[第1回]オムニチャネルは手段の一つでしかない
みなさま、初めまして。
イギリス生まれの自然派化粧品ブランド「ザ・ボディショップ」でEC運営/オムニチャネル推進を担当している斉藤です。
ECサイトが誕生以来オンラインとオフラインの融合・共存共栄の考え方は「O2O」から始まり「オムニチャネル」へ進みました。数年前までトレンドであった「オムニチャネル」も広く認知され定着したと感じます。しかし「オムニチャネル」の成功企業は数が限られているのではないでしょうか。
「オムニチャネル」は企業によってカタチを変えるオーダーメイドと言ってもよい施策、ザ・ボディショップの取り組みがみなさまのビジネスのヒントやチャレンジのきっかけになれば幸いです。
ザ・ボディショップとは?
ザ・ボディショップは創業者アニータ・ロディックがある画期的なことを確信したところからスタートしました。それは、「ビジネスは世の中を良くする力になり得る」ということ。この信念のもと、1976年にイギリスでザ・ボディショップは誕生しました。
日本では1990年、表参道に第1号店をオープン。現在は全国で約110店舗展開しています。
ザ・ボディショップの売上構成比
ザ・ボディショップの売上構成比は「実店舗90%・EC10%」です。
化粧品・医薬品のEC化率は5.27%(経済産業省: 平成 29 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)より引用)であることから考えてもザ・ボディショップのEC化率は業界水準よりも高いことがわかります。
EC化率が高い理由として生活者の利便性を重視した仕組みへの取り組みの早さがあげられます。
当社が最初にECサイトを立ち上げたのが2005年。以降、各主要モールへ出店(現在は楽天、Yahoo!ショッピング、Wowma!、Amazon)することにより「欲しい時に多くの場所で買える」環境をいち早く作り上げました。
2013年に店舗会員とECサイト会員の会員ID統合を完了、当社の会員プログラム(LOVE YOUR BODY カスタマークラブ)のサービスをオンライン、オフライン問わず提供できるようになりました。
2014年に自社アプリをリリースし、デジタル会員証や購入履歴の確認などいつでもどこでも「ザ・ボディショップ」と触れていただける環境を実現、プラスチックカードを持たないECサイト会員であっても実店舗で会員証を提示しやすくなり、オンラインとオフラインの自由な行き来がより活発になりました。
時代の潮流をとらえ生活者にとって何が必要であるかを考え、いち早く取り組んだ結果、高いEC化率を実現しています。
デジタルは小売の現場ではまだ主流と成りえない
当社のEC化率が高い理由をお伝えしましたが、それでも90%はオフラインで購入されています。
物販系で最もEC化が進んでいる「事務用品・文房具」でもEC化率は37.38%(経済産業省: 平成 29 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)より引用)、60%を超える売上がオフラインで作られています。
2019年初めに2018年のデジタル広告費がテレビ広告費を初めて追い抜いたというニュースが話題になりました。広告の世界では今後主流を担っていくデジタルですが、小売の現場ではまだ主流と成りえていません。
デジタルがオフラインの現場にどんな良い影響を与え、生活者にどんな新しい価値をもたらすか、その手段の一つが「オムニチャネル」です。
オムニチャネルは小売業にとって必須ではない
オムニチャネルについてコラムを書いている立場ではありますが、筆者はオムニチャネルは小売業にとって必須ではないと考えています。
2つ大きな理由があります。
-1.オムニチャネルは手段の一つでしかない-
前章でも述べましたが「オムニチャネル」は生活者に価値を提供する手段の1つでしかありません。
「オムニチャネル」を行ったから価値を提供できるのではなく、生活者に価値を提供できる仕組みを重ねていった結果、オムニチャネルと呼ばれるようになった。これが本質であるべき姿だと考えます。
数年前「オムニチャネル」がバズワードになった時期、「これからの時代はオムニチャネル」と考え顧客情報の統一化、在庫の一元管理に挑戦した企業も多いのではないでしょうか。一元管理実現のその先に生活者へどんな価値を提供できるのかを見いだせていないがために、手段の目的化となってしまうこともあります。
なぜ手段の目的化になりやすいのかは2つ目の理由と関係があります。
-2.オムニチャネルはテンプレート化できない-
企業によって顧客データ、在庫データ、購買データの持ち方は異なります。さらに同企業内であってもデータの持ち方が異なるのは珍しいことではありません。
例
・複数の管理システムが稼働しておりエクスポートに柔軟性がない。
・姓名や電話番号などデータの持ち方にバラつきがある。
・紙の顧客台帳を使用しておりデータ化されていない。
また企業により文化や風土、各部門の力関係も異なるため成功企業のフレームをそのまま当てはめることができません。
そのため、オムニチャネルを実施するにはデータの整理だけではなく社内を横断した調整が必須となります。そしてその作業ボリュームは非常に大きく、多くのタスクが発生するため本来の目的を見失い、手段の目的化となりやすいのです。
極論となりますが目的化したオムニチャネルにリソースを消費するのであれば、店舗の接客や陳列にリソースを割り当てた方が顧客満足度は高まるかもしれません。
しかし、ザ・ボディショップはオムニチャネルを推進しています。
それはなぜなのか?
「オムニチャネルを推進する理由」「どのように環境を作ってきたのか」「今後のオムニチャネルの展開」などについては、次回よりお伝えいたします。
[第2回]ザ・ボディショップがオムニチャネルを推進する理由
https://ecnomikata.com/column/22178/