四谷の和食割烹「鈴なり」の村田明彦氏が監修し、150種類以上の豊富なメニューを展開して選べる楽しさを提供している。「身体にいい」ではおかずプレートに「三ツ星基準」を設定し、糖質25g以下、カロリー350kcal以下、たんぱく質15g以上を設定。そして「簡単・便利」では、利用者の日常食の課題解決につながる商品を提案してきた。

「例えば『お子様メニュー』は『忙しい時に温めるだけでそのまま子供に出せるプレートが欲しい』というお客様の声から生まれた商品。こちらは『三ツ星基準』をあえて取り払い、栄養バランスがお子様にとって最適になるように設計していますが、非常にご支持いただいています」

「一人鍋は材料を揃えるのが意外に面倒」という声に対応した「お手軽鍋セット」

そのほかにも、冬季限定商品として人気なのが、1人分を作るとなると意外に手間がかかる鍋料理の1人分の材料をセットした「お手軽鍋セット」。また家族には既製品ではなく手作りのご飯を作りたいが、一から手作りする余裕がない時向けに、手軽な調理であっという間にメイン料理を完成させられる「救世主ご飯シリーズ ミールキット」も人気だという。

注文方法もWEBとアプリから簡単にでき、電子レンジで温めるだけで完成。ライフスタイルに合わせて7食・14食・21食コースから選択できる。

「少しでも調理したい」「自分好みに調整したい」というニーズに対応し、食材と調味料をセットにしたミールキット

「食体験」や「満足感」を重視する傾向が増大

同社にとって盲点だったのは、「ヘルシーな食事をしたい」というニーズはあっても、それをずっと続けるモチベーションの維持が難しいという声が多かったこと。三ツ星ファームの主力商品であるおかずプレートは女性がちょうどいいくらいの量に設定しているので、男性だと少し足りないことがある。そこで2個食べたり、ほかのおかずを追加したり、ご飯を大盛にしたりして、結局は大盛になってしまう。

そこで、「今日は好きなものを思いっきり食べたいと気分」の時に対応できるように「メガ盛りのメニュー」を発売したところ、大好評だったという。また本格ナポリピザなど、健康面だけでなく美味しさに振り切った商品も好評。「『さっぱりした和食メニューを増やして欲しい』『胃にやさしい食事が欲しい』といった要望も多いのですがが、実際には肉を使用したメニューがよく売れているのです」

過去の売れ筋メニューから、利用者の潜在ニーズを分析

「つまりお客様は、栄養的な基準を満たしていて時短で調理できるという前提があれば、よりボリュームのあるもの、本格的なおいしい料理を食べたいのです。また過去の売れ筋メニューをより深く分析していくと、お客様が食に求めているものが単に栄養補給だけでなく、食べることの幸せ、コミュニケーションの手段、季節を感じる手段、つまり『食体験』を非常に重視されるということがわかりました」

これからのニーズとして、「健康とおいしさの両立」「ライフスタイルの合わせた食提案」「新しい食との出会い」「食のエンタメ化」などを挙げている

そこで三ツ星ファームでは、利用者の購買体験を重視して、大きく2点のアップデートをすることにした。そのひとつが、商品のバラエティ、点数の大幅拡大。11月にはホットスナック、12月にはクリスマス商品、1月にはミールキット、2月にはパスタ、3月にはメンチなどの新商品を投入し、現在約150種類の商品を2024年3月までに200種類程度に増やす計画だ。

ミールキットや主食系メニューなど、新カテゴリを追加していき、メニュー数を2026年3月までに200種類まで拡大する予定

2点目は購入方法の多様化で、従来の定期便コース(7食、14食、21食)に加え、柔軟な食数の変更や単品商品の追加購入を可能にする。

従来の3つの選択肢からプランを選択後、必要に応じて食数の追加が可能になり、単品でも購入可能な商品を発売する

お披露目会では、三ツ星ファームのメニューの栄養面の監修をしている管理栄養士 Shie氏による調理デモンストレーションも行われた

「これからの 三ツ星ファームが目指すのは、唯一無二の食品総合ECサイトです。リアル店舗のセレクトショップのようなものをウェブで作りたいというのが我々の思いです」(本間氏)

今年はクリスマスが平日のため、パーティー用の食事の準備が簡単にでき、ケーキを用意するだけで食卓が華やぐクリスマスエディションを提案

冷凍宅配のサブスプリクションは近年競争が激しくなり、差別化のためのパーソナライズが進みすぎていて、自分の好みに合うものを見つけるのがかえって難しくなっているように感じることがある。多種多様なメニューを提供するという三ツ星ファームの戦略は近年のトレンドの逆張りのようにも見えるが、それが奏功しているのは、EC戦略のプロ集団でもあるイングリウッドの運営だからかもしれない。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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