楽天が贈る、三者のニーズに応えた新たな野菜販売のカタチ
ある動画の中でかつて、みかん農家を営んでいた婦人がポツリとこぼす。「(農業を続けるのは)もう、いいのよ」と。そして画面は切り替わり、「本当にいいのか?」という問いが画面に現れる。
既存の農家と新規就農希望者、そして消費者をつなぐことによって、これまで紡がれてきた農業の歴史を継承しながら、新たな野菜の販売方法が提示された。
ITが農家と消費者を繋ぐ
本日、楽天株式会社(以下、楽天)と広島県神石高原町が地域経済及び社会の発展を目的とする、農業に関する連携協定を締結。農家と消費者をITで結び、新たな野菜販売をカタチにする取り組みが発表された。
今回連携協定を結んだ神石高原町は広島県中東部にある人口約9,300人の町だ。この町は広島県の約1/20もの土地があるにもかかわらず、そのうちの耕作地は4%。しかもその中には耕作放置地もあり、少子高齢化や農業の負担の大きさがそれらの課題となっていた。
そもそも全国的に見ても1960年代に1,450万人いた農家人口は、2015年には210万人、平均年齢は66.8歳にまで引き上がった。その背景には販路が限られていることや天気に左右されてしまうなど、不安定なビジネスであり、その結果新規就農が進まないというものがある。
そこで楽天は今年4月、日本の農業が直面する課題解決への寄与を目指し、子会社である株式会社テレファーム(以下、テレファーム)とともに「Rakuten Raguri(ラグリ)」(以下、Raguri)を開始。新規就農希望者とスタートアップや後継者不足に悩む農家と新規就農者を引き合わせる継承支援などを行ってきた。
欧米の仕組みを取り入れた、新しいビジネスモデル
今回の連携協定により、4つの施策に取り組む。まず1つ目に「Ragri CSA」。CSAとは欧米で増加している契約形態の一つで、今回の取り組みで言えば、前払いの会費で農作物を育成し、収穫をしたものを消費者に届けるというもの。消費者が購入したい農作物を決め、対応可能な農家の中から好きな農家を選択する。成果に対して費用が発生するものではなく、農地の区画売りかつ農作業に課金するシステムであるため、農家は安定した収入を得ることができるのだ。
野菜が育っている様子を写真などで消費者に伝えることによって、農業をサービス業に変えてしまおうというのもユニークだ。ユーザーは収穫までの栽培の様子を見ることができるため、まるで自分が育てているような感覚で観察ができ、最後には産地直送の新鮮な農作物を得ることができる。
2つ目が「Ragri コネクト」。農家とユーザーが直接コミュニケーションできる場を提供し、「Ragri CSA」へとつなげる。
3つ目に「Ragri ブリッジ」。これは継承者不足に悩む農家と新規就農を望む人々とをマッチングするシステムで、後継者として研修生を迎えることにより、引退を控えた農家の人々が農地を管理しながら年金に加えた収入を得ることができる。
4つ目が「Ragri リクルート」。通常新たに農業を始めようとすれば、まずは土地を買う、もしくは借りることから始まり、農機具の購入など費用は嵩む。ベンチャー企業の支援と同様に、新規就農者に対して土地や農機具を貸し出し、支援をしていく。
地方創生の活性化に新しいカタチのEコマースを
今後はこれらの取り組みを全国各地に広げ、「Ragri CSA」で消費者が選択できる野菜の種類の多様化を図っていく。また、JAなどとも連携を図り、楽天市場での販売や楽天トラベルによるツアーの実施などが構想としてあり、楽天にとっても大きな柱となることが想定されている。
ただただ、楽天市場での販売を促すのではなく、対象者のニーズに合わせて楽天の持つサービスを提供していくという取り組みも、楽天のさらなる成長がうかがえるのも面白い。
「農業をやってみたい」という声はよく聞くものの、実際に市民農園にチャレンジしても本業との並行や、高齢化により継続が難しくなる例が後を絶たない。しかし、今回の取り組みでは消費者がまるで農業を体験するような感覚でプロの育てた新鮮な農作物を得ることができ、それが農家の支援となる。
もちろん、本来であれば自分の手で育てて、自分の手で収穫し、食卓へ運ぶことができれば、どれほど素晴らしい事かとも思うが、実現には数々の問題を解決しなければならない。しかし、だからこそ、これらに対する一つの提案としてこのようなビジネスモデルが生まれ、新たな雇用が生まれたのだ。
まだまだ始まったばかりではあるが、少子高齢化や雇用問題、国産品の充実など様々な問題を解決する術を持っているとも言えるこの取り組み。ECを含めるインターネットが実現させる地方創生の一つとして注目をしていきたい。