ECの人材と育成について 第2回:どういう人がEC担当者に向いている?【前編】
EC の人材の獲得と育成について、結論から言ってしまうと、獲得は外部人材の募集を実施して、もしよい人が見つかれば採用するといったくらいのレベル感で、ただ、必要なタイミングで必要なレベルの人が見つかる可能性は低いため、結局、内部育成していくことになるということです(これは、ECに限らず、筆者が得意とする新規ビジネス全般に言えることです。DX、デジタルビジネスをはじめ、アナログでの新規ビジネスなどもです)。この連載では、どのスキル、人材がEC業務に向いているか、どう育成していくかを、事業者側視点で書いていきます。連載(全6回)の第2回は「どういう人がEC担当者に向いている?」【前編】です。
EC担当者のキャリアアップ
人材のタイプや育成にフォーカスする前に、この組織の中でのキャリアップはどういったものになるか考えてみましょう。
大枠には、各機能職のなかの役割(タスクレベル)からはじめ、複数の役割を担当していき、次に複数の機能職を担当し、EC全体の役割にかかわっていくということでしょう。ECビジネスの中であれば、事業またはビジネス責任者が最終的なポジションかもしれません。それから先は、EC以外のビジネスの役割を担当し経営層となっていく場合、社内にデジタル素養のある人材が少ないときには、EC以外のオンラインマーケティングを担当することや、システムやDXを担当することになる場合もあると思います。
例えば、マーケティングの中でのメルマガ作成⇒メルマガの企画/運用⇒複数のマーケティングの役割を担当⇒マーケティングに加えMDも担当⇒さらに制作なども担当⇒サービスの追加やサイトのリニューアルも経験⇒EC全体の事業責任者または準ずるポジションになる、などでしょうか。もちろん、どこかの段階で守備範囲を広げるのではなく、ある特定のファンクションにおいてレベルをより上げていく専門職的になるキャリアもあります。
EC担当者は、EC事業者の中で、また、これから取り組もうとしている事業者にとっても、非常に不足しています。少しでも関わった人は、人材紹介に登録するとすぐにオファーが届きます。なので、社外に向けてのキャリアップも多いといえます。ただし、あまり身についていない段階では、新しい環境下においても結局自力で身に着けるか/育成してもらうということになります。できれば、EC業務の中のどの分野かだけでも胸を張れるレベルになってからの転職がよい気はします。
しかしながら、社内の人材や新卒で賄うよりは、ほんの少しの経験だけの外部からの人材でも、採用して育成するほうがよいという考えもあります。筆者がいた事業会社でも、支援してきたクライアント企業でも、そのような人材を採り、育成して戦力化することはよくやっていました。とはいっても、育成する側の人がいないと大変でしょう。
どんな人がEC担当者に向いているか?
いきなりECの責任者にという場合を除きますが、特に「向いていない人」というのはないと考えています。あえて言えば、これまでの経験に固執するか、引きずられるかどうかということはマイナスの要素になります。その前提のうえで、まずは、
・ネット、ECに詳しくなくても構いません
早く馴染んでもらえればさえということであれば、自身でECを使い買い物をある程度している人、PCやスマホを使える人、といったレベルです。
逆にブランディングのオンラインマーケティングに特化しすぎた経験のある人や、EC経験者であってもこれまでの取り扱い商材の価格や顧客層が大きく違う場合などは、感覚や意識を変えるのに時間がかかる可能性もあります。
今は違いますが、EC創成期には、ECやネット、システムに趣味的に詳しい人が配属されてきて、そういう人は、自身が仕事外で得てきた知識などにこだわりがありすぎ、ビジネス(業務)レベルにシフトチェンジするのに時間がかかっていました。なので、趣味的に詳しい人は向いていないとしていましたが、今はそんな状況にはあまりないようです。
・デジタルにだけまみれているのではなく、こつこととした地味な作業もできる人
逆に多くの業務は、デジタル技術、スキルだけを使って遂行しているわけではなく、登録やチェック、説明作りなどアナログな地味な作業も多いので、そういったことをいとわない人です。
・既存のメインビジネスの基幹となっている部門や業務からの人材
会社が他の事業をしていて、その事業がECに大きくかかわっている場合は、既存のメインビジネスの基幹となっている部門や業務からの人材、小売で言うと販売、MD、物流などからの人材は、実はECに大きく向いています。
本人がやりたいやりたくない、好きか嫌いかは別にすると、実は、実店舗小売や通販などに関わっていた人はすべてEC担当者に向いています。
特に商材が同じ場合は、ぜひともという感じでしょうか。意外に思われる方もいるかもしれませんが、店舗などのリアルでの経験は、ほとんどがECでも大いに役立ちます。ECの知識を身に付けるよりも、商品特性や顧客との感覚を身に付けるほうがものすごく時間がかかるのです。若い方には違和感があるかもしれませんが、ECはまだ歴史の浅い分野ですので、ある程度の業界標準のレベルになるのにそんなに時間はかかりません。逆に販売やMDの仕事は、認められるレベルになるには大いに時間がかかります。
ただ、そんな貴重な他部門からの人材のEC担当者への育成に重要なのは、リアルではない業務の存在、時間軸やメディア特性などいくつかある、それが決定的となる「リアルとの違い」を認識、腹落ちしてもらうことでしょうか。逆に他は素晴らしくても、この認識、腹落ちができない人は向いていないと言えます。
さらに適していることをいうと、既存ビジネスで実績を持っている人は、関連する他部門との関係性の改善/維持、そして、いろいろなことの依頼をしやすいというメリットもあります。既存ビジネスと関連しているということは、後から始まったEC側からの関連ビジネス部門への関連、依頼事項が多く、関連部門の担当者にとっては、これまでのやり方を変えざるを得なくなることや、または、ECにかかわることで業務が増えてしまうなどがあります(多いです)。それをお願いする際に、既存ビジネスのことを全然知らない担当者や既存ビジネスで評価されていなかった人が依頼に行ったとしてもなかなか簡単ではありません(会社全体の方針で決まっていても、現場では違いますので)。そこで実績のある担当者がいけば、「あいつの言うことだから聞いてやろう」とスムーズに運ぶということなどです。
向いていない人
上記しましたが、あえて言えば、これまでの経験に固執するか、引きずられる人は向いていないと言えます。時間が経てば解消される人であっても、解消までの期間では向いていないわけです。
・その流れでいうと、同じ業務を長くやりすぎていて、新しい業務や考え方を受け入れられなくなってしまっている人は(ECに限らず新しい業務には)向いていません。若い方にはわかりにくいかもしれませんが、長く同じ仕事を同じやり方で同じ環境でやってきた人には、自身の関連する業務の範疇から外れてしまうと、頭が真っ白になり思考停止してしまうようなことがあります。短期で切り替えができればよいのですが、元の業務ではとてもできる方なのに、ECではある程度時間をかけても全く駄目だったという場合もあるわけです。
・上記した決定的となる「リアルとの違い」をどうしても認識、腹落ちできない人も向いていません。
・後は、他の業務でも同じように、仕事ができない人、仕事をしたくない人といったレベルでしょうか。
・ハードワーカーでない人? 納期意識の低い人?
まだまだ新規ビジネスと捉えられることの多いECなので、業務が他の部署の後工程となることが多く、開始が遅い時間になることや締め切りまでの時間が短くなったりもします。また、新しいことが多いためはっきりしないこと、手順がわからないのに、決められたサイトでの公開や納期までに仕上げなくてはいけないことも多くなり、ハードワーカーでないと向いていないかもしれません。さらに、次々に新しいツールや手法が登場してくるため、その導入は通常の業務にプラスされるので、忙しくなるわけです。望ましい要件でよく言われる「地頭がよくて、コミュニケーション能力が高くて、ハードワーカーな人」そのものなのですが、それは単純に、どんなビジネスでも欲しい人材ではあります。
・新しいだけで考えもなく飛びついてしまう人、バズワードに惑わされやすい人は、向いていません。
この手の人がいると、優先順位が混乱しますし、リソースの浪費となりやすいからです。であれば、新しいこと、デジタルに抵抗のある人をEC要員として育成したほうがましとも言えます。