在庫の考え方・管理

長山 衛

ネットショップを開業し順調に成長していく中で悩みの種は、仕入れ販売・製造販売の業態に関わらず在庫管理です。在庫がなければ商品を売ることは出来ないわけですが、在庫を抱えることは大きなリスクが伴うのは容易に想像出来ます。

在庫のバランスが売上に直結するため、在庫をどのようにして低リスク化させるか商売において非常に重要になります。低リスク化は「準備」と「販売」で対応可能です。実例を見ながら、改めて在庫について考えていきましょう。

■準備:おせち戦略で考える在庫リスク

弊社では、おせち販売店舗を数多く対応させて頂いておりますが、おせち販売で失敗した事例もよく見てきました。ご相談頂く店舗に共通して多い内容が「前年在庫を残してしまった。売上は作れたが利益は赤で、今年失敗すると事業撤退を考えなくてはならない。」という厳しい相談です。

おせち販売はそもそもが相当にリスクが高い商材となりますので、1度の失敗が事業そのものを揺るがします。私の経験上、おせち戦略の究極ポイントは2つに集約されます。

①経験がモノを言う販売予想精度
②フレシキブルな製造インフラ

現在、おせち販売が成功(利益化)している店舗はこの2点を徹底しています。販売予測精度は経験値が何より必要となりますが、弊社のような支援企業もいますし、モール運営しているならば担当者へ確認する事である程度は解決出来るでしょう。尚、弊社では5パターン程の予測シミュレーションを週単位で分析しています。

そして、店舗側で考えるべきは製造インフラの柔軟性をどこまで持たせられるかです。おせち製造は大量生産系であれば基本的には工場生産となりますが、製造ラインの変更は難しいものです。しかし、弊社が対応する場合には、この点は徹底して改善要望を出します。前述の通り「おせち販売自体がリスク」であると認識し、その上で販売を考えるならマストです。

在庫を残す事を恐れて守りに入るのではなく、在庫調整に幅を持たせることで攻めに転じる。在庫に振り回されるのではなく、在庫を上手に操る事が成功の肝となります。おせちに限らず全ての販売戦略で重要な考え方となります。結果として、弊社は多くの店舗を成功に導く事が出来ました。

■販売:在庫管理システムを有効活用せよ!

私が10年以上前にネットショップを運営していた当時は、在庫管理と言えばエクセルで毎日のように実在庫と店舗在庫の擦り合わせを行い手動入力で対応していました。人海戦術でしたので、当然ながらヒューマンエラーが発生します。せっかく商品をご購入頂いたのに「申し訳ございません。」と謝罪することで、本来の業務以外に時間がかかっていたことを思い出されます。

その後、在庫管理システムが登場し、導入を進めたことで業務は大きく改善されました。(現在、在庫管理システムは数多く開発されています。自社の規模等によってもマッチするシステムは異なりますので、最初から一つに絞るのではなく、気になる企業へ全て問合せすることを推奨します。)

在庫管理システムを導入するメリットは下記となります。

①販売機会損失の解消
②デッドストックの解消
③時間的損失の解消
④ヒューマンエラーの解消
⑤人件費の削減

①販売機会損失の解消
例えば多店舗展開している場合、A店では在庫切れ、B店では在庫10個となる事があります。在庫切れのタイミングで直ぐにB店からA店へ在庫移動出来れば販売機会損失を解消出来ます。

②デッドストックの解消
販売機会損失に繋がりますが、結果としてデッドストックの解消になります。

③時間的損失の解消
在庫管理は売上に直結するため非常に重要ですが、一方で仕事自体はルーチン作業に近いものです。重要な分、責任者の確認作業も発生したり本来の業務以外の時間的損失に繋がりますがこれを解消します。

④ヒューマンエラーの解消
システム導入の最大メリットになります。ヒューマンエラーは一つ発生すると、他の関連個所も洗い出す必要があり、対応には想像以上の時間を要しますがこれを解消します。

⑤人件費の削減
システム初期導入経費は発生しますが、一過性のものでランニングコストは同じ作業を対応する人件費と比較すると大幅に削減出来ます。

以上のメリットは表面的なものとなりますが、実際にはこれ以上のメリットが生まれます。

それは店舗が本来考えるべき「商品開発」や「企画」に時間をかけることが出来るようになります。有限の時間と頭脳を「戦略立案と実行」に集中することで、結果として売上向上にも繋がりますし、私の経験でも事実大幅に改善し、事業のスリム化に成功しました。

■まとめ

在庫の考え方として、いかにデッドストックを解消出来るかがポイントになります。そのためには、「準備段階での体制作り」と「販売してから運用段階での業務効率化」について記載しました。在庫の考え方を理解すれば、業務の選択と集中が見えてきます。情報収集力・思考力・実行力をいかに最大限引き出すことが来るか今後のEC展開において必要不可欠です。業務の選択と集中は誤った方向に進むと競合他社にあっと言う間に追いつかれ、追い抜かれていきます。

成功店舗を見て頂くと「商品力」と「企画力」が目立つと思いますし、それが店舗の独自性(個性)に繋がり、お客様のファン化まで一貫して作り上げています。在庫という一つの業務だけを見るのではなく、俯瞰的な視点でネットショップ運営全体を見ることが必要です。


著者

長山 衛 (Mamoru Nagayama )

現役ECデザイナーとして撮影からデザイン制作を前線で行い、
楽天市場等で数多くの優秀賞を受賞。ECおせち販促師として
各種メディアに取り上げられ、著書に『食品ネットショップ10倍売るための教科書』(日本実業出版)、
他「日本ネット経済新聞」にて「売れるデザイン演出テク」コラム連載(2012年5月~)。
EC運営者のスキル認定資格「ネットショップマスター認定講座」のカリキュラム監修担当。
経済産業省後援事業「ドリームゲート」認定専門家。
またアーティストとして、さくら水産のテーマソングを作詞作曲しカラオケ化。

企業URL:http://www.netshop-soken.co.jp/